伊達騒動を描いた「慙紅葉汗顔見勢 伊達の十役」というのは、19世紀初頭に七代目団十郎によって初演されたのですが、その後幻の狂言として再演されることはなかったそうです。
恥も外聞もかまわずに紅葉のように顔を真っ赤にして大汗を流して演じたらしい(題名の由来)ので、体力的にも大変厳しい芝居であったことは想像ができます。
今から約30年前に市川猿之助によって蘇えり、その後何度も再演され猿之助の「十八番」となりました。
そして今回、本家の成田屋(海老蔵)によって再び「伊達の十役」が演じられるに至ったというのは、歌舞伎の歴史に刻まれるのではないかと感じずにはいられません。
猿之助が初演した時にも僕は観ているはずなのですが、いつものことながら内容はすっかり忘れてしまっており、見所が出てくると「そうだ、そうだ」と思い出しているという始末でした。
お家騒動を描いているので、いろいろな伏線や因縁などが絡んでくるのではありますが「伊達の十役」というお芝居は、何はともあれ主演役者が主要人物のすべてを早変わりで演じるという事を楽しむというのが醍醐味だと思います。
老若男女善悪の役柄を、入れ替わり立ち替わり海老蔵が若い体力でサクサクと早変わりをしながら、演じ分けていきます。
立役を演じることが多い海老蔵が、殿様の息子を守るために自分の息子を目の前で殺されるても感情を押し殺す難しい母親役に挑戦しているのですが、これが思いの外の熱演でした。
若さと端正な顔立ちということもあって、普段では観ることの少ない綺麗な女形の海老蔵をじっくりと観れるといのも、このお芝居の楽しいところです。
早変わりの圧巻は、花道でのすれ違いざま一瞬にして衣装が入れ替わっているところでしょう。
猿之助の時代から僕は何度も観ている場面ですが、どのようにして入れ替わるのかがいまだに分かりません・・・何か衣装に仕掛けがあるようなのですが。
立役の中でも海老蔵が得意とする荒事の男之助役になると、やはり睨みまくりで生き生きと演じているなぁと感じてしまうのは仕方ないのかもしれません。
仁木弾正役での宙づりでの退場シーンは、猿之助演出のスペクタクルなシーンで、技術の進化とともに仕掛けの機械も小型化して、本当に宙に浮いているようで、ますます幻想的になったような気がします。
しかし、アナログな歌舞伎の様式というのも特殊効果のようなものです。
海老蔵が目の見開いて睨むと、舞台上から客席まで距離があるのに、顔がアップのように感じてしまう迫力でした。
十役の中で、一番海老蔵がのびのびと演じているのは悪役の土手の道哲役で、生意気でありながら憎めない”素の海老蔵”にもかぶるような気がします。
去年の夏の「石川五右衛門」は、海老蔵の「金太郎飴」のようでしたが、今回の「伊達の十役」は例えるならば「ガチャガチャ」のような感じで、次から次へと違う形の海老蔵が出てくるといったお芝居でした。
初春長田歌舞伎「慙紅葉汗顔見勢 伊達の十役」
市川海老蔵、市川右近、中村獅童、市川春猿、片岡市蔵、市川猿弥
2010年1月2日~26日新橋演舞場
2010年1月2日~26日新橋演舞場
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