不快映画の巨匠ともいえるミヒャエル・ハネケ監督(ファミーゲーム、ピアニスト、白いリボン)を始め・・・ウルリッヒ・ザイドル監督(ドッグ・デイズ、パラダイス3部作)、マルクス・シュラインツァー監督(ミヒャエル)、ミヒャエル・グラウガー監督(ホアズ・グロリー)など、淡々とした描写ながら表現し難い”不快感”を醸し出す映画監督を続々と輩出する”オーストリア”・・・一般的には文化的にも経済的にも豊か国という印象でありますが「実はオーストリア国民って、心に闇を抱えているのでは?」と思えてしまいます。
未体験ゾーンの映画たち2016で上映されたオーストリア産ホラーサスペンス映画「グッドナイト・マミー」は、期待通りトラウマとなりそうな”不快映画”であります。ウルリッヒ・ザイドル監督の妻ヴェロニカ・フランツ(「パラダイス」3部作の脚本担当)と、ドキュメンタリー畑で活躍してきたセヴェリン・フィアラの共同監督と脚本の本作・・・ある意味、ウルリッヒ・ザイドル(本作では製作)”組”の作品といえるでしょう。
林、池、とうもろこし畑に囲まれた田舎の邸宅・・・そこにはエリアス(エリアス・シュワルツ)とルーカス(ルーカス・シュワルツ)という双子の兄弟が住んでいます。車で帰宅してきたのは、整形手術をして顔を包帯で覆った母親(スザンヌ・ヴェスト)・・・しかし、優しかった母親は、何かと厳しく、どこかしら冷たい態度なのです。
母親はオーストリアのテレビで放映されているクイズ番組のアシスタントの仕事をしていたタレントさんだったようで・・・どういう理由か分かりませんが、今住んでいる自宅は、インターネットの不動産屋で売りに出していたりします。夜中には、包帯を外して鏡で傷跡を凝視していたり、林の中へ服を脱いで彷徨って奇声を上げていたりと、行動がかなり変なのです。
兄弟は、巨大なゴキブリみたいな虫を沢山飼育していて、就寝中の母親のカラダの上に逃がすというイタズラをするのですが、スルスルと口の中に侵入していく虫を、母親は眠りながらムシャムシャ食べてしまいます。また、兄弟が廃墟から拾ってきたネコは、いつの間にか殺されていて、地下室の隅に捨てられていたりするのです。さらに、母親の写真アルバムからは殆どの写真が捨てられいて、唯一残っているのは母親と母親そっくりの女性が写った写真ぐらい・・・もしかして、包帯を巻いて母親と名乗っているのは、母親そっくりの女性(双子の姉妹)なのか?それとも、人間ですらない何かが、母親になりすましているのかもしれません。
”母親のふりをした怪物”、もしくは、”怪物のようになってしまった母親”が、双子の兄弟を虐待していく映画なのか・・・と思いきや、整形手術後に帰宅した母親は、別人の”なりすまし”ではないかと疑う兄弟が、この母親”もどき”を拘束して、拷問していくという展開になっていくのです。
ベットに手足を縛り付けて「本当のママはどこ?」と詰問し続ける兄弟。嘘つき呼ばわりをして平手打ちなんて、まだ序の口・・・虫眼鏡を使って太陽光で頬を焼いたり、強力な接着剤で唇をくっつけたり、その唇をハサミで切り裂いて血だらけにしてしまうったりとか、子供のならでは幼稚さと容赦のない残忍性に、目を覆いたくなってしまうほどです。身動きの取れないから、いつの間にか”おもらし”しちゃっているし・・・母親の”なりすまし”だとしても「ここまでするか?」と、ドン引きな”地獄絵図”であります!
ここから完全なネタバレを含みます。これから観る予定の方は読まないことをお奨めします。
本作の「どんでん返し」は、勘のいい観客ならば、推測できることなのかもしれません。
一瞬の隙を狙って、母親は必死のエスケープを試みるのですが、兄弟たちが仕掛けていた針金の罠に引っかかり、母親は再び手足を縛られて拘束されてしまいます。そこで、観客は真実を知ることとなるのです。
母親とルーカスは、何らかの事故に巻き込まれたらしく、母親が整形手術をしたのは、その事故で顔に怪我をしたからだったのです。そして、この事故により”ルーカス”は、亡くなっていたのであります。どうやら、エイリアスは事故に何らか関わっていたようで・・・その罪悪感からなのか、またはルーカスの喪失感からなのか、ルーカスの虚像を作り上げていたことが判明するのです。「本当のママならルーカスの姿が見えるはずだ!」と迫るエイリアス・・・しかし、母親にルーカスの姿が見えるはずもなく、エイリアスは部屋中に火をつけてしまいます。手足を縛られたまま炎に包まれながら、断末魔の叫びをあげる母親・・・エイリアスが燃え盛る自宅から逃げ切った先には、以前と変わらないルーカスと母親の姿があるのです。
観客が画面で見ていたのは、エイリアスにしか見えないルーカスの姿・・・おそらく、母親のモンンスター的な姿というのは、ルーカスの視点からの妄想だったのかもしれません。また、ネコを殺害したのも母親ではなく、ルーカスに支配されたエイリアス本人だったのでしょう。息子を失った悲しみだけでなく、自責の念により自暴自棄になっていた母親は、ルーカスの死を受け入れないエイリアスに対して、困惑し厳しい態度をとってしまっていたのかもしれません。
種明かしを知ってから、もう一度本作を最初から観賞してみると、見事なほど”伏線”や”ヒント”が張り巡らされていたことに驚かされます。観客は導入部分から、双子の兄弟の立場に感情移入して、母親の異様な姿ばかりに違和感を感じるように、仕向けられているのです。しかし、よく観ると・・・母親や他の大人達とコミュニケーションしているのは、エリアスだけ。時折、母親の視点になっているシーンでは、ルーカスの姿は画面から外されています。母親の立場になって、本作を見直すと・・・なんとも痛々しく切ない気持ちにさせられるのです。
不幸な事故によって崩壊してしまった家族の悲劇を、なんとも後味の悪い”不快映画”に昇華させてしまうオーストラリア映画人の”センス”に、ボクは惹かれずにいられません!
グッドナイト・マミー
原題/Goodnight mommy, Ich she ich she
2014年/オーストリア
監督&脚本 : ヴェロニカ・フランツ、セヴェリン・フィアラ
出演 : スザンヌ・ヴェスト、エリアス・シュワルツ、ルーカス・シュワルツ
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