2013/04/07

マツコ・デラックスの”俗っぽさ”を露呈させた池上彰の”毒”・・・テレビタレントのコメント瞬間芸 VS. ジャーナリストの取材力と分析力~「池上 X マツコ ニュースな話」~




先日(2013年4月4日/木曜日)ゴールデンタイムのテレビは、マツコ・デラックスにテレビジャックされていました。まず午後7時台からテレビ朝日で「池上 X マツコ のニュースな話」の3時間スペシャル、その番組終了後の午後10時台からはフジテレビで「アウト x デラックス」のレギュラー番組化を控えての1時間半スペシャル・・・午後7時から午後11時半の4時間半、マツコ・デラックスが出ずっ張りという事態になっていたのです。どちらもコメンテーターではなくMC・・・特に「ニュースな話」は、池上彰とマツコ・デラックスが”ツーショット”で語り合うという構成だったので、なんとも濃厚なマツコ・デラックス尽くしの一夜となっていたのでした。(ボクは録画して週末に何度かに分けて視聴しました)

分かりやすいニュース解説で知られるジャーナリストの池上彰氏でありますが・・・テレビ東京の参議院選挙速報の生放送番組でも覗かせた”毒”のある鋭い追求をする「ブラック池上」のファンも結構多かったりします。逆に、世間的には歯に衣着せぬ辛口コメンテーターとして知られるマツコ・デラックスでありますが、超巨漢の女装というインパクトのある風貌のわりには、コメント内容は非常に常識的・・・特に、ここ1~2年はテレビタレントとしての立ち振る舞いを心得てしまったのか、自分に求められている「ご意見番」的役割をテレビ向けにこなしているようです。

番組制作側の意図としては、ニュースの本当の意味から「今の日本」を考えるということだったようで・・・池上氏がニュースの話題の背景や歴史を解説して、マツコに鋭く切り込ませるつもりであったのかもしれません。しかし、報道されてきたニュースの上っ面を覆すような池上氏の鋭い分析を前にして、マツコは視聴者視線の凡庸な相槌を打つしかなかったのでした。とは言っても、頭の回転は早いマツコですから、池上氏の意見に”瞬間芸のコメント力”で摺り合わせていくのはお上手・・・しかし、”おうむ返し”で同調するマツコを許すほど、池上氏は優しくありません。

池上氏は、アジェンダごとに冒頭でマツコに投げかけて、世間の期待を裏切らない鋭い意見を求めます。しかし、マツコから引き出せるのは常識的、かつ、表層的な意見ばかり・・・そんなマツコに対して「今日は随分と大人しいね?」と、何度も繰り返しダメ出しをする池上氏というのは、なかなか意地が悪い人であります。アジェンダとして取り上げているのは、政治的な背景を理解した上で倫理的な立場を明らかにすることを求められるような難しいものばかり・・・一般的なワイドショーのコメンテーターだったら、視聴者の反感を買わないような世論に添った意見を言うことで水を濁すような話題ばかりです。

学校のいじめ問題について「いじめられるって、想像したこともない」というマツコに「もしかしたら、自覚しないで”いじめる側”だったのでは?」と切り返す池上氏。「いじめ」はいつもの時代に起きていることだから、その状況から「逃げる」ことも選択ひとつだと池上氏はアドバイスします。それに対して、両親から野放しで育てられたおかげで自分で考える力を養ったというマツコは、いじめ問題には親の対応が大切と説くのですが・・・いじめに関しても「親は野放しで良い」というのがマツコの主張なのでしょうか?また、教師による体罰に関して「体罰になるか、ならないかは、やられた側がどう受け取ったか次第」というワイドショー的な薄っぺらい意見のマツコに・・・「体罰は愛情だったと感じられる信頼関係があるのであれば、そもそも手を上げる必要などなかったのでは?」と、池上氏は体罰をする教師側の根本的な「指導不足」を厳しく指摘します。

日本人の学力が下がってきたといわれますが・・・ゆとり教育を批判して塾の必要性を宣伝した学習塾や、PISA(国際的な学力テスト)の調査で日本の順位が下がったことだけを浅く扱う報道が煽っていることを池上氏が指摘すると、マツコは水を得た魚のように学習塾やマスコミ叩きを始めます。池上氏は、新しく参加した国は日本よりも学力が高いという結果だったけど、学習能力自体は昔(数十年前)よりも良くなっていることから、決して日本の教育レベルが低くないことを強調します。さらに日本人は英語がしゃべれないという問題については、いきなりマツコが「英語が話せることが、そんなに偉いの?」と発言・・・確かにグローバル化に反するラジカルな意見だけど、DQNな人たちにありがちの考え方であります。池上氏は、日本人が高等教育を母国語で受けられることが裏目に出て、逆に英語を学ぶ機会を失ってしまっていることを指摘します。

日本と中国の問題についても「政治家や外務省は、もっと頭を使った対応すべき」という漠然とした見解を述べるマツコに、池上氏は日本は中国をもっと研究すべきだと投げかけます。また、反日教育で不満を国外に向けさせる本来の意味というのは、民主的な選挙で選ばれていない共産党政府に政治的な正当性を持たせるためであると分析します。将来的に中国が民主化したとしたら反日教育や反日主義の必要性がなくなり、ひとりっ子政策で少子高齢化する中国は急激に労働人口が減少し経済発展が失速するのは確実・・・日本は中国抜きでもやっていける体勢をつくることで、交渉力を身につけて”したたか”に付き合うのが良いのではと、池上氏が締めくくります。

番組後半、自衛隊の国防軍化というアジェンダになると、マツコは視聴者的な立ち位置の聞き役に回っていました。池上氏は、自衛隊には交戦規定がないので偶発的に戦争に巻き込まれてしまう可能性があるのではと危惧されているので国防軍とすることで、より役割や対応を実体に近い形にしようとするのが今の自由民主党の考え方であると説明します。さらに日米安保については、その歴史を紐解いた後「やっぱりアメリカなしでは日本は生きていけないのね」という平凡なまとめ方しかできないマツコに、何気なくガッカリしたような池上氏・・・さらに、これからの世界での日本の立ち位置をどうするべきかという質問に、会社内でどの上司に付いていくかという社内抗争の”例”にして得意げに語るマツコに、池上氏は「打算的に動く国は信用されない」「民主主義という理念を大切にして日本の立ち位置を考えることが大事」と嗜めます。それでも「民主主義って、経済ほど魅力ないわ〜」というマツコこそ、池上氏が危惧しているであろう日本人の考え方のかもしれません。

番組の最後に収録を振り返り池上氏は、マツコ・デラックスをゴールデンタイムのニュース番組起用するというリスクをテレビ局は背負ったのに・・・と、マツコの日和っぷりに苦言します。マツコからは、マイノリティ(同性愛者、女装)という立場から、斬新な意見を期待していたのかもしれませんし、自分とは違う視点の考え方をぶつけてくることで「池上氏の分析」=「番組の結論」としない意図もあったのかもしれません。いずれにしても、池上氏(番組制作側)の期待にマツコ・デラックスは応えていなかったことは明らかで・・・それには本人も気付いている様子ではありました。

芸能の話題だけでなく社会/政治から道徳的なことまでを語る「ご意見番」として、もはや”文化人”レベルに扱われているようなマツコに対して「ブラック池上」が”身の丈”を知らしめるような”冷や水”を浴びせる番組になってしまったわけですが・・・逆に第2弾、第3弾と「特番」として続くのであれば、マツコ・デラックスの面の皮の厚さも”なかなか”なものだと言えるかもしれません。

その後、午後10時からのフジテレビの「アウト x デラックス」では、”OUT”な芸能人や素人を相手にノビノビとイジりまくっていたマツコ・デラックス・・・ある種の安定感を感じずにはいられませんでした。いじられたい芸能人、番組スタッフ、素人には罵声を浴びせ、大物やスポンサーを褒め讃える・・・「弱者を叩き、強者に媚びる」。やはり、マツコ・デラックスの主戦場は、トコトン”俗っぽい”バラエティ番組であることを再確認した次第であります。

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4 件のコメント:

  1. マツコデラックスがなぜクイズ番組に出ないのか?

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  2. 馬鹿がばれるから。、

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  3. マツコ記事、おもしろいですね。

    マツコさん、発言の勢いは凄まじいんだけど、説得力が全くないんですよね。勢いだけというか、根拠がないというか、期待を裏切られてる感満載です。

    文化人レベルに扱われてる割にはボキャブラリーが貧困ですね。

    朝まで生テレビの類の番組には絶対出演できないでしょう。
    池波の番組にもよく出たなと思います。(見ませんでしたが)

    5時に夢中でも「は?」と思うことばかりです。
    普遍的な発言力というより、内容は限りなく平凡なんですよね…

    マツコさんがなぜたくさんの支持を得ているのか理由はわかりません。
    正直マツコさんのメディア露出が激しくなりだした頃、私はこの人すぐ消えるなと思いました。

    しかし、飛ぶ鳥落とす勢いのマツコさん。
    時代の求めている人なのでしょうね。
    私もなんだかんだマツコさんをテレビでみかけては、この人の魅力は何だろうとネットで探してしまう位ですからある種魅かれているのかもしれませんw

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  4. 興味深く読ませて頂きました。
    マツコさんは毒舌で人気ですが、池上氏が本来の土俵で、マツコに身の丈を思い知らせたのですね。

    マツコさんは芸能の世界では随一かも知れませんが
    政治、社会に関しては素人も素人だと思っています。

    池上先生は、芸能で優れているからといって
    その他の分野でまで大きな発言権を持ってしまう、扇動してしまう危険性を
    見せたかったのかも知れませんね。

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