2012/02/01

ラース・フォン・トリアー監督の鬱(うつ)地獄へようこそ・・・すべてが「無」になる世界の終わりこそが究極のハッピーエンドなのだ!~「メランコリア」~


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「鬱になってしまいそうな映画」を撮らせたら右に出る監督はいないラース・フォン・トリアー・・・前作の鬱ホラー映画「アンチクライスト」に続く最新作は鬱SF映画!(といっても、ハリウッドのSF映画とは根本的に大きく違いますが)タイトルもズバリ「メランコリア」=「うつの心理状態」であります。雄大な世界観を舞台に個人的な心象をテーマ扱った映画として、テレンス・マリック監督の「ツリー・オブ・ライフ」や、マイク・ケンヒル監督の「アナザー・プラネット」(日本では劇場公開なしのDVDスルーで3月16日に発売)が思い起こされますが・・・「メランコリア」では何かしらの”救済”さえ提示されない、まさに”トリアーらしい”作品です。

巨大惑星”メランコリア”が地球に衝突する日が数日後に迫っている中、ジャスティン(キルスティン・ダンスト)とマイケル(アレクサンダー・スカルスガルド)の結婚式が、ジャスティンの姉夫婦、クレア(シャルロット・ゲンズブール)と大金持ちのジョン(キーフアー・サザーランド)の海辺の大豪邸で挙げられています。

しかし幸せの絶頂にあるべきはずのジャスティンは・・・披露宴に遅刻したり、ケーキカットをキャンセルしたり、ブランデーをラッパ飲みしたり、奇行を繰り返すのです。姉クレアとジョンは結婚式を台無しにさせまいと、ジャスティンを強く叱るのですが、ジャスティンの会社の社長を怒らせた上に、仕舞いには新郎のマイケルにまで愛想を尽かされてしまうのであります。ただ・・・不快な言動や行動をしているのはジャスティンだけではありません。姉夫婦のクレアとジョンは自分たちが計画して費用も出している豪華絢爛な披露宴がぶちこわしになることや、世間体を気にしているだけだったりします。母(シャーロット・ランプリング)は冷えきった自分の結婚生活を皮肉るようなスピーチをすますし、父(ジョン・ハート)は性悪ないたずらをウェイターに仕掛けて喜んでいたりします。

鬱であるジャスティン「だけ」は、惑星”メランコリア”が地球に激突して世界が終わることを確信していて、うわべの祝福や笑顔には何も意味を見出せていないようです。不思議なことに、彼女は生命は地球にしか存在しないことにも確信しているようで・・・つまり、惑星”メランコリア”が地球に衝突することによって、すべての生命が消滅して、宇宙は「無」になってしまうことであるというのであります。

虚無感と絶望の中、満足に食事もできず、ひとりで入浴もできないような酷い状態に落ち込んだかと思うと・・・世界の終わりが近づくにつれジャスティンは妙な落ち着きを感じさせたりします。これは、ラース・フォン・トリアー監督自身が鬱病に苦しんでいた時に、体験したセラピーからアイディアを得たとのこと・・・鬱病の患者は悪い事が起こると予測して、強いプレッシャーに冷静に行動する傾向があるということなのです。一方、姉のクレアやジョン達は、次第に空で大きくなっている惑星”メランコリア”が、地球に衝突することを確信するにつれ、悲観的になり自分を見失っていきます。

「メランコリア」ではタイトルの冒頭に、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」をバックに約8分ほどの台詞のない詩的なイメージ映像が流れます。超倍速カメラで撮影されたスローモーションなのですが、音楽と相まって、圧倒的に尊厳のある映像美を見せつけられます。鳥が空から落ちてきたり、馬がゆっくりと倒れていったり、ウエディングドレス姿のジャスティンが小川を流れていったり(ミレイの”オフィーリア”から引用)・・・そして、地球より遥かに大きい惑星”メランコリア”が地球に激突したところでタイトルが現れるのです。ある意味、「メランコリア」という映画は、この冒頭の8分で本作の要点を語ってしまっているとも言えるかもしれません。

最後には惑星”メランコリア”は目の前いっぱいに広がるほど地球に近づき、ジャスティンとクレアに向かって激突!・・・世界は終わり、すべてが「無」となって映画が終わります。自分を含め、世界のすべてが消滅するというのは、ある意味、究極のハッピーエンドと思えてしまうところがあります。鬱にとっての究極の結論は、自分の存在を消してしまうこと。その手段としての、内的な「無」という「自殺」と、外的な「無」である「世界の終わり」・・・そのふたつは鬱にとって紙一重でもあったりするのですから。


「メランコリア」
原題/Melancholia
2011年/デンマーク、スウェーデン、フランス、ドイツ、イタリア
監督&脚本 : ラース・フォン・トリアー
出演    : キルスティン・ダンスト、シャルロット・ゲンズブール、キーフアー・サザーランド、シャーロット・ランプリング、ジョン・ハート、ウド・ギア、アレクサンダー・スカルスガルド、ステラン・スカルスガルド

2012年2月17日より劇場公開



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