2018/09/22

フランコ政権下でつくられたホモエロティックなミュージカル映画・・・主演男優アルフレッド・アラリア(Alfread Alaria)とシュールなダンスナンバーの妖しすぎる魅力~「ディフェレンテ(原題)/Diferente」~


”マニアック”にも「ほど」があるというのは、以前ジャック・スカンドラリ(Jacques Scandelari)監督について書いたとき(めのおかし参照)に思ったものでしたが・・・今回、取り上げるスペイン映画「ディフェレンテ(原題)/Diferente」も「そもそも、この映画のことを、誰が知っているのだろうか?」と首をひねってしまうぐらい超激マイナーな一作なのであります。

偶然ネットで、ゲイカルチャーについて書かれた文章の中に、本作のタイトルを発見したのですが、この作品について書かれているのはスペイン語の記事が殆どで・・・英語で書かれたモノさえ僅か、その内容も”コピペ”での使い回しで同じ内容ばかり。しかし、何故か”YouTube”に映画本編そっくりアップされており(残念ながら英語字幕もなく、スペイン語音声のみですが)本作のただならぬ”魅力”に、すっかり取り憑かれてしまったのです。

アルフレッド・アラリア(Alfread Alaria)演じる主人公アルフレッドは、ヴォードヴィル(?)のステージでエンターテイナー(ダンサー、歌手、ピアノ弾きをこなす)で、ビートニクスの集うバーで喧嘩に明け暮れている放蕩息子・・・権力者である父親と父親思いの弟が改心させようとするという物語なのですが、アルフレッドがエンターテイナーとして出演する舞台と、アルフレッドの幻想の中で演じられるミュージカルナンバーが、本作の”みどころ”なのであります。

本作の半分くらいがミュージカルナンバーのような印象ということもあって、スペイン語の台詞が分からず、ドラマ部分で何が起こっているかイマイチ理解できないボクでも楽しめてしまったのです。考えてみれば・・・”フラメンコ”という完成度の高いダンスのあるスペインは、そもそもミュージカルとは相性が良いのかもしれません。(あまりスペインのミュージカル映画というのは、英語圏では知られていないだけかもしれませんが)

本作で監督をつとめたルイス・マリア・デルガードは、1950年代から1990年代までスペイン映画界で活動・・・本作では、表現主義的なカメラアングルや構図、くすんだ絵画のようなカラー設計など、アーティスティックな画面構成が独特ではありますが、さまざまなタイプの作品を手掛けていた(特にミュージカルが得意だったというわけでもなく?)職業的な映画監督だったようであります。


フランコ政権下では、同性愛は厳しく取り締まられていたので、ゲイの主人公の映画をスペイン国内でくつくることは禁じられていたはずなのですが、本作は”ゲイゲイしい”妖しさに満ちあふれているのです。これは、原作および脚本にも参加して、自ら主演しているアルフレッド・アラリアの存在が大きく関与しているのかもしれません。


アルフレッド・アラリアは、元々はアルゼンチン出身で1940年代からスペイン映画に出演していますが、主に舞台で歌い踊る”エンターテイナー”として活躍していたようです。アメリカでは、フランク・シナトラやサミー・デイヴィス・ジュニアとも共演したこともあるらしいので、全盛期はそこそこの知名度はあったのかもしれません。ジャン・ジュネの映画に出ていそうな美青年で、若い時のトニー・カーティスのような風貌・・・時折みせる表情は、歌舞伎役者の愛之助っぽくもボクには見えます。本作では、ジェームス・ディーンを意識していたのかもしれません。また、異様なほど(?)鍛え上げられた均整の取れた筋肉質なカラダの持ち主でもあり・・・”ゲイのサイン”を出しまくっているのです。

ここからネタバレを含みます。ストーリーについては(スペイン語の台詞が理解できないので)推測です。


フラメンコの振り付けダンスを妄想した後、アルフレッドは自分の出演するヴォードヴィルショーの舞台に駆けつけます。1920年代のジャズエイジやアメリカの西部時代を織り込んだミュージカル風のレビューを演じた後、ラウンジ歌手もしているルフレンド(サンドラ・レブロック)を追ってビートニクスの集まるバーに行くのです。そこで、ガールフレンドとの三角関係をめぐって「ウエストサイド物語」を彷彿させるダンスバトルが始まります。


翌朝、傷だらけの顔のまま寝ているアルフレッド訪ねてきたのは、父親(マニュエル・モンロイ)のお気に入りの息子の弟(マニュエル・バリオ)・・・説得されたアルフレッドは実家のお屋敷に戻ることになるのです。父親の会社で女性ばかりのオフィスに配属されれば、タイプライターを打つリズムから、アルフレッドのカラダには自然と音楽が流れだします。自分のオフィスで暇を持て余して輪ゴムで遊んでいれば、操り人形のようなダンスを妄想してしまうのです。


父親の奨め(?)で、売春婦のもとを訪れても、腰の引けてしまうアルフレッドでしたが・・・父親の仕事でついて行った工事現場で、電動ドリルを使う現場作業員の腕の筋肉に思わず見とれてしまいます。その直後、自分の同性愛的な欲望を否定するかのように(?)その売春婦のもとを再び訪ねるのです。避暑地で偶然ガールフレンドに会い、二人は豪華にセーリングに出ます。ちょっと良い雰囲気になってイチャイチャしだすものの、何故か急に態度を豹変させるアルフレッド・・・父親のもとに戻ってから以前にも増して気分屋になってしまったようです。


実家で行なわれている豪華なディナーパーティーの最中も、アルフレッドの頭の中から音楽は消せないようで、様々な雑音が楽器のように聞こえます。退屈な会話の食卓を離れて、甥っ子(?)にインディアンの物語を語るアルフレッド・・・彼の脳裏にはアルフレッド自身が踊るダンスシーンが繰り広げられるのです。ゲストから離れてひそひそ話をする父親と弟の会話が聞こえてしまったアルフレッドは、父親の元で改心することに見切りをつけて、その夜のうちに実家から逃げ出して、自堕落的な生活に舞い戻ってしまいます。


ビートニクスのバーで酒に溺れるアルフレッドは、アフリカ系の仲間の奇妙な儀式に参加するのですが・・・アルフレッドに見える幻想は、ガールフレンドも登場するアフリカを舞台としたもの。現実と妄想の違いが分からなくなったアルフレッドは、ナイフを手にしてアフリカ系の仲間を刺してしまいます。


警察から連絡を受けたアルフレッドの父親は、現場に向かう途中、車で事故を起こしてしまうのです。父の訃報を聞きつけて実家に戻ったアルフレッドを、弟は冷たくあしらいます。アルフレッドが自責の念で嵐の中で佇む姿で映画は終わります。


主人公の幻想がミュージカルナンバーになるというのは「パリのアメリカ人」のエンディングの手法と同じですが・・・本作では、アルフレッドがお客に演じているショーやビートニクスのバーでのダンスを加えて、7つもミュージカルナンバーがあるのです。それが、それぞれ違うタイプの音楽やリズムを取り入れながら、フラメンコをベースにしており、ハリウッドミュージカルとは違う魅力に溢れています。

どれほど台詞で説明されているのかは分からないのですが・・・主人公アルフレッドがゲイである”サイン”も散りばめられています。ただ、検閲官の感性が本作の”ホモエロティックさ”を感知できなかっただけなのかもしれませんが、ガールフレンドはいかにもゲイが好きそうなタイプ(モニカ・ヴィッティっぽいクールな美女)だし、アルフレッドの衣装は妙に股間がもっこりしているし、踊りの振り付けもいちいちゲイっぽいし・・・同性愛が禁止されていた状況下とは思えないほど、ゲイゲイしさが漂いまくりなのです。

同性愛者が自責の念で苦しむという内容からしても、ハリウッドのミュージカルのような突き抜けた明るさはありません。フラメンコの持ち味でもある”悲壮感”をどこかしら感じさせます・・・とは言っても、カルロス・サウラ監督のフラメンコ映画のような”ストイックさ”とは無縁で、”ドラマクィーン”の恍惚感のような”キャンプさ”が炸裂してるのです。

本作は本国スペインでもメディア化(ビデオやDVD)されておらず、文献の少なさから推測すると、スペイン国外で公開さえされていないのかもしれません。YouTubeにアップされている動画も、どのような経緯で入手されて、アップされたのかも謎です。「ディフェレンテ」は再発見されて欲しい(のに)世界的に忘れられてしまっている「ゲイ映画」なのであります。


「ディフェレンテ(原題)」
原題/Diferente
1961年/スペイン
監督 : ルイス・マリア・デルガード
脚本 : アルフレッド・アラリア(原作)、ルイス・マリア・デルガード、ホルヘ・グリニャン、ヘスース・スーソ
出演 : アルフレッド・アラリア、マニュエル・モンロイ、サンドラ・レブロック、マニュエル・バリオ
日本未公開

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