以前「めのおかしブログ」でも取り上げたカルト映画「ロッキー・ホラー・ショー」は、元々はロンドンで1973年に初演された舞台・・・ロックミュージカルや、デヴィット・ボウイのジギースターダストに代表されるグラムロックの全盛期で、日本でも翌年(1974年)にロンドンキャストによる公演が行われています。
ボクが「ロッキーホラーショー」のことを知ったのは1976年のロンドンキャスト日本再演時に、大和和紀の「はいからさんが通る」の中に描れていたフランクフルターのイラストでした。映画の「ロッキーホラーショー」も1976年に日本で劇場公開されているのですが、さすがに、当時まだ中学生だったボクは舞台も映画も観ていません。実際に映画を観たのは、名画座の「ファントム・オブ・パラダイス」との2本立て。1980年前後には、日本のロッキーファンが集っていた上映会にも足を運んだりしていました。勿論、日本ではシャドウキャスト(登場人物になりきってスクリーンの前で演じる)は行われていませんでしたが・・・1980年に公開された映画「フェーム」の中にその模様が登場して、その様子が知られるようになったのでした。
1981年9月にニューヨークに留学したボクは”エイト・ストリート・プレイハウス”で金曜日の真夜中に上映されていた「ロッキー・ホラー・ショー」に時々通うようになりました。当時はアメリカ国内でも毎週上映を素しているのはニューヨークなどの大都市だけでしたので、メイン州に引っ越してからは、すっかり縁がなくなってしまいました。アメリカでビデオ化される1990年まで、「ロッキー・ホラー・ショー」を観るためにはミッドナイト上映に行くしかなかったのです。ただ、ビデオ化によって「ロッキー・ホラー・ショー」の人気はアメリカ全土に広がり、若い世代のファンを広げ続けていくことになるのです。
日本では1986年に日本人キャストによる舞台がシアターアプルで公演されています。竹邑類演出、藤木孝(フランクフルター)、夏木マリ(ジャネット)、桑名正博(ブラッド)らの出演で、井上堯之バンド(ザ・スパイダース、ザ・タイガースなどの元メンバーで結成されたロックバンド)という豪華なメンバー。ただ、資料から想像すると・・・映画版よりも、オリジナルの舞台版に近い世界観ではなかったかと思われます。
1995年に初演されたローリー寺西(現:ROLLY)がフランクフルター役を演じた舞台版は、”ローリー”の存在自体がフランクフルター的であり、如何にもビジュアルもピッタリ・・・その他のキャスト(例えば、エディとスコット博士の2役を演じた安岡力也など)も日本人キャストで考えられる適役が演じていた決定版であったようで、1999年までに4回も公演されています。残念なことに、ボクは日本在住していなかったため観る機会はありませんでした。2000年からはブロードウェイで舞台版「ロッキー・ホラー・ショー」は約2年ほど上映されていたのですが・・・これもスルー。ボクは今まで一度も舞台版「ロッキー・ホラー・ショー」を観ることはなかったです。
今回の日本舞台版「ロッキー・ホラー・ショー」は・・・「ロッキー」のような舞台をやりたいと劇団☆新感線を創設したという「いのうえひでのり」の演出、いつか「フランクフルター博士」役をしたいという思いで芸名を「フルタ」にしたという「古田新太」の主演、ROLLYによる訳詞、ロッキーマニアを自負する高橋ヨシキの翻訳と、映画版「ロッキー・ホラー・ショー」のマニアを集結させています。それだけに、映画版でしか馴染みのないボクのようなロッキーファンにとって、否が応でも期待が高まってしまうのでした。さらに事前のプロモーションでも、古田新太が映画版でフランクフルター博士を演じたティム・カリーの「完コピ」を目指すと意気込んでいたのですから。
まず、開演前からの粋な演出がありました。会場の客席でポップコーンの売り子をしていた女性の一人が、実はマジェンタ役の女優さん・・・開演のベルが鳴るとマイクを仕込んだコーラボトルを取り出し「サイエンス・フィクション」を歌い始めるのです。映画版でも、このオープニングの曲を歌うのはマジェンタ役のパトリシア・クインだったので、これは当然と言えば当然の演出なのかもしれません。舞台のスクリーンに、結婚式の教会、道に迷う森、フランケンシュタインの屋敷などの背景などを投射することで、まるで映画の流れのような舞台転換を可能としています。メインとなる舞台には、中央奥にエレベーターが設置されていて、下のスペースには生演奏のバンドが控えているという無駄のない設計。舞台の右そでからはナレーターの書斎、左そでからは大きなモニターが必要に応じて出てきて、映画に近いペースでの展開ができるようになっていました。
さて・・・「体型的にフランクフルター役ってどうなの?」と危惧していた古田新太ですが、ひと言で言えば「すごく頑張っている!」でしょう。確かに見た目は「大阪の派手なおばちゃんがコルセットにパンティ姿」という感じの貫禄っぷりで、正直言って・・・キツイ。でも、シャドウキャスト的な意味で「ROCKY愛」を感じさせる恍惚感を感じられました。それに、いい歳したおじさんが思いっきりコルセット姿で踊りまくっているのって・・・それだけで楽しい!観ているだけでボクは笑顔になってしまうのです。
フランクフルター役の「女優感」を強調しているのは、ホモ好きサブカルおじさんなりの「ゲイキャラの解釈」だとは思うのですが・・・これってストレートの大きな誤解のひとつ。アメリカのゲイやドラッグクィーンの「女優好き」に掛けているいるようなのですが、フランクフルターのキャラというのは、あくまでもストレート・コミュニティーの中でのドラッグクィーンのステレオタイプでしかなく・・・ゲイ・コミュニティーにはまったく受け入れられていない存在ではあるのです。
「なりきり」という点では、リフラフ役の岡本健一が完璧!映画版のリフラフ(リチャード・オブライエン)のルックスに可能な限り近づけているだけでなく、声質まで似させています。マジェンタ役のグリフィス・ちかのダミ声、コロンビア役のニーコにキンキン声も、映画版のキャラをさらに強調させている感じでした。ロッキー役の幸源は、細身の筋肉質すぎでマッチョに見えないのが残念でしたが・・・一番ミュージカル俳優らしい、のびのある声が良かったです。ROLLY演じるエディは、映画版のミートローフとは真逆の体型ではあるけど、ROLLYらしさで演じきっている感じで、これはこれで「あり」と思えました。
舞台だけど・・・映画版に忠実で、ファン目線で演出しているのは嬉しい限り。ただ「ロッキー・ホラー・ショー」という映画を一度も見たことない観客にとって「今回の舞台はどうなんだろう?」という疑問が浮かびました。ストーリーは支離滅裂、キャラクターも破天荒で予測不可能・・・物語を追うにしても、説明的な台詞は少なく、次から次と歌が続くので、物語としては何が何だか分からなくて当たり前。生演奏のロックコンサートを観に来た気分で、ミュージカルナンバーをそれぞれ楽しむのが一番かもしれません。
今回の公演で、ボクが問題を感じたのはROLLYの訳詞。ボクはROLLY自身の楽曲は知りませんが・・・英語と日本語をブレンドした不可解でおちゃらけた言葉の羅列にしかなっていません。ロッキーファンであれば、英語の詩のままで十分理解できますし・・・(映画何百回観ているんだから!)、元々英語で書かれている歌なので歌詞の韻を他の言語で踏むのは無理なのですが、英語のままではロッキーファン以外の観客には、あまりにも不親切過ぎます。観客が歌詞の内容を理解するために日本語に訳さなければならないのは仕方ないことですが・・・ROLLYの訳詞は役目さえも果たしていない「悪訳」な印象でした。
カーテンコールの後は「タイムワープ」を再び・・・観客総立ちになって「一緒に踊りましょう!」という流れになります。それまで、静かに舞台を観ていた禿頭のおじさんや太ったおばさんまでもが、腰をふりふり踊っている姿を観ているだけで、幸せな時間でありました。歌詞の中でフリを説明をしてはいますが・・・さすがにロッキーファンでないとテンポに合わせて踊るのはちょっと無理。あくまでも踊れる人だけ参加してくださいね・・・というスタンスではありますが、やっぱり踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損!観劇予定があるならば、DVDで「タイムワープ」の踊りだけでも予習しておくのがお薦めであります。
「ロッキー・ホラー・ショー」
Richard O'Brien's Rocky Horror Show
2011年12月9日~12月25日:KAAT神奈川芸術劇場ホール
2011年12月31日~2012年1月4日:FUKUOKA◆キャナルシティ劇場
2012年1月13日~1月22日:OSAKA◆イオン化粧品シアターBRAVA!
2012年1月27日~2月12日:サンシャイン劇場
脚本・作詞・作曲: リチャード・オブライエン
演出 : いのうえひでのり
翻訳 : 高橋ヨシキ
訳詞 : ROLLY
出演 : 古田新太、岡本健一、笹本玲奈、中村倫也、右近健一、辛源、ROLLY、藤木孝、ニーコ、グリフィス・ちか
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