2011/01/20

園子温監督最新作は”おっさん”が怖い・・・人生っていうのはイタイもんなんだよ!~「冷たい熱帯魚」~



試写会の抽選に当たったので、今月29日からの劇場公開を前に、園子温監督の最新作「冷たい熱帯魚」を観てきました。
「愛のむきだし」「奇妙なサーカス」が、ボクの好きな園子温度監督の作品・・・と白状してしまうと「なるほど・・・・やっぱり、そういうの好きなのねぇ~」と分かる方は頷くことでありましょう。
そう・・・観る者を選ぶ映画ではあるけど、好きな人は好きなのが園子温監督の作品であり、そのフィルモグラフィーの中でも「濃くてエグいのが好き!」ということなのです。
園子温監督の作品には、哲学的かつ社会的なメッセージ性のある濃くてエグい作品、実験的で詩的な映像や演出の作品、アイドル俳優を起用したコマーシャルな作品と、いくつかの方向性があるようなのですが・・・最新作「淋しい熱帯魚」は、2008年の「愛のむきだし」以来の「濃くてエグい」作品であります。
ただ、世界観は「明」と「暗」という感じで、対照的ではありますが・・・。

(ここからは、多少のネタバレを含みます)

小さな熱帯魚店を経営する気弱な中年男、社本(吹越満)は、冷凍食品ばかりの食事を作る若い後妻(神楽坂恵)と、前妻との10代の娘(梶原ひかり)の3人で暮らしているのですが、家庭はほぼ崩壊状況・・・父親としても、夫としても、彼の権限なんてまったくありません。
万引きで捕まった娘をうまいこと機転を利かして救ってくれた、同じ熱帯魚の業者の村田(でんでん)と知り合うのですが・・・娘を自分の店の住み込みの従業員にして面倒を見てくれたり、ビジネスパートナーとして高級熱帯魚での儲けはなしを持ち込んできたりと、何故か親しげに急速に接近してくるのです。
村田は、自慢げで押しが強いところはあるけど、どこかにいそうな”人の良いおっさん”風であります。
村田の妻(黒沢あすか)は、無意味にフェロモン出しまくっていて、どこか粘着質っぽくで不気味・・・また、村のの店の従業員全員が、胸だけは大きなエロい女の子ばかりというのも、どう考えても変!・・・普通とはズレている不可解なことから、徐々に、村田と妻のトンデモナイ連続猟奇殺人としての正体が明らかになっていくのです。
また、村田の弁護士を演じている、渡辺哲の脂ぎった絶倫エロおっさんぶりも、凄まじい!・・・今まで映像的にはお目にかかったことのないような変なモンがグイグイ出ていました。
主人公を演じる吹越満以外は「脂ぎったエロおっさん」「フェロモン出しまくりのエロ女」・・・という濃厚なとんこつスープのようなキャストが「危ない世界へ堕ちていく感」をさらに感じさせているのかもしれません。

村田を演じる”でんでん”のキャスティングが、メチャクチャ絶妙で「いる!いる!こんな、おっさん!」と思わず頷いてしてしまうほどです。
だいたい、こういう役の場合、人の良さそうな笑顔から豹変して怖い顔になるというパターンはよくあるのですが、でんでんの場合、とんでもなく残忍なことや、暴言を吐いていても、どこかへらへらしていて”人は良さげ”・・・それが、逆に「悪」を「悪」とも感じていないようで、血の気の引くような恐ろしさを感じさせるのです。
まるで、何でもない日常的なことのように人を殺し、ニワトリでも捌くかのように死体を「透明にする」村田と妻の淡々とした行為には、恐怖を通り越して滑稽で、思わず笑ってしまいます。
ただ、そのうち映画は、恐ろしくて笑うという観客の許容範囲のレベルを超えて・・・映画史上に於いても、最も残酷で具現化された容赦なしの犯罪現場のシーンへと突入していくのであります!!!
残酷スプラッター大好きのボクにとっても、じーと直視するのは拷問的なほど・・・バラバラ殺人で死体を切り刻んでいく現場というのは、実際はこんな感じであるというのが、まざまざと見せつけられるのですから。
まぁ・・・死体解体愛好家(そんな人が存在すればですが)ならば、ビンビン勃起もんの大好物映像かもしれません。
(そういう意味でカルトとなることは確実?)
世界各国で上映禁止になり、製作されたドイツではオリジナルフィルムまで焼却処分となった屍体愛好者向け映画「ネクロマンティック」に、映像的なインパクトは匹敵するといっても過言でもないかもしれません。

さて・・・
これほど残忍な殺人を繰り返す村田の動機というのは、一体何なんでしょう?
高級魚を高価な値段でふっかけて金を騙し取るから、その口封じ?
それても死体を「透明にする」作業自体に興奮してしまう死体分解マニア?
いいえ・・・それは、山奥に教会(犯行の現場でもある)を持っていた村田の父の影響によるものなのかもしれません。
どういうわけか、園子温の映画に出てくるモチーフとして「贖罪のための折檻」「原罪の罪悪感」そして「神への憧れ」というような・・・カトリック的なキリスト教世界観であることが、たびたびあるのですが、この村田も、その観念に囚われているようなのであります。
「人の寿命を決める」本来は神が行なうべき行為をしてしまうような「殺人」・・・残された死体を「透明にする」ための技術というのは、まるで職人が身につけた生きていくための手段のようです。
単なる猟奇趣味的な連続殺人犯という、ちっぽけなレベルの「悪人」ではなく・・・神の領域さえも凌駕する存在としての「悪の化身」になることで、幼い自分を神の名に於いて折檻した牧師の父を超えることが、出来たのではなかったのでしょうか?
それほど大きい父という存在の呪縛から逃れることが、村田の真の目的だったのかもしれません。

この映画の神髄は・・・終盤、社本が娘に放つ言葉に託されているように、ボクは思います。

人生っていうのはイタイもんなんだよ!

映画を観終わって、ホッとして涙が出てきそうになったというのは、生まれて初めての経験でした。
とにかく「冷たい熱帯魚」の世界から、やっと逃れられることに、ボクは安堵したのです・・・。
視覚的なインパクトだけでなく、倫理的にも観ている者を圧倒的に追い詰めて、エンディングまでどうなってしまうのか想像がつかない展開に、2時間44分以上の疲労感を感じました。
エンディングの不快な不条理さも「ああ、なんという終わり方なんだ・・・こんなの最低!」(これはある意味、褒め言葉)と、思わず頭を抱えてしまいたくなったほどです。
それにしても、おっさんというのはメチャクチャ怖い・・・人の良いおっさん風だからって、おっさんを舐めてかかっては、絶対にイケないと思える映画なのでありました。


「冷たい熱帯魚」
2010年/日本
監督 : 園子温
脚本 : 園子温、高橋ヨシキ
出演 : 吹越満、でんでん、黒沢あすか、神楽坂恵、梶原ひかり、渡辺哲



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