2015/12/20

「ギニーピッグ2 血肉の華」をリメイクしちゃったヤバいおっさん!・・・残酷スプラッタービデオは犯罪を抑止するのか?誘発するのか?~「アメリカン・ギニーピッグ~血と臓物の花束~/American Guinea Pig : Bouquet of Guts and Gore」~



1980年代に日本で制作されたオリジナルビデオ作品「ギニーピッグ」シリーズのアメリカ版スピンオフとなる「アメリカン・ギニーピッグ~血と臓物の花束~/American Guinea Pig : Bouquet of Guts and Gore」のDVDを先日入手しました。

実は、数ヶ月前にアマゾンUSに注文していたタイトルのひとつで、配達予定日を数週間過ぎても荷物が届かず仕舞いだったので全額返金扱いとなっていたのですが・・・数ヶ月経ってひょこり届いたという次第なのであります。奇しくもタダで手に入れてしまった(?)この作品は、予想どおり”おぞましい”作品であったのです。

ここから閲覧注意の画像や表現、ネタバレが含まれます。

「アメリカン・ギニーピッグ~血と臓物の花束~」で初めてメガフォンをとったステファン・バイロ氏は”この手”の映画好きには知る人ぞ知る人物かもしれません。デスメタルのバンド活動、コミックストアとビデオストア経営と、さまざまな経歴を持っている人物なのですが・・・「ギニーピッグ」シリーズに取り憑かれたマニアとしても知られています。長年の夢であったアメリカでの配給権を得たステファン・バイロ氏は「ギニーピッグ」シリーズのDVDを発売するために、2001年に「アンアースド・フィルムス/Unearthed Films」という配給会社を設立してしまうのです!

劣悪なビデオしか流通していなかった「ギニーピッグ」シリーズのDVD化は、世界中のマニアが待ちこがれていたことでもあり(購入者の大半は日本人だったとは思われますが・・・)、アンアースド・フィルムスは日本のエクストリーム系ホラー映画の配給会社として知られるようになります。一時期は日本にもオフィスを構えていたらしく、早乙女宏美の切腹パフォーマンス、福居ショウジン監督の「ピノキオ√964」「ラバーズ・ラバー」を、アメリカでDVDリリースしたのも、この会社だったりするのです。


その後、アンドレイ・イスカノフ監督の悪夢的なアート系ホラー「ヴィジョン・オブ・サファリング/Visions of Suffering」、検死解剖医が死姦する様子を淡々と映したナッチョ・セルダ監督のショートフィルム「アフターマス/Aftermath」、ルシファー・ヴァレンタイン監督の嘔吐と拷問の血まみれスプラッターの3部作「ザ・ヴァミット・ゴア・トリオロジー/The Vomit Gore Triology」(Slaughtered Vomit Dolls, ReGOREgitated Sacrifaice, Slow Torture Puke Chamber)など・・・視覚的にも精神的にも不快極まる作品(!)を、次々とアメリカでDVDリリースしていきます。


2009年には、アンドレイ・イスカノフ監督による「ナイフの哲学/Philosophy of a Knife」の共同プロデューサーとして映画製作にも進出するという・・・”筋金入り”のヤバい人。「アメリカン・ギニーピッグ~血と臓物の花束~」は、長年の交渉の末に「ギニーピッグ」シリーズの正統な”スピンオフ”としての、オリジナル新作の制作を許可されたステファン・バイロ氏が、満を持して初監督した作品というわけなのです。

「ギニーピッグ」シリーズは、現在も独立系映画プロデューサーとして活躍している小椋悟氏の企画によって、1985年から1988年に、日本でリリースされたオリジナルビデオ作品。「ギニーピッグ 悪魔の実験」「ギニーピッグ2 血肉の華」「ギニーピッグ3 戦慄!死なない男」「メイキング・オブ・ギニーピッグ」「ギニーピッグ4 ピーターの悪魔の女医さん」「メイキング・オブ・ピーターの悪魔の女医さん」(以上オレンジビデオハウス)「ザ・ギニーピッグ マンホールの中の人魚」「ザ・ギニーピッグ2 ノートルダムのアンドロイド」(以上ジャパンホームビデオ)があります。編集版である「惨殺スペシャル」と、当初「ザ・ギニーピッグ3」として企画されていた「LSD ラッキー・スカイ・ダイアモンド」を第7作目としてシリーズに含めることもあるようです。発売当時「ギニーピッグ」シリーズは、ハリウッドの大作映画と並んで売り上げランキング上位を占めたそうですから、その人気ぶりが伺えます。


3作目以降はドラマ仕立てだったり、コミカル路線に走っていくのですが、初期2作品の「悪魔の実験」「血肉の華」(同時期に制作/撮影されていたらしい)はコレといったストーリーはなく、残酷描写のみに焦点を当てています。ドキュメンタリー風のスナッフ・フィルムを模して制作されたのは、予算(200万円程度だったらしい)と撮影日数(5日間ほどだったらしい)の制限により、1台のカメラを使ってひと部屋で撮影しなければならないという制約からの”苦肉の策”ではあったようです。

3人の男性が女性して拉致して、あれやこれや(回転イスで目を回させるなんてものまで)で拷問する第1作目の「悪魔の実験」は、直接的な性的描写やヌードはないものの、”拷問ポルノ”として「女性を痛めつけたい!」という願望を具現化していて、その手のフェチの方には堪らない(?)のかもしれませんが、フェチのない人にはとっては少々滑稽であったりします。とは言っても・・・さすがに、こめかみから目玉を一気に長い針で突き刺していくシーンには、血の気は引いてしまいましたが。


第2作目の「ギニーピッグ2 血肉の華」は、当時の特殊技術を駆使して、残酷スプラッター描写の限界に挑戦したといえる作品で、今観ても衝撃的。ワイヤーにより五本の指が自在に動く仕組みや、オイルゼリーと軟質ウレタンを組み合わせた人体パーツの肉感と質感、食紅にゼラチンを混ぜた血糊のリアルさなど、特殊美術を担当した古賀信明氏の功績が非常に大きいといえるでしょう。後に、アメリカに流出したビデオを観たチャーリー・シーン(最近、またお騒がせ!)が本物のスナッフフィルム(殺人を記録した映画)と勘違いしてFBIに通報してしまったのも頷けるクオリティーなのであります。安易に怖いものみたさで観ると、一生(!)トラウマを抱えること”必須”です。


帰宅途中の女性(夕顔きらら)を拉致した後、苦痛を快楽に感じる薬を投与されて、生きたまま解体されていく様子を淡々と撮影しているのですが・・・朦朧している女性は一切悲鳴を上げたりせず、されるがまま。出刃包丁で手首を切り取られ、ノコギリで足を切断され、ナイフで腹を割かれて内蔵を引き出され、斧で首を切り落とされ、最後にはスプーンで目玉をくりぬかれてしまうのです。白塗りで兜をかぶった男(田村寛)が、詩を詠むかのように実況しながら解体していくのも不気味だし、妙に哲学ぶった理屈を語るも不快極まりありません。部屋には、バラバラになった体の一部がデコレーションされていて、被害者がひとりではないこと、そして、殺人者が新たな被害者を物色するところでビデオは終わります。

1980年代末というのは、日本だけでなくアメリカやイギリスでも、有害ビデオの取り締まりが厳しくなった時代だったのですが・・・1989年に起こった連続殺人犯の宮﨑勤の自宅に保管されていたビデオの中に「ギニーピッグ」シリーズがあったことで、「ギニーピッグ」の知名度はマニアだけでなく全国区となります。しかし、宮﨑勤の自室から実際に見つかったのは、シリーズの中でもコミカル路線の「ギニーピッグ4 ピーターの悪魔の女医さん」だったと言われており、事件とビデオは無関係だったようです。

しかし、”あの宮崎”が同じシリーズでリリースされていた「血肉の華」を知らなかったというのも不自然なことであります。事件後、「ギニーピッグ」シリーズは有害ビデオの指定されて廃盤・・・2000年代まで(?)はレンタルビデオ店でも貸し出しされていようですが、今では見かけることはありません。国内でDVD化されることもなく、レンタルアップのVHSビデオはプレミア化・・・その後、日本で製作されたエクストリーム系ホラーの作品の数々(オールナイトロング、鬼畜大宴会、オーディション、グロテスクなど)の原点でもあり、「ギニーピッグ」シリーズはマニアの脳裏に記憶されるタイトルのひとつになったのです。


「アメリカン・ギニーピッグ~血と臓物の花束~」は「血肉の華」にオマージュを捧げて、リメイクした作品となっています。これといったストーリーはなく、女性を拉致して朦朧とさせる薬を投与、生きたまま解体していくところは、オリジナルと同じです。ただ「血と臓物の花束」では、拉致されるのは”二人”の女性になっています。また画面に登場する解体作業をする男が”3人”というところは「悪魔の実験」を意識しているのかもしれません。

照明が妙に明るく倉庫のような場所で撮影されているということもあり雰囲気が安っぽく、CGや特殊技術の進化に見慣れてしまったこともあり特殊美術の技術不足が明白、カメラアングルが絶妙だった「血肉の華」とは違い無意味なカメラの切り返しや編集と・・・全体的に稚拙な印象です。また、犯罪者の心理(犯罪者としての哲学?)が描けていないために、エンターテイメントとしての完成度は低く、単に「生きている女を解体したい」という性癖の代償行為(マスターベーション)にしか感じられません。精神的な闇を感じさせない大味なところは、さすがアメリカ・・・猟奇的な犯罪行為も精神的に病んでいる(日本的?)のではなく、ただただ暴力的な残忍さ(アメリカ的?)ばかり感じさせられます。


あえてスタンダードサイズ(昔のテレビの画面比率)にして、アナログの8ミリフィルムの”スナッフフィルム”風にこだわっているようなのですが・・・画面に登場する二人の男が手持ちの8ミリムービカメラで撮影している画像がクリアなデジタル画像で、映画的に全体を撮影しているカメラの映像が色合いやスクラッチを加えて8ミリフィルム風にしているというところが”矛盾”しています。”スナッフフィルム”風にこだわるならば・・・俯瞰的に全体を撮影しているカメラマンの画像はデジタルで、手持ちの8ミリカメラの映像がフィルム風というのであれば、まだ辻褄が合うのですが。

限定版DVDには、サウンドトラックCD(!?)と特典映像DVDが付属しているのですが、特典映像のスタッフたちへのインタビューが本編よりも、恐怖を感じさせてます。ステファン・バイロ氏が、かなりヤバい人物だというのは分かってはいたのですが・・・ルックス的に、いつ猟奇的な犯罪を犯しても不思議でないような”シリアルキラー”風なのですから!


”この手”の作品を作る人って、作品の過激さに反して、本人は精細な優男だったり、オタク系だったりすることが多かったりするものなのですが・・・ステファン・バイロ氏は、ハードコアな雰囲気を漂わせていて、マジでヤバい感じです。インタビューが撮影された時には45~6歳なのだけど、薄毛のロンゲに無精髭、知性の欠片もない話し方は、ホワイトトラッシュ(白人貧困層)っぽくて・・・こういう人が残酷スプラッタービデオを監督していたのかと思うと、心穏やかではいられなくなります。

スプラッター映画に向けられる世間の批判としては、真似をして犯罪者を生むもしれないというもの。これには、制作者側の決まり文句のような”正論”があって・・・「映像で疑似体験することによって欲望を満足させらるので、リアルに犯罪を犯すことを抑制しているのだ」という理屈です。確かにマニアの中には、実際にやってみたいという欲望を抱えているけれど、実行しない人が殆ど・・・映像で観ることで、欲望を抑制できるというのに一理あります。しかし、逆に映像で観たことによって、自分で抑えていた欲望に歯止めがかからなったり、自覚していなかった欲望を発見してしまうこともあったりもするわけで、映像によって誘発されてしまうという危惧を無視することはできません。

ただ、何気ない日常生活の中からでも、犯罪的な欲望を持ってしまう”きっかけ”というのもあったりするわけで・・・犯罪を種(タネ)を撲滅できるわけではなく、映像は犯罪を「抑制する」一面と「誘発する」一面の両方を持ち合わせているといるものなのです。猟奇的な犯罪を犯すことをアレルギー反応に例えてみると、スプラッター映画は刺激的なスパイスということになるのかもしれません。人口の大半の人は、そのスパイスの刺激を嗜好品として楽しむことができるのですが、ある体質をもった人には致命的なアレルギー反応が起きてしまいます。事前にアレルギー反応を起こすことを予測するのは難しいように、どう線引きをすべきかの正解はありません。ただ、成長過程にある子供に刺激物をむやみに与えないように、年齢で制限するぐらいが可能なことでしかありません。モノ好きの大人は、さらなる刺激を求めるだろうし、全面的に禁止したら逆に闇市場に出回ってしまう・・・銃規制と同じように堂々巡りの話なのです。


ステファン・バイロ氏は「アメリカン・ギニーピッグ」のシリーズ化に本気らしく・・・第2作「アメリカン・ギニーピッグ~ブラッドショック/American  Guinea Pig : Bloodshock」を、2015年9月頃(?)にアメリカの一部にて限定的に劇場公開しており、製作と脚本をステファン・バイロ氏が担当、「血と臓物の花束」で特殊効果を担当していたマーカス・コーチの初監督作品となっています。

「ブラッドショック」で虐待されるのは”女性”ではなく”中年男性”・・・拷問ポルノ的だった今まではとは違う方向の作品ようです。ソリッドシチュエーションホラーのヒットシリーズ「ソウ/SAW」に、世界観が似ているような気もしますし・・・全編モノクロ画面というところは「ムカデ人間2」を連想させます。拷問/虐待シーンが売り物であることには変わりありませんが、ストーリーのあるドラマのようなので、散々の酷評(?)だった「血と臓物の花束」よりも、観れる”作品”になっているようです。「アメリカン・ギニーピッグ~ブラッドショック」のDVDリリースが待ちきれません!

「アメリカン・ギニーピッグ~血と臓物の花束~」
原題/American Guinea Pig : Bouquet of Guts and Gore
2014年/アメリカ
監督&脚本:ステファン・バイロ
特殊効果 :マーカス・コーチ
出演   :アシュレー・リン・キャプト、ケイトリン・デイリー、エイト・ザ・チョーズン・ワン、スコット・ギャビー
日本劇場未公開
2016年6月3日日本版「アメリカンギニーピッグ」DVDリリース



「ギニーピッグ2 血肉の華」
1985年/日本
監督&脚本: 日野日出志
出演   : 田村寛、夕顔きらら
1985年11月30日VHSビデオ発売/廃盤





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