「へルタースケルター」の撮影終了後の記者会見から沢尻エリカの情緒不安定気味の暴言、役が抜けきれないから休業宣言、麻薬使用の疑惑と、芸能ゴシップ欄を騒がす姑息な”宣伝活動”に、すっかり観る気が萎えてしまっていたのですが・・・あの原作を蜷川実花と沢尻エリカが、どう”表現”しているのか気になって、やっぱり映画館に足を運んでしまったのでした。
原作「へルタースケルター」は、1990年代半ばに連載されていた岡崎京子さんのマンガ・・・ガーリーな絵柄と梅図かずお的(「洗礼」?)なドロドロの物語を融合していているところから、ボクの好きなマンガのひとつです。「女性の美への執着と崇拝」「芸能界での転落」「整形美容手術の恐ろしさ」など、決して目新しいテーマを扱っているわけではないのですが、主人公のモノローグと、詩的な感情表現、時間軸を超えた登場人物たちの言葉、作者の語りが混じり合うというマンガ的表現が巧みでありました。今では、美容のための”プラセンタ治療”が普通になり、高校生がでさえ”プチ整形”を簡単にやってしまい、目の大きさばかりを強調した”ギャルメイク”が流行するなど・・・17年前に現在を予言していたような気がします。
”りりこ”は本名も経歴も謎のトップファッションモデル・・・しかし、デブでブスでデブ専の風俗嬢だった彼女は、眼球、耳、性器以外、すべての全身美容整形手術によって究極の美しさを手に入れたのです。美容整形手術が行なわれるようになった頃から、手術によって容姿を劇的に美しくなった女性が悲劇的な結末を迎えるという物語は、手を替え品を替え描かれてきました。そのなかでも”りりこ”の傲慢っぷりはピカイチ!憎むべき女性像でありながら、美貌には誰もが認めるしかないという存在なのです。そんな”りりこ”役を演じられるのは、絶対的に誰もが認める美女でなければなりません。
沢尻エリカは「別に・・・騒動」以降、叩かれまくられてきましたが、アンチ沢尻エリカの人でも彼女の美貌は認めるところでしょう。マスコミによって作り上げられた(または暴露された?)沢尻エリカ本人を、彷彿とさせる”りりこ”役を演じるということが、毒抜きのような効果があったのか、逆に悪化させてしまったのかは分かりませんが・・・”りりこ”が、情緒不安定になり、暴言を吐き、気が狂ったようになればなるほど、「渾身の演技」なのか、お馴染みの「沢尻エリカ劇場」を見せられているのか、分からなくなってきてしまいます。大胆な脱ぎっぷりで胸を露にしても、体当たりでバックから犯さても・・・”つくりもの”としての美しさだけでエロさを感じさせません。また、ディフォルメしたした演技は、まるで「ドラッグクィーン」のようです。今更、純真な役柄を演じれば「嘘くさい」と叩かれるだろうし、本作のように世間のイメージにピッタリの役柄を演じれば「素でしょ?」と思えてしまう・・・今後、沢尻エリカがどんな役柄を演じれば、色眼鏡のバイアスなしで見ることができるのでしょうか?
ところで、美女が性格が悪くなる理由のひとつって・・・世の中が外見の美醜でしか判断しないという現実を、常に意識しなければいけないからではないかと思います。”ちやほや”されることに苛立ちを感じて、性格の悪さに拍車がかかるのです。そんな苛々している美女に限って、美女を美女として扱わない自信家の男とくっつくってことが、よくあるみたいです。
蜷川実花は、良くも悪くも”写真家”であることを意識している映画監督・・・本作でも、原作マンガからインスピレーションされた”写真家・蜷川実花の世界”を繰り広げています。それは、原作のもっている世界観とも確かにリンクしているのだけど・・・劇映画というよりも「へルタースケルター」にインスピレーションを得たイメージビデオのような印象。思いの外、原作に忠実で原作にある印象的な言葉は、殆ど台詞で再現されているのに、・・・ファッション誌や写真集では効果的な蜷川実花ワールドが、さらに”つくりもの”感を高めてしまって、”りりこ”への感情移入をさせてくれないような気がしました。
沢尻エリカの演技の対極にありながら、特異な存在感を放っているのが寺島しのぶ!!!”りりこ”のマネージャー・羽田ちゃんを演じてるのですが・・・主役である沢尻エリカを食わないように抑えた演技に徹しながらも、蜷川実花ワールドの”つくりもの”には融合しない”生々しさ”がスゴい!”りりこ”の美しさに憧れて、どんな理不尽なことでも従う羽田ちゃんは、”りりこ”に熱狂する世間の女性を象徴しているのかもしれません。ただ、羽田ちゃんが、ただの”りりこ”ファンと違ったのは、主従関係に快感を感じる「ドM」だったこと・・・。年下の彼氏を”りりこ”に寝取られても、犯罪にまで手を染めさせられても、レズビアンセックスの相手でアソコを舐めさせられても、どこまでも”りりこ”に心酔し続けるMっぷりは、なんとも不気味・・・厳しく叱られて罵倒されたり、手足を縛られてお仕置きを受けても、画面の隅っこでニンマリと微笑む”エグさ”が堪りません!
ここからネタバレを含みます。
そんな羽田ちゃんが、崇拝する”りりこ”の過去の秘密をマスコミにバラして芸能界から抹殺させるのは、究極のシモベとして女王さまである”りりこ”を独占するため・・・ある意味、映画では原作以上に羽田ちゃんの望む閉じられた侍従関係が成就する結末となっているような気がします。原作では、マスコミから過去について答える会見前に、片目だけを残して失踪するのですが、映画では違う展開となっています。
整形手術の真偽を答えるという記者会見の舞台で、”りりこ”は自らの手で片目にナイフを突き刺すのです!それまで、蜷川実花ワールドを埋め尽くしていた極彩色を排除した、背広の灰色と止まらないフラッシュの光。それまで賞賛の証であったフラッシュが暴力のように降り注ぐのです・・・まったくの無音で!このシーンは(白い衣装だし)沢尻エリカがテレビコマーシャルで復帰したときの記者会見を思い起こさせます。ただ、赤い羽根に埋め尽くされて、後ろ向きに倒れ込むのは、あまりにも「ブラック・スワン』を意識し過ぎた、お粗末な演出でした。
映画は、”フリークショー”を興じている怪しげなクラブの奥の部屋にいるオーナーになった片目の”りりこ”の姿で終わります。原作では、まだ”りりこ”の物語は続くような余韻を残して終わるので・・・本来であれば、その後の”りりこ”の物語があるはずなのです。ご存知の方が多いとは思いますが・・・原作者の岡崎京子は「へルタースケルター」を執筆終了直後、飲酒運転の車にはねられて、意識不明の重体となり、いまだに療養生活中。事実上の最後の作品となってしまったのが・・・本作「へルタースケルター」。
その後の”りりこ”の冒険は、岡崎京子さんの頭の中で今も構想されているのかもしれません・・・いつか岡崎京子さん自身で描かれることをボクは祈らずにいられないのです。
「へルタースケルター」
2012年/日本
監督 : 蜷川実花
出演 : 沢尻エリカ、大森南明、寺島しのぶ、水原希子、新井浩文、桃井かおり、原田美枝子、綾野剛、哀川翔、寺島進、鈴木杏、窪塚洋介
0 件のコメント:
コメントを投稿