2010/03/28

何故かアカデミー賞作品賞にノミネートされたカルトな怪作〜「第9地区」〜


今年からアカデミー賞は「アバター」と「ハート・ロッカー」の元夫婦対決ばかりに注目されましたが、作品賞のノミネートが5作品から10作品に増えたことも興味深い変更でした。
ゴールデングローブ賞がコメディ部門とドラマ部門に分かれているのに対抗してなのか、それともノミネート作品を増やすことで興行収入アップを狙っているのか、真意は分かりませんが・・・ノミネートの作品数が増えたことで「これが作品賞?」と思うようなタイトルまで加わることになったような気がします。
その中でも、作品賞以外にも脚色賞、編集賞、視覚効果賞の4部門にノミネートされていた「第9地区」は、作品賞などには縁のなさそうなカルトな怪作ではないでしょうか?

第9地区」は「ロード・オブ・ザ・リングス」を監督したピーター・ジャクソンの製作で、南アフリカ出身のニール・ブラカンプという監督の長編映画デビュー作品です。
1982年、南アフリカのヨハネスブルグ上空に突如現れた宇宙船が現れます。
その宇宙船には、外見がエビ(甲殻類系)に似たエイリアンの難民がおり、第9地区と呼ばれる難民隔離地区に地球人共存して暮らすこととなっている今というのが舞台です。
ナイジェリア人のマフィアなどに支配され、第9地区の治安が悪化してスラム化したために、エイリアンを第10地区へ強制的に退去させることになります。
その任務を現場で遂行する機関(MNU)の男が、この映画の主人公です。
彼が宇宙人の住処を探索中にエイリアンのウィルスを接してしまうことで、負傷していた右手から徐々に宇宙人に変化していきます。
皮膚を破って甲殻類系に体右半分が変貌していう様子は、クローネンバーグ監督の「ザ・フライ」を思い出させるグロテスクさです。
宇宙人のDNAも持ち合わせることにより、エイリアンしか使えなかった強力な武器を使えるようになり、彼は人類にとって人体実験の対象とされてしまうのです。
エイリアンを容赦なく殺す閉鎖された研究所から脱走して、彼は第9地区に逃げ込みます。
そして、彼はモビールスーツに乗り込んで、エイリアンのために地球人と戦うのです。

マイノリティーの差別(南アフリカのアパルトヘイト政策)を連想させ政治的な問題提起をしているようでありますが、エイリアンのルックス、エイリアンがキャットフード好きという設定、肉片飛び散る残酷な描写など、どこかB級映画なカルト臭がプンプンするのです。
フェイクドキュメンタリーという形式をとっているので、全編不安定なカメラアングルで撮影されています。
また、台詞は俳優たちに即興で演じさせるという、臨場感を重視した手法をつかっています。
これは、主人公を演じたの監督の友人(演技経験のない素人)のために、状況説明だけして即興で演じさせたらしいのですが、逆にその場で台詞まで考える方が難しそうに思えてしまいます。
スタッフも監督の知り合いである南アフリカの人たちが多く、ハリウッド映画と比較すれば低予算で制作された映画ではありますが、逆に難民街のリアリティーは感じられました。
しかし、シチュエーションの説明不足なツメの弱さが目立つ映画でもありました。
科学的にも軍事的にも地球人よりも進んでいるエイリアンであるにも関わらず、何故差別されながらもスラム化した難民隔離地区に留まることに甘んじてるのか?
何故、宇宙船に戻る燃料になるガスを吸うと、主人公の体がエビ宇宙人になってしまうのか?
主人公の家族のリアクションなどが、現実感に欠けている印象もあります。
あれこれツッコミどころがあっても、カルトな魅力に満ちた怪作であることは確かな映画ではあります。
アメリカで大ヒットしたということで、続編が制作されるらしいので、それによって辻褄の合わない部分の説明がされるのかもしれません。


「第9地区」
原題/District 9
2009年/アメリカ、南アフリカ、ニュージーランド
監督 : ニール・ブロカンプ
製作 : ピーター・ジャクソン、キャロリン・カニングハム
脚本 : ニール・ブロカンプ、テリー・タッチェル
出演 : シャルト・コプリー、ジェイソン・コープ、デヴィッド・コープ



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