「ドライヴ」効果なのか、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の過去の作品が日本で公開される気配です。
「ヴァルハラ・ライジング」は、北欧神話的なヴァイキング風の戦士を描いているのですが・・・血湧き肉躍る史劇を期待すると裏切られてしまうような映画です。どうちらかというと、北欧尾神話的世界観のSFファンタジーのような感じと言っても良いかもしれません。寓話的な物語からピエル・パオロ・パゾリーニ監督を、壮大なスケールからヴェルナー・ヘルツォーク監督を、幻想的で映像表現からラース・フォン・トリアー監督を連想されられる一作でもあります。
血や肉は飛び散りまくりで、相変わらずニコラス・ウィンディング・レフン監督らしい残酷な暴力描写には手加減はありません。スプラッター映画以上のグロテスクな描写と、ブルーグレーを基調としたスケール感のある美しい風景との対比・・・より殺伐とした雰囲気を感じさせます。時折、フラッシュバックのように映される主人公の幻覚(?)は、赤をベースにした凝った映像美です。また、音楽は限定的にしか使われず・・・風の吹き荒れる音、骨が砕ける音、肉片が切り裂かれる音、血が噴き出す音などの効果音だけが響きます。物語を追うにしても・・・登場人物それぞれの立場や背景というのは、少ない会話や服装から推測するしかないという「前衛フィルム」のようでもあるのです。
舞台は11世紀あたり・・・主人公は口のきけない戦士で、ケルト風部族のグループの奴隷という身です。彼からは”One-Eye/ワンアイ"(マッツ・ミルケセン)と呼ばれています。鎖に繋がれたまま、他の捕虜らと殺し合いをさせられるのですが、圧倒的に強い”ワンアイ”は、鎖で相手を首を絞めたり、頭をぶち割って脳みそを飛び散らせるほど、残忍でもあります。普段は檻に閉じ込められていて、世話をするのは別な部族の奴隷の少年(マールテン・スティーヴンソン)です。
ある日の移動中、”ワンアイ”は、グループ全員を皆殺しにして脱走をします。岩に縛りつけた敵の腹を槍の先で切り裂き、内蔵を引きずり出したり・・・敵のリーダーの男の生首を晒して復讐をするのです。彼の世話係だった奴隷の少年は、黙って彼について行動を共にすることになります。しばらくして二人が遭遇したのは、キリスト教を信仰するヴァイキングのグループ・・・彼らは”先住民”らしいインディアン風のグループ(キリスト教徒からすると異教徒)の男たちを皆殺しにして焼却し、女たちは裸にして放置したりしているという”ひとでなし”。彼らは、聖地(エルサレム)へ行って金と土地を手に入れることを計画していて、”ワンアイ”に同行するように誘うのです。
ヴァイキングのグループと”ワンアイ”と少年は、船に乗って旅立つのですが、濃い霧に巻き込まれて、動けなくなってしまいます。「こいつの呪いだ」と、奴隷の少年を殺そうとするヴァイキングの戦士を、”ワンアイ”は、少年を庇って殺してしまいます。しばらくして、船は再び浮かび、森の中の川を進んでいきます。霧が晴れると、インディアン風の部族が埋葬した死体が置かれている土地へと辿り着いてしまいます。彼らはここを、神の征服した土地(約束の土地?)として十字架を立てるのですが・・・一人の戦士が忽然と姿を消してしまいます。
ここからエンディングのネタバレを含みます。
再び船で上流を目指すと、いきなり弓矢で攻撃され、また一人殺されてしまいます。見知らぬ場所で、次第に狂っていくヴァイキングのグループ・・・もしかして”ワンアイ”によって地獄に連れてこられてしまったのではないかと、仲間割れが起り皆殺しとなってしまうのであります。”ワンアイ”と少年は、対岸へ逃れるのですが・・・そこにはインディアン風のグループの戦士たちが待ち構えており、”ワンアイ”は、まるでそうなることを予期していたように(?)されるがままに殴り殺されるのです。少年は殺されはしませんが、その後、どうなるかは分からないまま映画は終わります。
”ワンアイ”は・・・先住民たちへ自らの身を捧げて贖罪を背負うという、ある意味”キリスト”のような存在なのでしょうか?宗教の名に於いて、世俗にまみれたキリスト教徒を名の乗るヴァイキングたちは皆滅び、”ワンアイ”を献身的に信じる奴隷の少年だけが最終的に生き残る・・・どこかしら”信仰”の意味を問いているような気がしました。
「ヴァルハラ・ライジング」
原題/Valhalla Rising
2009年/デンマーク、イギリス
監督 : ニコラス・ウィンディング・レフン
出演 : マッツ・ミケルセン、マールテン・スティーヴンソン
2012年4月7日よりヒューマントラストシネマ渋谷にて公開
ニコラス・ウィンディング・レフン監督次回作の「Only God Forgives」は再びライアン・ゴズリング主演でタイを舞台にした復讐劇だそうです。待ちきれません!
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