2012/03/17

ポジティブ信仰が正しい世の中だからこそネガティブ思考から幸福になれるの!~「絶望名人カフカの人生論」フランツ・カフカ著/頭木弘樹編集・翻訳~


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ボクが20代の頃(1980年代)には「ネクラ」とか「ビョーキ」とか、ネガティブな嗜好が一部では流行って(?)おりました。今、思い返せば、世界的にもバブル経済の好景気だった、あの頃・・・ネガティブになるという「遊び」を若者が余裕でできるほど「豊かな時代」であったということなのかもしれません。バブルの弾けてから慢性の不況の時代になってしまうと、思考だけでもポジティブになろうとするものなのでしょうか?


「追い続ければ夢は叶う」「思いはいつか伝わる」というようなポジティブ信仰は、さまざまなメディアから垂れ流しにされております。ここのところ増えているのが、いわゆる夢を叶えたアーティストとが熱い思いで語るというヤツ・・・「夢を持つ事」「思いを伝えようとする事」を否定するつもりはないけど、ファンに向かって語ってしまうというマスターベーション的パフォーマンス。これって、自分はただ運が良かったわけでなく、それなりの努力して夢を叶えたんだって訴えているようにも受け取れてしまいます。ポジティブ信仰の言葉は間違っているわけではないけど・・・良くも悪くも誰にでも当てはまる繰り返し語られてきた凡庸な言葉だから深みはなく、一時しのぎの自己暗示としてはパワーを得る有効な手段なのかもしれません。


「勝ち組、負け組」という格差社会が日本でもリアルになってくると、うまいことやって”ひと山”当てたいなんて”生臭い”夢になりがち。「夢を叶える」ための努力と言えば・・・第一人者的には全面的に正しい行為ではありますが、目的のためには他人を利用したり、踏み台にすることにも、鈍感になってしまうことだってあります。第三者的には自己チューになってしまった自分のことを、ポジティブ信仰によって無意識に肯定してしまうこともありがちのような気がします。


「絶望名人カフカの人生論」は、日本人のカフカの研究家の黒木弘樹氏が、カフカの残した手紙や手記からネガティブな人生観を表す文章を引用した本であります。


ボクは学生時代に「変身」を読んだくらいで、作家のカフカがどういう人で、どういう人生を歩んだのか、知りませんでした。彼は生前に作家として認められることがなかっただけでなく、プライベートライフも自分が望んだように生きられませんでした。仕事が嫌でも生きるためにサラリーマンを辞められず、何度か婚約するにも関わらず生涯独身で、家族と仲が悪くて理解されていませんでしたし、行き詰まって長編小説を書き上げることもなく、カラダが弱くて病気がちで40歳という若さで亡くなっているのです。まったくもって人生に前向きでなく、弱音を吐き続けたカフカの究極のネガティブな言葉は、絶望した者が実感した、具体的で、新鮮な発想に触れることができるのです。


将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。

将来にむかってつまずくこと、これはできます。

いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。


カフカが婚約者であった女性に送った手紙からの引用だそうです。前に進むことが、つまずくことにしか思えない時というのは、人生の中で起こることがあります。そんな時には、前にも後ろにも動けななくて、倒れてしまいそうになるものです。それならば倒れたままでいることを、素直に受け入れてしまうというのは・・・本来の意味での「ポジティブ・シンキング」であるのかもしれません。


幸福になるための、完璧な方法がひとつだけある。

それは、

自己のなかにある確固たるものを信じ、

しかもそれを磨くための努力をしないことである。


これは・・・恐ろしく深く重い言葉です。自分に才能があると信じて努力をしなければ、成功しなくても「努力しなかったから」という言い訳をして傷つかなく済むし、万が一成功した場合には「努力もしないかったのにスゴイ才能だ」と自負できるという・・・いずれでも自尊心は守られるというパラドックス。無意識にやってしまいがちの、自分に都合の良い「逃げ」の心理を、ここまで厳しく指摘できるのは、カフカ自身が「努力しない自分」とも正直に向き合ったからこそでしょう。


カフカ自身だけでなく、周りの人たちにとっても、この上なく面倒くさいほどネガティブであったカフカですが、彼には彼の才能を高く評価した親友がおりました。生前に出版された短編集も、死後になってカフカの作品のすべてが出版されたのは、親友のマックス・ブロートという作家の力添えのおかげだったのです。皮肉なことに、マックス・ブロートは当時、人気作家として大変成功していたそうですが・・・現在では彼は作家としてよりも、カフカを世に出した人として歴史に名を残したに過ぎません。


君は君の不幸の中で幸福なのだ。


マックス・ブロートがカフカに送った手紙の中で書いたという言葉です。絶望から逃れないで、ネガティブな自分を100%受け入れられることは、実は幸福なことかもしれません。そこにはポジティブ信仰ばかりしていては、見逃してしまう真理があるのですから・・・その真理がいかに辛辣であっても、自分なりに真理を知ることができるというのは、やはり幸福である瞬間であるはずなのです!



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