2010/04/10

どこか懐かしい硬派のチンピラ、ヤン・イクチュンに心惹かれて・・・~「息もできない」~


韓国映画の「息もできない」に僕が興味を持つきっかけは、新聞の広告にあった振り返った男の顔でした。
子供ころ普通に良い子であった僕は、大人になった今でも”不良/ワル”に憧れを密かに持ち続けていて、憂いと淋しさのある時代遅れな(ここ重要!)硬派の”チンピラ”に、どこか心惹かれてしまうのです。
近年は韓流ドラマの影響で「癒し系の優男」というのが韓国男性のステレオタイプの主流なのかもしれませんが・・・僕自身のNY生活での韓国男性の印象というのは、感情的に熱しやすく、日本人男性と比べてマッチョ気質なことでした。
この映画の主演を演じているヤン・イクチュンは、僕のステレオタイプに準じた懐かしい雰囲気のある”硬派のチンピラ”そのものだったのです。

この映画に出てくる男のすべては、家庭内で暴力をふるうというトンデモナイ「暴力おとこ」ばかりなので・・・その中でもヤン・イクチュン演じるサンフンは、借金の取り立てる時は勿論、女性相手でもグーで殴ってしまうような、容赦なく暴力をふるうことの出来る男として描かれています。
母と妹を死なせて出所してきた元暴力男の父親に対しては、鬼のような形相で殴る蹴るの暴力をふるうのですが、深い心の傷を抱えた憎しみに満ちた表情がゾクゾクするほどの怖さもあり、切なさも感じさせるのです。
それほど憎んでいるにも関わらず、父親が手首を切って自殺を図った際には、自分の血をいくらでも輸血してでも命を救たいと懇願するサンフンに、愛おしさも感じてしまいました。
サンフンの暴力をきっかけで知り合った気の強い高校生の少女ヨニ(キム・コッピ)もまた、家では頭のおかしな父親と兄の二人から暴力をふるわれています。
サンフンとヨニはお互いを罵倒しながらも、少しずつ心を通わせていきますが、お互いの不幸な家庭環境を語り合うことさえありません。
ただ、そんな二人が一度だけ素直にお互いの感情を表すのが、ヨニがサンフンを膝枕しながら台詞もなしで涙を流すシーンです。
お互いの心の傷や不幸な繋がりを何も知らないからこそ、彼らは癒し合えたのかもかもしれません・・・。
気持ちを言葉にできない不器用な男の涙ほど重い意味を持っているようで、サンフンはその後取り立て屋の仕事を辞めて堅気になろうとするのです。
もちろん、ハッピーエンドで終わるはずでもなく、暴力の連鎖と循環によって、物語はやりきれなくない結末となっていくのは言うまでもありません。
硬派のチンピラの生き様は、どこまでも切なく悲惨に・・・というのも、僕の理想とする展開でした。

手持ちカメラを多用や、チンピラと少女の恋物語というのは、ゴダールの「勝手にしやがれ」を思い起こさせられたのですが・・・それもそのはず「息もできない」の海外公開用の英語タイトルは「Breathless」で「勝手にしやがれ」の英語タイトルと同じなのです。
韓国の儒教的な男性優位主義による家庭内暴力とか、言葉にできないほどの心の傷を抱えた男女の物語という、ウェットになりそうな話を、お涙頂戴の泣かせる映画にしなかったところが、監督と主演を務めたヤン・イクチュクのセンスかもしれません。
実は、主演のヤン・イクチュン自身が企画、製作、監督、脚本、編集までをして(まるで「ロッキー」のシルベスター・スタローンのように!)さらに資金集めのために自宅まで売ったというほど、まさに彼の人生を賭けていた映画だったのでした。
もしかして・・・役柄と同じように、リアルのヤン・イクチュンもバリバリ硬派なのかと期待したのですが、インタビューに答える様子をイギリス版DVDの特典映像でみたところ、映画とまったく違う(当たり前か!)今どきの韓国の青年(それも撮影時より太ってた!)で、ちょっとガッカリしてしまったのでした・・・。


「息もできない」
原題/糞蠅(英語タイトル/Breathless)
2008年/韓国
監督、製作、脚本、編集 : ヤン・イクチュン
出演 : ヤン・イクチュン、キム・コッピ、イ・ファン



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