2016/02/25

不思議モード全開のヨルゴス・ランティモス監督最新作・・・中年太りしたコリン・ファレルに萌え萌え!~「ロブスター/The Lobster」~


2009年のカンヌ映画祭の”ある視点”部門で最高賞を受賞した「籠の中の乙女/Dogtooth」以来「ギリシャの新しい波」の中心人物として活躍するヨルゴス・ランティモス監督最新作は、初の英語作品となるのが本作「ロブスター/The Lobster」・・・2015年のカンヌ映画祭で審査員賞を受賞しています。

「籠の中の乙女」の次につくられた「アルプス(原題)/Alps」は、日本で未公開でDVD発売もされず、このまま「ギリシャの新しい波」はスルーされてしまうのか?と思っていたところ・・・コリン・ファレル、レイチェル・ワイズ、レア・セドゥが出演していることもあり、日本での劇場公開もされます。デビュー長編作品「キネッタ(原題)/Kinnetta」も含めて、ヨルゴス・ランティモス監督の全貌が明らかになる日も近いかもしれません。

”奇妙”としか表現しようのない「ギリシャの新しい波」と呼ばれる作品群・・・「ロブスター」は「SF恋愛映画」というジャンルに区分されているようです。考えてみれば、ヨルゴス・ランティモス監督の作品は、全て”SF”といえるのかもしれませんが。本作は物語の”起承転結”もあり、取っ付きやすくはなっています。ただ、一切の予備知識なしだと不思議モード全開の”奇妙な設定”には面食らいそうです。


独身でいることが”罪”である世界の物語・・・独身者は大きなホテルのような矯正施設に送り込まれて、45日でパートナーを見つけなければいけません。もし、期間中に相手を見つけられなかったら、動物に変えられてしまう(どんな動物になるかは選択できる)のです。デヴィット(コリン・ファレル)は独り身になり、ホテルのような矯正施設に送られてきます。彼が連れているのは、パートナーを見つけることができなくて犬に変えられてしまった”兄”・・・本作のタイトルは、デヴィットの希望する動物が、長生きするという理由で”ロブスター”であることからだったりします。

足の悪い男(ベン・ウィショー)と滑舌の悪い男(ジョン・C・ライリー)と、情報交換しながらデヴィットはパートナー探しに励みます。(ちなみに本作ではデヴィット以外に”名前”はなし)施設内には、食堂、プール、ジャグジーバス、ダンスホール、集会場などがあり・・・食堂で相手を物色し、プールやジャグジーバスで話して、ダンスホールでダンスに誘って、カップルとなるというシステムになっているようです。集会場では、独身でいることがデメリットで、結婚してパートナーがいることがメリットであるような”寸劇”が演じられたり、新しくカップルとなったメンバーが発表されたりしています。このような組織的な”婚活”というのは、少子化や未婚率の問題がある自治体(テレビ番組とか)で既に行なわれていることだったりするので、現実から遠からずかもしれません。

ただ、この矯正施設には厳格規則があり・・・自慰行為は禁止。入居時に男性は、右手が動かせないように手錠をかけられてたりすることもあるようです。自慰行為が見つかった場合には、指をトースターで焼くという”罰”が与えられます。男性入居者には、メイド(アリアーヌ・ラベド)による”お尻グリグリ”(男性の股間にお尻を押し付けて動かす)による寸止めが日課のようで・・・性欲を溜めてさせて、早くパートナーを見つけるように仕向けているかのようです。パートナーを見つけて結婚した暁には、市民生活が送ることのできる近代的な”街”へ住むことが許されというわけであります。

夜になると入居者は森へ”狩り”へ出かけるのですが・・・狩るのは動物ではなく、施設から逃げ出した”独身者”たち。捕まった”独身者”は、誰もなりたがらない動物へと変えられてしまう”罰”が待っています。狩りをする入居者は、独身者を一人狩るごとにタイムリミットを1日延長できることができるのです。足の悪い男は、鼻血の女(ジェシカ・バーデン)の前で、自分も鼻血が出るとアプローチして、見事にカップルとなります。強引にデヴィットをエッチに誘ってくるビスケットの女(アシュレー・ジャンセン)は、もしもパートナーを見つけることができなければ、窓から飛び降り自殺すると語り、本当に自殺してしまうのです。


デヴィットは、ジャグジーバスで一緒になった冷酷な女(アンゲリキ・パプーリァ)と”あること”で意気投合・・・デヴィットもカップル部屋に移ることとなります。二人の性行為は極めて義務的。ある朝、デヴィットの”兄”である犬を、冷酷な女は惨殺・・・それでもカップル解消したくないデヴィットは平静を装うのですが、自分を偽った態度は厳罰に値すると冷酷な女は訴え始めるのです。そこで、デヴィットはメイドの助けを借りて(何故、彼女がデヴィットに協力的なのかは謎ですが)冷酷な女を動物に変えてしまいます。矯正施設から脱出したデヴィットは、森にいる”独身者たち”と合流するのです。

独身者のリーダー(レア・セドゥ)により組織されている森の”独身者たち”・・・武装化しており、男女の恋愛関係を禁止する厳格なルールがあります。男女間の思わせぶりな会話さえもダメで、キスをした者は唇を切り裂かれるという”罰”が待っているのです。エッチしてしまったならば、どんな”罰”が待っているか想像するだけで恐ろしくなります。そんな”罰”があるにも関わらず・・・デヴィットは”独身者たち”のメンバーの一人である近視の女(レイチェル・ワイズ)と、一目惚れの両思いで、あっさりと恋に落ちてしまうのです。

ここから「ロブスター」のネタバレを含みます。


仲間から気付かれないようにするために、二人だけの秘密のジェスチャーをつくってコミュニケーションを取ようになるデヴィットと近眼の女・・・時たま、物資調達のために”夫婦”を装おって”街”へ出かける際は、おおっぴらにイチャつく絶好の機会となります。ただ、訪問したリーダーの両親の前でも濃厚なキスをし続ける二人に、リーダーは気付いてしまうのです。

矯正施設に乗り込みマネージャー夫婦を拉致して夫に自分自身か妻の命かの選択を迫ってたり、足の悪い男と鼻血の女の暮らす家を訪ねて嘘を暴露したりと、夫婦関係を崩壊させるようなテロ行為(?)を行なう”独身者たち”・・・そんな中、近眼の女の日記からデヴィットの恋愛関係を確認したリーダーは、ルールを破った”罰”として、近眼の女に近視矯正手術だと偽って、全盲にしてしまいます。


近視の女は聴覚と臭覚を敏感にすることで視覚を補おうとするのですが、デヴィットからキスされることを拒むようになります。デヴィットは近眼の女と”街”へ逃げることを決意・・・独身者のリーダーを縛って穴に放置、犬に襲わせて殺させるのです。”街”のレストランまで逃げてきたデヴィットと近眼の女・・・彼女をじっくりと見つめた後、デヴィットは全盲になるためにトイレで自らの目にナイフを刺そうとする・・・そこで本作は終わります。

「春琴抄」のような”オチ”に愕然。そもそも特異な設定の上に、登場人物たちの行動も理にかなっているわけではいないので、共感や理解の枠を超えているのかもしれません。さまざま散りばめられた比喩の意味を考えるのは観客次第・・・ヨルゴス・ランティモス監督らしい「言葉の入れ替え」や「意味の記号化」のセンスを楽しむのが良いようです。何故か日本版のポスターは出演者の写真を並べただけの凡庸なデザインとなっていますが、オリジナルの白い影と抱き合うポスターの方が、本作の虚無な雰囲気を表現しているような気がします。


コリン・ファレルは本作の役作りのために、ピッツァ、チーズバーガー、チョコレートケーキ、アイスクリーム(ハーゲンダッツ!)を食いまくって8週間で40ポンド(約18キロ)増量したそうで・・・ハリウッド映画の主役を張っていた二枚目スターの面影もないと嘆くファンもいるかと思われます。ボク個人的には「萌え~」ですが。残念なことに(?)カンヌ映画祭でのプレミア上映(2015年5月15日)の時には、すでに元の体型に戻っておりました・・・(ガックリ)。


「ロブスター」
原題/The Lobster
2015年/ギリシャ、フランス、アイルランド、オランダ、イギリス、アメリカ
監督&脚本 : ヨルゴス・ランティモス
出演    : コリン・ファレル、レイチェル・ワイズ、ジェシカ・バーデン、オリビア・コールマン、アシュレー・ジャンセン、アリアーヌ・ラベド、アンゲリキ・パプーリァ、ジョン・C・ライリー、レア・セドゥ、マイケル・スマイリー、ベン・ウィンショー
2016年3月5日より日本劇場公開

 


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2016/02/14

元カノを忘れられない男の映画2作~ギャスパー・ノエ監督による精子が飛び出る3Dポルノ「LOVE 【3D】」とアンドリュー・ヘイ監督による渋い大人映画「さざなみ/45 Years」~


ボクがまだ若かった頃、八神純子が歌っていました・・・「思い出は美しすぎて」と。現在(いま)どれほど幸せであっても、時が経つにつれて”良き思い出”として書き換えて”過去”を美化してしまうことって、結構アリガチなこと。奇しくも日本ではほぼ同じ時期に劇場公開が予定さているギャスパー・ノエ監督とアンドリュー・ヘイ監督の最新作は、どちらも”元カノ”を忘れられない男についての映画ではあるのですが・・・同じテーマを扱いながら、まったく趣の異なる趣の作品となっているのです。

”タブー”とされるテーマや過激な映像表現によって、新作発表するたび物議を醸すギャスパー・ノエ監督が、約6年ぶりに発表した「LOVE 【3D】」は、毎度お馴染みの「衝撃作」であります。去年(2015年)のカンヌ映画祭では「精子が飛び出る3Dポルノ」と話題になった本作・・・セックスシーンが衝撃的といわれた”映画作品”としては、今までないほど”露骨”・・・実際に性交して撮影されたといわれているニコラス・ローグ監督の「赤い影」、ボディダブルを使ってセックスシーンを撮影したラース・フォン・トリアーア監督の「ニンフォマニアック」、濃厚なレズビアンセックスシーンが話題になったアブデラティフ・ケンシュ監督の「アデル、ブルーは熱い色」などよりも、さらに”即物的”です。


パリに暮らすアメリカ人男性マーフィー(カール・ガウスマン)は、ある元旦の朝、電話で起こされます。数年前に別れたエレクトラ(アオミ・ムヨック)の母親からの留守電で、エレクトラが数ヶ月ほど行方不明になっていることを伝えられるのです。彼には同居している妻との間に2歳になる娘がいるのですが、エレクトラとの情熱的なセックス三昧(?)の日々の記憶を甦らせていく・・・というお話です。ショットごとに”現在”と”過去”がミックスされていて、エレクトラとの出会いから別れを時間軸をバラバラにしてフラッシュバックしていくという複雑な構造でありながら、スムーズに話の顛末が理解できる編集はお見事です。

ここから「LOVE 【3D】」のネタバレを含みます。


3D映像として効果があるのは”勃起した○ン○ン”ぐらい?・・・”ジャン=リュク・ゴダール監督の「さらば、愛の言葉よ」のように斬新さもなく、スタイリッシュな映像で知られるギャスパー・ノエ監督らしさもなく、”3Dアートポルノ”のギミックとしても、それほど成果をあげているようには思えません。所謂”ポルノ映画”を期待すると、”肩すかし”を食らうでしょう。また、日本国内で、どこまでモザイク修正”なし”で公開できるかも疑問・・・モヤモヤが画面に飛び交って、場違いな笑いを誘うことにならないか危惧してしまいます。

元カノと今の妻(当時は2番目の女)との仲良しな三角関係(3P状態)というのも、男性側からのご都合主義な関係のようにしか思えないなし、徐々に乱交パーティーなど奔放なセックスへ没頭していく元カノの心理も正直理解し難く・・・登場人物たちを演じる役者の魅力が乏しいのか、そもそも人間性を描ききれていないのか、特に心を動かされることもなく、共感も驚愕も感じないのであります。元カノこそ人生の「真実の愛」だった・・・というオチも”陳腐な着地点”としか思えません。


映画「ウィークエンド」やテレビシリーズ「ルッキング」で、ゲイ映画監督として知られるアンドリュー・ヘイ監督の最新作「さざなみ/45 years」は、結婚45周年記念のパーティーを控えた夫婦の月曜日から土曜日の6日間を描いた渋~い大人映画であります。

ケイト(シャーロット・ランプリング)とジェフ(トーマス・コートネイ)は、45年連れ添ったカントリーサイドに暮らす老夫婦・・・土曜日には結婚45周年記念のパーティーが開かれることになっています。月曜日の朝、50年前にアルプスで遭難した結婚前に付き合っていた元カノの遺体が見つかったという手紙が届くのです。遺体確認のためにアルプスまで行くと言い出すジェフ・・・長年連れ添ってきたケイトの心に”さざなみ”のように疑念と嫉妬が生まれていきます。元カノが事故に遭遇していなかったら自分とは結婚していなかったのではないか・・・ジェフの思いは50年経っても変わっていないのではないか?


深度の浅い焦点でボケ感のある画面で知られるアンドリュー・ヘイ監督ですが・・・本作では封印して、飾り気のないストレートな画面で勝負しています。また、フラッシュバックなどは一切なく、すべては淡々と現在進行形で、今のケイトの心を追っていくというのもシンプルそのもの。全編に渡ってほぼシャーロット・ランプリンングとトーマス・コートネイの”ふたり芝居”のようでありながら、台詞ひとつひとつの巧みさと深さのある脚本なので、ただ二人の役者を追うだけで緊張感に満ちているようです。

ここから「さざなみ」のネタバレを含みます。


屋根裏部屋で見つけた元カノの古い写真(スライド)を凝視するケイトの皺深い表情と、50年前の若さに溢れた元カノの姿の対比は残酷そのもの。すでに、この世に生きていない思い出だけの存在である”元カノ”に、今現在生き続けて老けていくケイトは、比較できる対象ではないのです。「地獄に堕ちた勇者ども」「さらば愛しき人よ」「未来惑星ザルドス」「愛の嵐」などでは、”クールビューティー”代表格だったシャーロット・ランプリングの”老婆”っぷりは、当時の面影を追っかけてしまうボクにとっても、ある種、残酷なのであります。

疑い始めた絆を取り戻すかのように、ひさしぶりにセックスを試みるシーンは、(当然ながら)露骨な性描写などはしていません。しかし、老夫婦の極々プライベートな場面に遭遇してようで、非常にドキドキさせられます。結局、ジェフは挿入後に勃起を維持できずに、中途半端でセックスは終わってしまうのですが・・・優しくジェフを抱きしめながら、さらに疑念が深まっていくケイトの心理が、ヒシヒシと伝わってくるのです。

基本的にケイト側からの視点で描かれる本作・・・ジェフの真意については明確な説明はありません。旅行会社にアルプス行きのチケットの問い合わせをしてみたり、古い写真を探したり、自分の気持ちのままに行動をしているジェフの心を察して、疑いを深めてしまうのは、ケイト自身だったりするです。長年連れ添ったからこその信頼関係だからこそ、それが裏切られていいるのでは疑い始めると、許し難い気持ちがフツフツと湧いてしてしまうものなのかもしれません。


つつがなく行なわれる結婚45周年記念のパーティー・・・ケイトの心の内を全く感知していないようなジェフの態度にも、ケイトは憤りを感じているようです。本作では具体的な結論は何も提示していません。ケイトがジェフへの疑念を拭えないまま今までどおりに生きていくようにも受け取れるし・・・しばらく距離を置いて二人の関係を見直したいようにも思えます。

人生の大きな転換期は、必ずしもドラマティックな出来事が起こるわけだけでなく・・・心の中の大きな変化によって、今まで生きてきた人生を根底から覆してしまうのかもしれません。そんな人生の危うさをシミジミと感じさせる「さざなみ」は、ボクにとっては3Dアートポルノよりも、数百倍衝撃的だったのです。


「LOVE 【3D】」
原題/Love
2015年/フランス
監督&脚本 : ギャスパー・ノエ
出演    : アオミ・ムヨック、カール・グルスマン、クララ・クリスティン
2016年4月1日より日本劇場公開


「さざなみ」
原題/45 Years
2015年/イギリス
監督&脚本 : アンドリュー・ヘイ
出演    : シャーロット・ランプリング、トーマス・コートネイ

2016年4月9日より日本劇場公開

 


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