2011/10/31

リアル「猿の惑星:創世記(ジェネシス)」なドキュメンタリー映画・・・”猿の惑星”という概念そのものが人間の不安と妄想でしかない~「プロジェクト・ニム/Project Nim」~



1968年に公開された第1作「猿の惑星」の衝撃のエンディング以来、猿によって地球が支配されるというアイディアは、世代が変わっても人々の関心を引くようで・・・オリジナルの全5作品は、繰り返しテレビで放映されたし、DVDボックスとして繰り返し再版されています。

「猿の惑星」シリーズ最新作となる「猿の惑星:創世記(ジェネシス)」は、オリジナルシリーズの「猿の惑星:征服」にあたるエピソードを、全面的に書き換えた”リセット”と呼べるような作品で、オリジナル版にあった人権問題のテーマは排除されて、動物虐待や環境の問題をテーマにしたような作品でありました。テンポも良くエンターテイメントとして完成度が高く、CGによる猿のグラフィックが格段と進歩したことによって、オリジナル版では限られていた猿の表情も人間並みに豊かになっています。

ただ、猿(シーザー)の感情表現が人間並みというのも「善し悪し」という気がしました。・・・というのも、人間が察するr動物の感情というのは、逆に人間よりも乏しい表現からこそ、動物を”擬人化”して、動物が感じている以上の感情を深く読み取ろうとするからかもしれません。人間に近い表現になればなるほど、薄気味悪く感じてしまうのです。「猿の惑星:創世記(ジェネシス)」のシーザーは、アルツハイマーの治療薬の影響で「人間の脳」に進化したということなので、人間と同じような表情をするのは当然なのかもしれませんが。

今から38年前(1973年)・・・「猿の惑星:創世記(ジェネシス)」を連想させるような「ある科学実験」がスタートしました。その実験台となったチンパンジーのニムの生涯を、実験に関わった人々へのインタビュー、資料映像や写真、再現ドラマによって、まとめらえれたのが「プロジェクト・ニム/Project Nim」というドキュメンタリー映画であります。

1973年、オクラホマ州の霊長類センターから、僅か生後2週間のチンンパンジー1頭が母親から引き離されます。コロンビア大学のハーバード・テラス教授は、チンパンジーが人間のように言語を覚えられるのか・・・手話を通じて会話を習得できるのかを実験するために、ニューヨーク市内で暮らすステファニー・ラファージ(テラス教授の元恋人)と彼女の家族(夫と二人の子供たち)の元で、ニムを「人間の子供」と同じように育てるように依頼するのです。しかし、ヒッピー的なマインドを持ったステファニーは言語習得のみの実験に疑問を持ち、アルコールを飲ませたり、マリファナを吸わせたり、セクシャルな行為を誘発するなど、勝手な行動を取るようになります。チンパンジーの母親から引き離されたように、ニムはステファニーから引き離され、大学の施設に移されることになります。

大学の施設では、手話の指導員がニムの世話係(母親役)となるのですが・・・その当時、テラス教授と恋愛関係だったローラ・アン・ペティートという女子学生に、ニムは託されることとなります。しかし、二人の関係が解消してしまうと、また別な女子学生ジョイス・バトラーに託されることとなり・・・そのジョイスも、もうひとりの手話指導員の男性と恋愛関係になってしまいます。ニムは生後5年間、結果的に教授や取り巻く人間同士の関係に翻弄され、3人を代理母の転々としたことになるのです。そして、ニムは成長しいくにつれ野生の本能にも目覚め、世話係に噛み付いたりして手に負えなくなってきます。望んでいなかった実験結果が得られないと分かった段階で、テラス教授はニムに興味を示さなくなります。大学の施設を離れてから、教授がニムを尋ねたのは一度きり・・・インタビューに答える彼には悪びれた様子は、まったくありません。

実験が中止と決まった途端に大学の施設を離れて、ニムは生まれたオクラホマ州の霊長類センターへ送り返されることになります。ただ、そこは檻の中で動物を飼う環境・・・人間のように育てられたニムにとっては「牢屋」のようなものです。その後、霊長類センターが破産して、ニムはニューヨーク大学の生体実験動物として売り払われてしまいます。テーブルに縛り付けられて、薬物を注射されてて、人間の医療のために生体実験されるチンパンジーたち・・・ニムを救ったのは、霊長類センターに手伝いに来ていた大学院生ボブ・インガーソルでした。彼の動物愛護運動により、ニムはテキサス州にある虐待された動物を保護する牧場へ移送され、なんとか命は救われます。しかし、牧場にチンパンジーはニム1頭だけ・・・集団動物のチンパンジーにとっては拷問のような生活だったのです。その後、2頭のチンパンジーが牧場に引き取られて、ニムはチンパンジーの仲間を得て、多少なりともチンパンジーらしい晩年を過ごすことが出来ました。1999年、心臓マヒで亡くなるのですが・・・ニムの生涯は、彼を利用する人間たちの事情によって、人間の世界とチンパンジーの世界という二つの世界に引き裂かれるようなものだったとしか思えません。

テラス教授の実験の結論は・・・ニムは、いくつかの言葉は覚えることは出来たが、それはその時の欲望を満足させるための手段でしかなく、人間のように言葉を駆使して文章を構築するまでには至らなかったということ。しかし、ニムの友人として関わり続けたボブ・インガーソルによると、ニム独自の手話を含めて非言語によるコミュニケーションが取っていたと語っています。ニムが、言葉を理解していたのかは分かりません・・・でも、ニムの感情は、その態度、目の表情などから察するしかないのです。だからこそ・・・ニムの心を推し量ろうとする優しさと謙虚さが、人間側に必要なのかもしれません。

さて何故、言語を覚えられるかを研究するのに「手話」なのか・・・ということですが、チンパンジーには人間のような話すための「筋肉」を持っていないので、言葉を話すことは「不可能」なのです。「猿の惑星:創世記(ジェネシス)」では、人間並の脳をもったシーザーが「NO!」と叫ぶシーンが象徴的なカタルシスを生んでいましたが・・・根本的に口内構造に変化がない限り「発音」することはありえません。言葉を話す猿に支配された世界・・・という「猿の惑星」という概念そのものは、人間が妄想するアリエナイ不安でしかないのであります。

「プロジェクト・ニム」
原題/Project Nim
2011年/イギリス
監督 : ジェームス・マーシュ
2011年10月26日「第24回東京国際映画祭」にてプレミア上映
日本劇場未公開



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