アメリカのドラッグ(女装)ショーを観に行くと、必ずと言って良いほど、引用されるゲイのカルト映画っていうのがあります。
メイ・ウェスト、ジュディー・ガーランド、ベティ・デイビスらが出演していた古い映画は、ドラッグクィーンでなくても、アメリカで育った(?)ゲイならば(ボクぐらいの世代のおじさんのゲイということ)、必ずと言っていいほど観ているはずなのです。
ボクが渡米直後(1981年)に、初めてドラッグショーを観た時には、元ネタの映画や女優の存在自体をを知らなかったもんだから、笑いどころやパロディの面白みがまったく理解出来なくて、歯がゆい思いをしたものでした。
映画の元になった舞台版の「ジプシー」は、実在したストリップの女王・ジプシー・ローズ・リーの回想録を元に「ウエストサイド物語」のスタッフらが製作したミュージカルです。
まず、物語の設定だけでも、ゲイが好むキャンプな世界を連想させます。
ただし、物語の”主人公”はジプシーではなく、ステージママとして冷酷な母親として描かれるローズの方です。
娘のジプシーは、新人若手女優によって演じられることがお決まりの”脇役”として、オリジナルでは描かれています。
母親のローズ役というのは、舞台の初演で演じたエセル・マーマンという太々しい態度のブロードウェイの大御所ミュージカル女優が作り上げたイメージが強く、この映画のロザリン・ラッセル(ピクニック)を含め、その後、ブロードウェイの舞台でローズ役を演じたアンジェラ・ラズベリー、タイン・デイリー、バーナット・ピーターズ、ベット・ミドラー(テレビ映画)に、強い影響を与えているようです。
映画版の「ジプシー」では、当時人気若手女優だったナタリー・ウッドが、娘役を演じたため、ジプシーの役柄にもスポットライトを当てて、より母親と娘の葛藤が濃く描かれるという・・・ボクには大変好ましいバージョンとなっているのあります!
当時は純粋可憐な若手女優であった・・・”あの”ナタリー・ウッド(公開は「ウエストサイド物語」の翌年)が、ストリッパーを演じるということで、話題になったのはいうまでもないでしょう。
さて、物語はルイーズ(後にジプシー・ローズ・リー)が、母親ローズと妹のジューンとミュージカルナンバーを公演しながらどさ回りをしている子供時代(1920年代)から始まります。
さて、物語はルイーズ(後にジプシー・ローズ・リー)が、母親ローズと妹のジューンとミュージカルナンバーを公演しながらどさ回りをしている子供時代(1920年代)から始まります。
彼らはヴォードヴィルと呼ばれる劇場を渡り歩く芸人一座なのですが、お人形さんのような金髪で歌のうまい妹のベイビー・ジューンが、この一座のスターです。
「Let Me Entertain You 」と、なんとも意味ありげなタイトルの歌が彼らの唯一(!?)の人気の出し物なのですが・・・歌詞がスゴイ!
歌っているベイビー・ジューンは、まだ子供なんだから!
ちょっと長いけど引用しておきます・・・のちの伏線となる歌詞なんで。
Let me entertain you
Let me make you smile
Let me do a few tricks
Some old and then some new tricks
I'm very versatile
And if you're real good
I''ll make you feel good
I want your sprits too fine
So let me entertain you
And we'll have a real good time, yes sir
We'll have a real good time
あなたを楽しまさせて
ニヤっとさせてあげるわ
いくつか”カマ”かけてあげる
古いテクも、新しいテクもあるの
私は合わせるのが、すごく上手なのよ
あなたがイ~子にしてたら
気持ち良~くしてあげるわ
気分良すぎるぐらいにしたいの
だから、楽しまさせて
私たち楽しい時間を過ごせるはずよ、旦那
私たちで、すご~く楽しみましょう
註:正確な翻訳ではなく、エロっぽく意訳アレンジしています・・・あしからず。
この歌をロリータっぽく歌うベイビー・ジューンの後ろで、姉のルイーズは少年の格好をしてバックダンサーをさせられています。
母親のローズはスターであるジューンばかり特別扱いしているのですが、母親から「おまえには才能がない!」と常日頃言われ続けていたルイーズは、何ひとつ不平も言わず従順に従っているのです。
ところが、姉妹がティーンエイジャーになった頃、妹のジューンは男とデキちゃって駆け落ちをしてしまい、一座はバラバラになってしまいます。
それでも諦めない母親のローズは、急遽今まで冷たくあしらっていたルイーズをスターに仕立て上げて劇場に売り込もうと画策するのです。
しかし、特別に歌の才能がないルイーズが雇われたのは、お色気のミュージカルレビュー(ストリップ)を売り物にするバーレスクのストリッパーとして、でした・・・。
ちょっとしたギミック(面白いアイディア)があれば、歌や芝居が出来なくてもストリッパーだったら売り出すことが出来たのです。
いざ、舞台に出る前になって、ルイーズは鏡を見てこうつぶやきます・・・「Mama! I 'm pretty. /ママ、私ってキレイだわ!」
そして「ジプシー・ローズ・リー」という芸名を与えられて、ルイーズはストリッパーとして目覚めていくのです。
ルイーズは、ストリップの”いろは”も知らない素人・・・それを逆手にとって、ストリップティーズ(焦らしのテクニック)として昇華させていくことによって、ジプシー・ローズ・リーは、たちまちバーレクスショーの看板スターになっていきます。
見所は、かつて妹ジューンのお得意のナンバーだった「Let Me Entertain You!」の歌に乗せて、ジプシーは徐々にストリッパーとしての自覚と自信に目覚めて、ドンドンと大胆になっていくシークセンスです。
ゲイカルトとしてのボクの”萌えポイント”は、ストリップの大スターとなったジプシーの前に、ローズが訪ねてくるシーンでしょう。
昔のように、あれこれとステージの演出のアイディアや、上流階級にチヤホヤされているライフスタイルに、口出しを始めた母親に対して・・・ジプシーは訴えます。
Look at me, mother ! I'm a STAR!
ママ、私をみて!私はスターよ!
これこそ、誰もが(?)女優気取りで言ってみたい台詞のナンバー1ではないでしょうか?
ナタリー・ウッドの感情を抑えながらビミョーに震えながら「スター」と発音するところが絶妙・・・心を揺さぶる見事な台詞回しです。
自分の努力で獲得したストリッパーの女王というスターダムの、”一瞬”、”一瞬”を楽しんでいるんだ・・・と!
母親のローズは自分の叶えたかったスターになる夢を、娘たちに押し付けていたことに気付き「今度こそ、私の番だ!」と、高らかに歌い上げます。
ローズのように、自我が強くて自分勝手な母親・・・というのは、ゲイにはお馴染みのようで、アメリカのゲイのお気に入りの役柄のひとつであります。
また、ルイーズがジプシー・ローズ・リーとしてストリッパーとして才能を開花させるという・・・まったくもって素敵に場末(!)な世界観も、ゲイの理想とする輝かしいキャンプなスターダムではないでしょうか?
映画版「ジプシー」は、”一粒で二度美味しい”母親と娘の、どちらにも「なりきって」楽しむことのできる・・・ボクにとっては、ゲイの手習いの必須ミュージカル映画として、今でも君臨しているのであります!
「ジプシー」
原題/Gypsy
1962年/アメリカ
監督 ; マーヴィン・ルロイ
原作 ; アーサー・ローレンツ
作曲 ; シュール・スタイン
作詞 ; スティーブン・サンドハイム
出演 ; ナタリー・ウッド、ロザリン・ラッセル
註:復刻シネマライブラリーより日本語字幕付きの国内版DVDが、2018年5月28日に発売されました!
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