2010/06/16

21世紀の「仁義なき戦い」となりえるのか?・・・”黒豚のカツ丼”で悪いか、コノヤロー!~「アウトレイジ」~


ボクにとっての”キタノ映画”と言えば・・・寡黙で武器な印象の登場人物唐突で痛い暴力描写台詞が極力省略されたシナリオ象徴的なワンカット挿入の編集など、独特な絵作りの印象が強いのです。
登場人物たちの真っ正面からの顔のアップ・・・その表情から「嬉しいのか」「哀しいのか」「楽しいのか」「切ないのか」の気持ちを読み取るのは観る者次第。
たけしの演じる役が映画の中で殺される、または自殺する・・・「死への郷愁」さえを感じさせる虚無感が、ボクが最も好きなキタノ映画の世界観なのです。
それは「その男、凶暴につき」「3-4x10月」「ソナチネ」「HANA-BI」といった”キタノ映画”を代表するバイオレンスのイメージを、ボクが引きずっているだけなのかもしれません。
ここ数年の作品は、内面を描くような”映画作家”としての成熟さを感じさせながらも、北野監督の本質とは違う印象は歪めないところもあったのです。

最新作「アウトレイジ」は、得意とする”バイオレンス映画”への原点回帰をしながらも、ボクの好きな”キタノ映画”「らしさ」の要素は封印され・・・良くも悪くも「商業映画っぽい映画」になっています。
料亭での食事会から幹部達が黒塗りの車でゆっくりと会場を去っていくところで、タイトルバックが「ドドーン!」と出るという、まるで”Vシネマ”的なベタな始まり方をさせているのも、王道という感じです。
山王会という大きな組織と、その直下の「池元組」、さらにその配下の「大友組」、そして「池元組」の組長と兄弟の契りを交わしている「村越組」という4つの派閥の物語なのですが・・・”やくざの抗争”を描く映画となると、深作欣次監督「仁義なき戦い」を思い出さずにはいられません。

1970年代に製作された「仁義なき戦い」は、実録シリーズとして、それまでの様式的で任侠の美学を追究したような”やくざ映画”とは違い、生々しい暴力描写と臨場感溢れるカメラワークで、リアルなやくざを描いた名作です。
裏社会という扱った内容だけでなく、映画としての構成ハンドカメラの構図など、革新的な映画でもありました。
当時のやくざ映画界の層の厚い役者陣が総出演し、端役にまで重みとリアリティーを醸し出していたのも圧巻!
数多くの登場人物を巧みな心理描写によって見事に描き分けながら、ひと筋縄ではいかない複雑なやくざの世界の人間関係を描いていく・・・義理と裏切りが背中合わせに存在する「虚しさ、惨めさ、皮肉さ」までもが表現されていたのです。

「アウトレイジ」「仁義なき戦い」よりも、さらに”仁義”なき”やくざ社会”・・・理不尽なけじめのつけ方だけは強要されるという、一般人には理解しがたい倫理観を持った世界を描いています。
出てくる人物が「コノヤロー!」「バカヤロー!」と怒鳴り合っているうちに物語は進んでいくのですが、複雑な人間関係を無駄なカットやシーンのない職人的なシナリオと編集で、スイスイ見せてくれます。
それぞれの登場人物が、自分の保身と利益のためだけに仲間を裏切り合う・・・という現代社会の歪みを比喩したような、宣伝コピー通りの「全員悪人」という人間像は、分かりやすい反面、面白みには欠けます。
・・・唯一、大友組長(ビートたけし)だけには、ちょっと共感はできるかもしれませんが。
そして、やくざのイメージがない”三浦友和””加瀬亮”が、コワモテ役者ばかりの中でも一番怖い・・・というのは、ある意味、狙っている感ありありでした。
過去の”キタノ映画”にあった、目を覆いたくなるような痛い暴力表現や、不快になるほどの無意味な極悪さが、今回は若干控えめという印象でもありました。
本当は、誰が、誰に、対して「下克上」しているのか、そして誰が最後に生き残るのか・・・という物語の結末へ引っ張っていくストーリーテリングは見事なものの、エンディングまで一度観てしまえば、それほど心に深く残るものもなく、”キタノ映画”好きとしては物足りなさを感じずにはいられませんでした。

北野監督によると「アウトレイジ」では「黒豚のカツ丼」を作ってみたんだということ(読売新聞6月16日)・・・興行成績のことも考えて、映画作家としての感性はデフレさせて、大衆的なアピールをより意識した作品ということのようです。
そこに「カツ丼」以上の味の表現を求めるのは、本末転倒なのでしょうか?
また、他のインタビュー(CUT6月号)によると「アウトレイジ」の続編の構想しているとのこと・・・(勿論、この作品のヒット次第でしょうが)、もしもシリーズ化されたらとしたら、否が応でも「仁義なき戦い」と比較されることになるでしょう。
「アウトレイジ」は、”キタノ映画”の新たな集大成的なシリーズの「前菜」なのかもしれません。

「アウトレイジ」
2010年/日本
監督/脚本/編集 : 北野武
音楽 : 鈴木慶一
出演 : ビートたけし、椎名桔平、三浦友和、加瀬亮、國村隼、杉本哲太、塚本高史、中村英雄、石橋蓮司、小日向文世、北村総一朗


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