2019/09/23

「クソ映画」と「カルト映画」の狭間・・・ノーマン・J・ウォーレン(Norman J. Warren)というサイテー映画監督~「Her Private Hell」「Loving Feeling」「ザ・ショッカー 女子学生を襲った呪いの超常現象/Satan’s Slave」「人喰いエイリアン/Prey」「ギロチノイド/Terror」「Spaced Out」「悪魔の受胎/Inseminoid」「ガンパウダー/Gunpowder」「タイム・ワープ・ゾーン/Bloody New Year」~


「カルト映画」というのは”一部の熱狂的なファンを持ち語り継がれている映画”だったはずなのですが、ニッチな商業性がビジネスとして成立することから、近年、広く使われる傾向にあります。公開当時は、ほぼ無視されたような「クソ映画」も年月経つと、誰かが「カルト映画」として注目し始めて、いつの間にか”お墨付き”がついたビジネスとして成立してしまうのです。時代の感性を閉じ込めたタイムカプセルとして機能することもありますが、どれほど年月が流れようとも映画としての完成度の低さは変わらない「クソ映画」というのも存在するのですが・・・。

1980年代末期というのはレンタルビデオの最盛期・・・当時ニューヨークに住んでいたボクも、数日ごとにレンタルビデオに通い映画を観まくっていた時期でもあります。数本同時に借りると割安だったので「なんだこりゃ?」という「クソ映画」がまぎれていることも度々あったものです。そうやって「うっかり借りてしまった」ビデオの中に、ノーマン・J・ウォーレン監督の作品あったかもしれません。


先日(2019年8月12日)、ノーマン・J・ウォーレン監督のホラー系代表作品5作品を2Kリストレーションしたブレーレイボックス「Bloody Terror: The Shocking Cinema of Norma J Warren, 1976-1987」が、イギリスで発売されたのです。「イギリスのニューウェーブホラー作家」という商品説明を読んで「あれ?観たことあるかも」と記憶が呼び覚まされて、あれほど後悔した経験があるにも関わらず・・・購入してしまったのです。

収録されている作品は「ザ・ショッカー 女子学生を襲った呪いの超常現象」「人喰いエイリアン」「ギロチノイド」「悪魔の受胎」「タイム・ワープ・ゾーン」の5作品・・・約30年ぶりに観てみると100%「クソ映画」ではあるものの、奇妙な”味わい”が生まれてもいるのです。このボックスの”売り”として収録されているノーマン・J・ウォーレン監督へのインタビューがあるのですが、事細かに過去のことを記憶しているのに感心するのと同時に、とめどなく早口で語り続けるテンションに「うんざり」させられてしまうのは・・・ノーマン・J・ウォーレン監督独特のお人柄でもあります。


映画好きの母親の影響で、映画界で働くことを目指した若き日のノーマン・J・ウォーレン監督は、裏方仕事をこなして経験を積んでいきます。映画監督を目指して制作した短編の自主映画で認められて、「ハー・プライベート・ヘル(原題)/Her Private Hell」という作品の監督を任せられることになります。「ハー・プライベート・ヘル」は、イギリス映画界初の”セックス映画”ということもありヒットします。”セックス映画”と言っても、一瞬のトップレスのヌードシーンとベットインの場面がある程度です。イタリアからやってきた若いモデルの女性が男たちの餌食になってしまうという物語なのですが、当時の風俗を取り入れた”タイプカプセル”として以外は、興味深いところがありません。


続く”セックス映画”二作目の「ラヴィング・フィーリング(原題)/Loving Feeling」は、既婚者のラジオディスクジョッキーの男が様々な女性と浮き名を流すという物語で、絡みのシーンが前作よりも増えたこともあり再びヒットします。カラー映画でもあり、サイケな風俗を感じさせるタイムカプセル的な作品にはなっています。いわゆる「セクスプロイテーション映画」ほど過激な描写はないものの、当時のフリーセックスのムードを取り入れて、一躍”ヒットメーカとなったノーマン・J・ウォーレン監督・・・しかし”セックス映画”専門監督になることには抵抗があったため、三作目の監督オファーは降板してしまうのです。ただ、そもそも監督としての実力を認められていたわけではないので、その後、映画製作の資金集めには苦労することになります。


自らの企画した映画が完成したのは、それから8年後・・・「ザ・ショッカー 女子学生を襲った呪いの超常現象/Satan’s Slave」とい”ハマーホラー映画風”の作品です。キャサリン(キャンディス・グレンデニング)と両親が叔父のお屋敷を訪ねると、謎の車の事故で両親が死去・・・キャサリンは叔父(マイケル・ガフ)の屋敷で保護されるものの、実は叔父一家は悪魔崇拝者で魔女カミーラの末裔であるキャサリンを生贄にしてカミーラを蘇らせようとするというのであります。舞台となるお屋敷の雰囲気はとても良いのですが、全体的にもっさりとしたノーマン・J・ウォーレン監督らしいテンポで、キャサリンの幻想と現実が混沌としていく中でのドンデン返しは”お約束どおり”・・・それほどの恐怖もサスペンスも感じさせません。ただ、最近復元された残酷シーンのいくつかは結構エグくて、ノーマン・J・ウォーレン監督の代表作として位置付けられています。


続く「人喰いエイリアン/Prey」は、宇宙人が動物や人間を襲うという「SFホラー」なのですが・・・・レズビアンカップルの関係が並行して描かれるという不思議な映画です。地球に食物探索にやってきた宇宙人(バリー・ストークス)はアンダーソンという人間の男性の姿となって、レズビアンカップルのジョゼフィン(サリー・フォークナー)とジェシカ(グローリー・アナン)の暮らす大きな屋敷の居候となります。ジェシカには以前シモンというホーイフレンドがいたようなのですが、二人の関係を支配しようとするジョゼフィンがシモンを殺したんではないか・・・とジェシカが疑い始めます。そんな問題を抱えたレズビアンカップルの前に、アンダーソンという男性の姿で現れた宇宙人が二人の関係を引っ掻き回すのです。ジョゼフィンの束縛から逃げ出したいジェシカは、一緒に逃げようとアンダーソンを誘惑するのですが、宇宙人の野生(?)に目覚めたアンダーソンはジェシカを食い殺し、ジョゼフィンも追い詰めてしまうのです。宇宙人が犬顔メイクだけという陳腐さで、相変わらず手抜き感が満載であります。レズビアンカップルに焦点を合わせるという不可解さは、ノーマン・J・ウォーレン監督らしさでしょうか・・・?


「ギロチノイド/Terror」は、ホラー映画の制作現場を舞台にした「サスペリア」もどきの魔女伝説のスラッシャーホラー映画であります。「ザ・ショッカー 女子学生を襲った呪いの超常現象」のスタッフを再集結して、倍以上の制作費をかけたにも関わらず・・・ノーマン・J・ウォーレン監督作品の中でも「クソ映画」度の高い一作です。昔、魔女を火あぶりにした一族の子孫であるジェームス(ジョン・ノーラン)が、ホラー映画の完成パーティーを屋敷で催しています。余興で睡眠術をかけられたジェームスの妹アン(キャロリン・カレッジ)は、何かに取り憑かれたようになってしまうのです。それから、次々とジェームスやアンの周辺の人々が奇妙に殺されていきます。ダリオ・アルジェント監督の作品の”まるパクリ”の殺人シーンや極彩色の照明を使ったジャーロ風の色彩は、センスのない演出とカメラワークでオリジナルに遠く及ばず・・・脈略もなく人々が殺されていくのは理解不可能。それでも公開時イギリスでは「サスペリア」っぽい雰囲気が受けてヒットしたというのですから、ノーマン・J・ウォーレン監督は侮れません。


1970年代にイギリスではセックスコメディ映画が多く制作されていましたが・・・「スペースド・アウト(原題)/Spaced Out」は、その流れに乗ったSF調のセックスコメディ(かなり後発ですが)であります。童貞の若者ウィリー(トム・メイデン)、中年男のクリフ(マイケル・ロウラット)、結婚間近のカップルのオリバー(バリー・ストークス)とプルデンス(リン・ロス)の4人の地球人は、スキッパー(ケイト・ファーガソン)、コシア(グローリー・アンメン)、パーサ(エヴァ・キャンデル)の3人の女性しかいない宇宙人の宇宙船に乗り込んでしまいます。男という存在に初めて接した宇宙人たちは、人間の男女のセックスに興味津々で、あれこれエッチなことを試してドタバタになるという予想通りの展開となるのです。宇宙人と地球人が普通に英語でコミュニケーションができるだけでなく、宇宙船内の機会やインテリアは地球と同じだし、女宇宙人もスパンコールの眉毛だけのメイクだったり、テレビのコント番組レベルのクオリティー。宇宙船に乗り込む場面は「未知との遭遇」をチープにパクっていて、制作年が「エイリアン」や「スーパーマン」が公開された1979年だったとは思えないほど、古臭いセンスが全編に溢れているのであります。


「悪魔の受胎/Inseminoid」は、明らかに「エイリアン」の亜流のSFスプラッターホラー映画です。ある惑星の古代文明の遺跡を調査している調査団・・・発見されたクリスタル石によって、隊員が凶暴な行動をとるようになったりします。さらに調査を続けるうちに、何かに捕らえられしまったサンディ(ジュディ・ギーソン)は、人相の悪い土偶みたいな宇宙生命体に犯されて、いきなり妊娠してしまうのです。「エイリアン」との大きな違いは、隊員たちを殺しまくるのは宇宙生命体ではなく、見た目は普通の人間のおばちゃん隊員のサンディというところ・・・なぜだか怪力になって襲うところは”モンスター映画”のようだし、時々意識を取り戻して助けを懇願したりするところは”悪魔憑き”っぽいし、死体の内臓を貪り食うところなどは”ゾンビ”みたいだったりします。そして、土偶のような宇宙人の赤ちゃんを出産した後も、相変わらず怪力を維持して暴れまくるのですから、何が何だかわかりません。結局、宇宙人の赤ちゃんによって残りの隊員も殺されてしまい、この惑星の遺跡に新たな調査団が送り込まれて、宇宙人の赤ちゃんの餌食になってしまうのであろう・・・というオチが待っています。ノーマン・J・ウォーレン監督作品の中で、唯一日本で劇場公開されている本作・・・それも1985年(制作されてから4年後)とは「エイリアン」ブームに便乗するにも遅すぎる謎のタイミングです。


「悪魔の受胎」から5年後・・・ノーマン・J・ウォーレン監督は「007」と「バディもの」をパクったような「ガンパウダー/Gunpowder a.k.a. Kommando Gold Crash」というアクションコメディ映画を作っています。ワイルドな”ガン”(デヴィット・ギリアム)とキザな”パウダー”の二人のスパイが、金の市場を暴落させて世界経済を崩壊させようとしているドクター・ヴァッチ(デヴィット・ミラー)の陰謀に立ち向かうというお話なのですが、まず、主人公の名前が「ミスター・ガン」と「ミスター・パウダー」でタイトルが「ガンパウダー」であったことに苦笑です。肝心なアクションは大雑把で雑な描写であっという間に終わってしまいますし、物語の展開は早いのに全体的にはダラダラした印象という相反する演出効果は、ノーマン・J・ウォーレン監督ならでは。練り切られていない脚本で、様々な出来事が唐突に起こるため場面展開についていくさえ困難・・・キャラクターの魅力を引き出そうという意図も空回りしていて、寒いセンスのセリフのやりとりに苦笑いさえできません。極めて完成後の低い映画に仕上がっています。


ノーマン・J・ウォーレン監督の最後の映画作品となる「タイム・ワープ・ゾーン/Bloody New Year」は、遊園地でトラブルを起こして、小舟で逃げた若者カップル3組が、ある島に漂着したところ・・・1959年の年末パーティーの時空の歪みに閉じ込められて、怪現象に襲われるというお話。ちょっと面白くなりそうな設定なのですが、さすがノーマン・J・ウォーレン監督・・・相変わらず訳の分からない演出が満載です。怪現象というのがセコくて・・・シャワーホースや掃除機が勝手に動き出したり、魚の網やテーブルクロスが襲いかってきたり、幽霊のような何者かに覗かれていたりという程度。映画スクリーンの中から飛び出してきたアラブの石油王に殺されたり、エレベーターの壁が伸びて襲われて壁の中に取り込まれてしまう・・・という謎の殺され方は唐突すぎ。また、他に襲ってくるのも、透明人間だったり、ゾンビだったりと、一貫性に欠けている上に、すぐにやられてしまうので恐怖感もありません。ポルタガイスト現象でグチャグチャになったと思ったら、逆回転で元通りになったりというのも意味不明。仲間がゾンビとして蘇って襲ってくるという何でもありの展開で、結局6人全員誰も小島から脱出することもできないという結末・・・1980年代にありがちだったスラッシャー映画としては後発になるのですが、あらゆるアイディアを安易に詰め込みすぎた「クソ映画」であります。

その後、ノーマン・J・ウォーレン監督は、劇場用の映画に関わることはなくなったものの、ミュージックビデオや教育用の短編の制作を続けます。2000年前後から再評価の流れが出てきて、イギリス国内ではホラー映画のスペシャリストとして認知されるようになったようです。年月が経つことによる”熟成効果”により「クソ映画」が、いつの間にか「カルト映画」として生まれ変わる・・・ノーマン・J・ウォーレン監督は、いつの時代になってもイギリスホラー映画界の”ニューウェーブ”(?)なのかもしれません。

「ハー・プライベート・ヘル(原題)」
原題/Her Private Hell
1968年/イギリス
監督 : ノーマン・J・ウォーレン
出演 : ルチア・モデューニョ、テリー・スケルトン、ダニエル・オリアー、パール・キャトリン、ロバート・クリュードソン
日本未公開

「ラヴィング・フィーリング(原題)」
原題/Loving Feeling
1969年/イギリス
監督 : ノーマン・J・ウォーレン
出演 : サイモン・ブレット、ジョジアーナ・ワード、ポーラ・パターソン、ジョン・ライトソン、フランセーズ・パスカル
日本未公開

「ザ・ショッカー 女子学生を襲った呪いの超常現象」
原題/Satan’s Slave
1976年/イギリス
監督 : ノーマン・J・ウォーレン
出演 : マイケル・ガフ、キャンディス・グレンデニング、ジャームス・ブリー、セリア・ヒューイット、バーバラ・ケラーマン
日本劇場未公開、TV放映

「人喰いエイリアン」
原題/Prey
1977年/イギリス
監督 : ノーマン・J・ウォーレン
出演 : バリー・ストークス、サリー・フォークナー、グローリー・アナン
日本劇場未公開、ビデオ発売

「ギロチノイド」(別題:ザ・ハウスⅡ/蘇えった300年・魔の秘密)
原題/Terror
1978年/イギリス
監督 : ノーマン・J・ウォーレン
出演 : ジョン・ノーラン、キャロリン・カレッジ、サラ・ケラー、ジャームス・オブリー、グリニス・バーバー、メアリー・モード、ウィリアム・ラッセル、トリシア・ウォルシュ、パティ・ラヴ、ピーター・メイヒュー
日本劇場未公開、ビデオ発売

「スペースド・アウト(原題)」
原題/Spaced Out
1979年/イギリス
監督 : ノーマン・J・ウォーレン
出演 : バリー・ストークス、エヴァ・キャデル、トム・メイデン、マイケル・ロウラット、リン・ロス、グローリー・アンメン
日本未公開

「悪魔の受胎」
原題/Inseminoid
1981年/イギリス、香港
監督 : ノーマン・J・ウォーレン
出演 : ジュディ・ギーソン、ロビン・クラーク、ジャニファー・アシュレイ、ステファニー・ビーチャム、スティーヴン・グリブズ、ヴィクトリア・テナント、ロバート・ピュー
1985年2月23日より日本劇場公開

「ガンパウダー」
原題/Gunpowder a.k.a. Kommando Gold Crash
1986年/アイルランド
監督 : ノーマン・J・ウォーレン
出演 : デヴィット・ギリアム、マーティン・ポッター、ヴィット・ミラー、デボラ・バートン、ゴードン・ジャクソン
日本劇場未公開、ビデオ発売

「タイム・ワープ・ゾーン」
原題/Bloody New Year
1987年/アメリカ
監督 : ノーマン・J・ウォーレン
出演 : マーク・パウリー、キャサリン・ローマン、ジュリアン・ロニー
日本劇場未公開、ビデオ発売



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