「ショーン・オブ・ザ・デッド」と「ホット・ファズ/俺たちスーパーポリスメン」で知られる”サイモン・ペグ”と”ニック・フロスト”の、映画オタクのイギリス人コンビ(脚本と主演)が、「宇宙人ポール」で遂にアメリカ上陸であります。「ショーン・オブ・ザ・デッド」では、ゾンビ映画、「ホット・ファズ/俺たちスーパーポリスメン」では、ポリスバディムービーをネタにして、リスペクト&オマージュ満載の作品で知られている二人ですが、本作は、J.J.エイブラム監督の「スーパー8」とは、違う方向性のスティーヴン・スピルバーグ(「E.T.」「未知との遭遇」「レイダース/失われたアーク」など)のリスペクト映画となっています。それも、スピルバーグ本人が(声だけですが)カメオ出演をしているという”お墨付き”です。ただ、前2作(「ショーン・オブ・ザ・デッド」「ホット・ファズ/俺たちスーパーポリスメン」)で組んだエドガー・ライト監督ではなく・・・「スーパーバッド/童貞ウォーズ」「アドベンチャーランドへようこそ」のグレッグ・モットーラ監督と組んだということもあってか、イギリス的な悪趣味ギリギリ感(バイオレンスやジョークの表現)は、若干薄まった印象ではあります。
アメリカの”コミコン(Comic-Con)”に参加したイギリス人のイラストレーターとライターの二人組(サイモン・ペッグ/ニック・フロスト)が、キャンピングカーでアメリカ旅行の途中エリア51付近を通過中に、施設から逃げ出した宇宙人のポール(声:セス・ローガン)を母船のUFOに帰還させるという「E.T.」を連想させるロードムービー。ポールは60年ほどアメリカの施設に閉じ込められていたために、アメリカの文化に染まったベタなアメリカンなキャラクターの宇宙人であったのです。ポールというAlien/エイリアン(宇宙人)と、イギリス人というAlien/エイリアン(外国人)というエイリアン同士がアメリカ中西部を横断して、キリスト教原理主義的なアメリカ人に追い回されたりして、実は保守的な宗教大国であるアメリカの実態を浮き彫りにしているところは、イギリス人的な皮肉が効いています。ただ、ポールを追うの連邦捜査官のエージェントが、オタクなアメリカ人の二人組”だけ”というのが機密任務としても、あまりにもスケールがこじんまりとしております。
ポールは外見的に「E.T.」を意識しているのは勿論・・・傷を治癒したり、死んだ生き物を生き変えさせられるヒーリングパワーを持っているというのも「E.T.」と同じ。さらに、スピルバーグ映画だけでなく、「エイリアン」「プレデター」「メン・イン・ブラック」「バック・トゥ・ザ・フーチャー」「スター・ウォーズ」「スター・トレック」などのハリウッドのSF映画をネタにしていて・・・”リスペクト&オマージュ”というよりも”パロディ”に近い感じでしょうか。小ネタを入れることを期待されているという本末転倒なところもあるので、あまり欲張りすぎるとハリウッド製のパロディ映画みたいになってしまいそうです。終盤に姿を現すシガニー・ウィバーは、トンデモナイ特別出演の仕方で・・・”ステレオタイプ”だけの「出オチ」のようで、ちょっと悲しくなってしまいました。
”サイモン・ペグ”と”ニック・フロスト”のコンビの、アメリカ映画リスペクト以上に重要なテーマとして、社会性の欠けたイケてない中年男二人の友情があると思います。この「男同士の友情が一番!」という”ホモ・ソーシャル感”を貫いているからこそ・・・すべてが暴力で崩壊しようとも、主人公がヒロインと結ばれても、男二人の物語として完結して、見事に”男の子ムービー”として成立してるのです。本作も「バディ・ムービー」として”ホモ・ソーシャル感”は十分機能はしているのですが・・・男が二人だけでキャンピングカーで旅をしているから、アメリカの田舎者たちに「イギリス人のゲイカップルのハネムーン」と勘違いさてしまうというジョークは、ボクのようなリアルゲイにとっては、正直まったく萌えませんでした・・・まぁ、二人がボクの好きなタイプからは、ほど遠いというのは大きな理由でありますが。
イギリス人の英語の発音は上品っぽく聞こえるので、それがオネェっぽくて男らしさに欠ける印象を与えるかもしれませんが・・・「サイモン・ペグとニック・フロストの二人を見て”ゲイ”と思い込むことなんてあるのかよ!」としか、ボクには思えません。しかし、ふたりでロケハンをしている時に、実際にゲイカップルに勘違いされた経験したことを元ネタにしているということなんで・・・男二人でつるんでいるだけで「ホモだ!」と思われるほど、アメリカは極端にホモフォビアで、マッチョ嗜好の強いということなのでしょう。ただ、ホモフォビアを描いてしまうということは、ホモ・ソーシャルな友情が(アメリカの田舎では)他者の目に、どう映っているのかを明らかにしてしまったわけで・・・指摘してはいけないポイントを指摘してまった気がします。
ゲイであることを隠したい”クローゼットのゲイ”にとって、男と一緒にいるだけで「ゲイカップル」と思われるなんて、恐怖以外の何物でもないと思うのですが・・・ホモ・ソーシャシャル好きの「腐中年」にとっては、逆に”ゲイカップル”に間違われるのは、ちょっと嬉しいことなのかもしれません。さらに「俺はゲイに好かれた経験がある」とか「この先輩ならケツやられても良い!」とかの、ゲイネタで異様なほど「腐中年」同士で盛り上がるというのは・・・ボーイズラブ好きの「腐女子」の妄想よりも”いびつ”な感性に感じられます。ただ「腐中年」って・・・ゲイには受けないタイプの男ということが殆どで「ゲイ男子」と「腐中年」が、どうかなるなんて事は、まずありません。ただ「腐中年」がリアルに男性経験を持った途端に、単なる「遅咲きのゲイ」(本人的にはバイと言い張りたいでしょうが)ということになるわけで・・・「腐中年」と「遅咲きゲイ」の線引きって、結構、危ういものかもしれません。
「宇宙人ポール」
原題/Paul
2010年/アメリカ、イギリス
監督 : グレッグ・モットーラ
脚本 : サイモン・ペッグ、ニック・フロスト
出演 : サイモン・ペッグ、ニック・フロスト、ジョイソン・ベイトマン、シガニー・ウィーバー、スティーヴン・スピルバーグ(声)、セス.ローガン(声)
2011年9月18日
第4回したまちコメディ映画祭「映画秘宝まつり」にてジャパンプレミア
2011年12月23日より全国公開
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