2016/02/14

元カノを忘れられない男の映画2作~ギャスパー・ノエ監督による精子が飛び出る3Dポルノ「LOVE 【3D】」とアンドリュー・ヘイ監督による渋い大人映画「さざなみ/45 Years」~


ボクがまだ若かった頃、八神純子が歌っていました・・・「思い出は美しすぎて」と。現在(いま)どれほど幸せであっても、時が経つにつれて”良き思い出”として書き換えて”過去”を美化してしまうことって、結構アリガチなこと。奇しくも日本ではほぼ同じ時期に劇場公開が予定さているギャスパー・ノエ監督とアンドリュー・ヘイ監督の最新作は、どちらも”元カノ”を忘れられない男についての映画ではあるのですが・・・同じテーマを扱いながら、まったく趣の異なる趣の作品となっているのです。

”タブー”とされるテーマや過激な映像表現によって、新作発表するたび物議を醸すギャスパー・ノエ監督が、約6年ぶりに発表した「LOVE 【3D】」は、毎度お馴染みの「衝撃作」であります。去年(2015年)のカンヌ映画祭では「精子が飛び出る3Dポルノ」と話題になった本作・・・セックスシーンが衝撃的といわれた”映画作品”としては、今までないほど”露骨”・・・実際に性交して撮影されたといわれているニコラス・ローグ監督の「赤い影」、ボディダブルを使ってセックスシーンを撮影したラース・フォン・トリアーア監督の「ニンフォマニアック」、濃厚なレズビアンセックスシーンが話題になったアブデラティフ・ケンシュ監督の「アデル、ブルーは熱い色」などよりも、さらに”即物的”です。


パリに暮らすアメリカ人男性マーフィー(カール・ガウスマン)は、ある元旦の朝、電話で起こされます。数年前に別れたエレクトラ(アオミ・ムヨック)の母親からの留守電で、エレクトラが数ヶ月ほど行方不明になっていることを伝えられるのです。彼には同居している妻との間に2歳になる娘がいるのですが、エレクトラとの情熱的なセックス三昧(?)の日々の記憶を甦らせていく・・・というお話です。ショットごとに”現在”と”過去”がミックスされていて、エレクトラとの出会いから別れを時間軸をバラバラにしてフラッシュバックしていくという複雑な構造でありながら、スムーズに話の顛末が理解できる編集はお見事です。

ここから「LOVE 【3D】」のネタバレを含みます。


3D映像として効果があるのは”勃起した○ン○ン”ぐらい?・・・”ジャン=リュク・ゴダール監督の「さらば、愛の言葉よ」のように斬新さもなく、スタイリッシュな映像で知られるギャスパー・ノエ監督らしさもなく、”3Dアートポルノ”のギミックとしても、それほど成果をあげているようには思えません。所謂”ポルノ映画”を期待すると、”肩すかし”を食らうでしょう。また、日本国内で、どこまでモザイク修正”なし”で公開できるかも疑問・・・モヤモヤが画面に飛び交って、場違いな笑いを誘うことにならないか危惧してしまいます。

元カノと今の妻(当時は2番目の女)との仲良しな三角関係(3P状態)というのも、男性側からのご都合主義な関係のようにしか思えないなし、徐々に乱交パーティーなど奔放なセックスへ没頭していく元カノの心理も正直理解し難く・・・登場人物たちを演じる役者の魅力が乏しいのか、そもそも人間性を描ききれていないのか、特に心を動かされることもなく、共感も驚愕も感じないのであります。元カノこそ人生の「真実の愛」だった・・・というオチも”陳腐な着地点”としか思えません。


映画「ウィークエンド」やテレビシリーズ「ルッキング」で、ゲイ映画監督として知られるアンドリュー・ヘイ監督の最新作「さざなみ/45 years」は、結婚45周年記念のパーティーを控えた夫婦の月曜日から土曜日の6日間を描いた渋~い大人映画であります。

ケイト(シャーロット・ランプリング)とジェフ(トーマス・コートネイ)は、45年連れ添ったカントリーサイドに暮らす老夫婦・・・土曜日には結婚45周年記念のパーティーが開かれることになっています。月曜日の朝、50年前にアルプスで遭難した結婚前に付き合っていた元カノの遺体が見つかったという手紙が届くのです。遺体確認のためにアルプスまで行くと言い出すジェフ・・・長年連れ添ってきたケイトの心に”さざなみ”のように疑念と嫉妬が生まれていきます。元カノが事故に遭遇していなかったら自分とは結婚していなかったのではないか・・・ジェフの思いは50年経っても変わっていないのではないか?


深度の浅い焦点でボケ感のある画面で知られるアンドリュー・ヘイ監督ですが・・・本作では封印して、飾り気のないストレートな画面で勝負しています。また、フラッシュバックなどは一切なく、すべては淡々と現在進行形で、今のケイトの心を追っていくというのもシンプルそのもの。全編に渡ってほぼシャーロット・ランプリンングとトーマス・コートネイの”ふたり芝居”のようでありながら、台詞ひとつひとつの巧みさと深さのある脚本なので、ただ二人の役者を追うだけで緊張感に満ちているようです。

ここから「さざなみ」のネタバレを含みます。


屋根裏部屋で見つけた元カノの古い写真(スライド)を凝視するケイトの皺深い表情と、50年前の若さに溢れた元カノの姿の対比は残酷そのもの。すでに、この世に生きていない思い出だけの存在である”元カノ”に、今現在生き続けて老けていくケイトは、比較できる対象ではないのです。「地獄に堕ちた勇者ども」「さらば愛しき人よ」「未来惑星ザルドス」「愛の嵐」などでは、”クールビューティー”代表格だったシャーロット・ランプリングの”老婆”っぷりは、当時の面影を追っかけてしまうボクにとっても、ある種、残酷なのであります。

疑い始めた絆を取り戻すかのように、ひさしぶりにセックスを試みるシーンは、(当然ながら)露骨な性描写などはしていません。しかし、老夫婦の極々プライベートな場面に遭遇してようで、非常にドキドキさせられます。結局、ジェフは挿入後に勃起を維持できずに、中途半端でセックスは終わってしまうのですが・・・優しくジェフを抱きしめながら、さらに疑念が深まっていくケイトの心理が、ヒシヒシと伝わってくるのです。

基本的にケイト側からの視点で描かれる本作・・・ジェフの真意については明確な説明はありません。旅行会社にアルプス行きのチケットの問い合わせをしてみたり、古い写真を探したり、自分の気持ちのままに行動をしているジェフの心を察して、疑いを深めてしまうのは、ケイト自身だったりするです。長年連れ添ったからこその信頼関係だからこそ、それが裏切られていいるのでは疑い始めると、許し難い気持ちがフツフツと湧いてしてしまうものなのかもしれません。


つつがなく行なわれる結婚45周年記念のパーティー・・・ケイトの心の内を全く感知していないようなジェフの態度にも、ケイトは憤りを感じているようです。本作では具体的な結論は何も提示していません。ケイトがジェフへの疑念を拭えないまま今までどおりに生きていくようにも受け取れるし・・・しばらく距離を置いて二人の関係を見直したいようにも思えます。

人生の大きな転換期は、必ずしもドラマティックな出来事が起こるわけだけでなく・・・心の中の大きな変化によって、今まで生きてきた人生を根底から覆してしまうのかもしれません。そんな人生の危うさをシミジミと感じさせる「さざなみ」は、ボクにとっては3Dアートポルノよりも、数百倍衝撃的だったのです。


「LOVE 【3D】」
原題/Love
2015年/フランス
監督&脚本 : ギャスパー・ノエ
出演    : アオミ・ムヨック、カール・グルスマン、クララ・クリスティン
2016年4月1日より日本劇場公開


「さざなみ」
原題/45 Years
2015年/イギリス
監督&脚本 : アンドリュー・ヘイ
出演    : シャーロット・ランプリング、トーマス・コートネイ

2016年4月9日より日本劇場公開

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