2011/05/08

傍観しているヒロインなんてぶっ殺してしまえ~!・・・”怒り”のおさまらない血みどろの復讐劇~「ビー・デビル」~



このブログでは随分と映画の感想文のような雑文を書いていますが、映画の「ネタバレなし」に映画を語るというのは、時には難しいものです。しかし、まだ映画を観ていない人にとっては、エンディングまで書いてあったら”楽しみ”を奪われるようななのかもしれません・・・とは言っても、ボクは別に映画会社から頼まれて映画の宣伝をしているわけでもありません。今回の映画は、渋谷Nシアターというマイナー映画館だけでの上映ですが、すでに日本で公開済み・・・堂々の(?)ネタバレとなります。

韓国映画「ビー・デビル」の原題は「キム・ボンナム殺人事件の顛末」・・・キム・ボンナムという女性の復讐劇を描いている映画です。舞台は、韓国の孤島にある過疎の村・・・住民はキム以外には、連れ子である娘、夫、夫の弟、そして5人の親戚の老人たち。そんな島に少女時代に島で過ごしたことのあるへウォンがソウルから休暇にやってきます。懐かしがるボンナムに対してヨソヨソしいヘウォン・・・次第にボンナムが奴隷のように働かされていることを知っていくことになります。夫は本土から3倍の金を支払って売春婦を島まで呼びつけ、昼間からセックスをしたりしています。・・・にも関わらず、男尊女卑の慣習を保守的に守ろうとして、夫を擁護する年老いた住民たち。そのような酷い状況を目の当たりにしても、ヨソヨソしいヘウォン。

夫の魔の手が連れ子の娘にも及ぼうとしていることに危機感を感じ、ボンナムはヘウォンにソウルに一緒に連れて行って欲しいと懇願します。しかし、ヘウォンはボンナム”嘘つき”呼ばわりをして断わるのです。そこで、ボンナムは夫の寝ている間に金(元々はキムが働いて稼いだ)を盗み、ボートをチャーターして自力で娘を連れて逃げようと試みます。しかし、夫に発見され激しく折檻されるはめに・・・それを止めようとして突き飛ばされた娘は岩に頭をぶつけて死んでしまいます。しかも村の老人たちが夫と結束して、娘の死を自己として隠蔽してしまうのであります。唯一、目撃者として真実を知るはずのヘウォンも口を閉ざし、娘は事故死として処理されてしまうのです。

相変わらず、奴隷のように働かされるボンナム・・・ある時、眩しい太陽に導かれるように突如、村の老人たち、夫の弟、夫を鎌で切りつけて殺し、ボンナムは遂に復讐を果たすのです。ここの殺戮描写は、なかなか残酷でありますが、これまでのボンナムの虐げられ方が尋常ではないので、思わず彼女に感情移入して「殺せ!殺せ!」と興奮してしまいます。ヘウォンだって傍観者としてボンナムに手を差し伸べなかったのですから殺されて当然・・・ボンナムはヘウォンの真っ白なドレスをハイヒールを身につけて、したことのない化粧をして、30年暮らした島を離れることに成功するのです!ボンナムのこれからの人生を想像すると、連続殺人犯として明るい将来があるわけでもない・・・それでも復讐を果たし、生き地獄を抜け出した彼女を祝福してしまう気持ちを、ボクは抑えられないのです。

もしも、ボンナムが島を抜け出し本土に上陸する場面で映画が終わったとしたら、不穏な空気を残すエンディングだと思うのですが・・・実はこの映画、原題の監督タイトルに名前があるにも関わらず、ボンナムがヒロイン(主人公)ではないのです。この映画の本当のヒロインは、ソウルから島に訪ねてくるヘウォンなのであります。

この映画は、ヘウォンのソウルでの生活から始まります。目撃した暴漢事件の犯人達からの復讐を恐れて証言をしない、ことなかれ主義のヘウォンは、ソウルにある銀行のローン課に勤めています。ローンを懇願する老婆を冷たくあしらったりする成績重視の社員で、職場のトイレで掃除婦の手違いで閉じ込めらてしまった際には、同僚の女性が意図的に彼女を閉じ込めた勘違いして殴り掛かったりします。そこで上司から休暇を取るように奨められて、ヘウォンは祖父の出身地でもあった島へ休暇で来ることになったのであります。ボンナムからは長年何度も手紙が届いていたのですが、ヘウォンはその封を一度も開けることさえなかったんです。ヒロインであるヘウォンはお世辞にも性格の良い女性としては描かれておらず・・・それ故に、キムの復讐の牙がヘウォンに剥いて「傍観者の罪」として惨殺されるべきだとボクは感じていたのでした。

しかし・・・映画では島からの脱出後、ボンナムとヘウォンの死闘という展開が待っています。へウォンは本土の留置所に間違って勾留されてしまっているのですが、そこに証拠隠滅を計るキムがヘウォンを殺しに現れます。ここからボンナムは、殺人を犯すしかなかった哀れな女性としてではなく、殺人鬼の”化け物”として描かれます。勿論、最後にはボンナムはヘウォンの手によって殺されるわけですが・・・自己防衛でやむなくヘウォンはボンナムを殺したかのごとく「お涙頂戴」の郷愁の場面となってしまいます。

その後、ヘウォンはソウルへ戻り、今度は勇気を持って暴行犯グループの証言をすることができるようになります・・・そして、初めてボンナムからの手紙を封を切るのですが、そこには繰り返しヘウォンに助けを求めるボンナムの言葉があったのです。今更、ボンナムの気持ちを理解しようとしても遅過ぎる・・・何とも”怒り”のおさまりようのない不愉快な終わり方なのでした。


「ビー・デビル」
原題/김복남 살인사건의 전말キム・ボンナム殺人事件の顛末)
2010年/韓国
監督 : チャン・チョルス
脚本 : チェ・グァニョン
出演 : ソ・ヨンヒ、チ・ソンウォン、パク・チョンハク



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