2017/07/31

未解決の殺人事件の真相に迫る”だけじゃない”ドキュメンタリーシリーズ・・・衝撃的な事実が明らかになればなるほど深い闇に引きづり込まれていく・・・~Netflix オリジナル作品「キーパーズ/The Keepers」~


下世話な興味をひく犯罪事件については、テレビニュースや新聞の報道以外にも、ワイドショーや週刊誌のネタとして消費されることが多いものですが(日本だけでなく世界的に)・・・未解決犯罪のドキュメンタリー作品が数多く制作されるアメリカでは、実際に事件解決/犯人逮捕となるケース(「ザ・ジンクス/The Jinx」など)があったりして、ひとつのジャンルとして確立されているようです。

「殺人者への道/Making Murders」「アマンダ・ノックス/Amanda Knox」「ジョンベネ 殺害事件の謎/Casting JonBenet」などのオリジナルドの犯罪キュメンタリーを次々と配信するNetflix(ネットフリックス)から配信されている「キーパーズ/The Keepers」は、1969年に起こった未解決のシスター・キャシー・セスニック殺人事件の真相に迫る全7回(なんと約7時間!)のドキュメンタリーシリーズであります。

事件が起こったメリーランド州のボルチモアは、アメリカの中でもカトリック教会が大きな影響力を持っている街として知られており・・・ジョン・ウォーターズ監督をはじめ、ディヴァイン、ミンク・ストール、デヴィット・ロッカリー、マリー・ヴィヴィアン・ピアース、エディス・マジーらの出身地であり、宗教的抑圧(?)のもと、おかしな人がたくさん(?)排出された土地柄というイメージがあったりします・・・ボク的には(笑)。

シスター・キャシー・セスニック殺人事件というのは・・・ボルチモアにあったキーオ大司教高校で英語の教師を務めていたシスター・キャシーが、1969年11月7日夜に行方不明になり、翌年1月に死体で発見されたという未解決の事件で、彼女に何が起こったのか、誰が彼女を殺したのか、どうして彼女の死体が町外れのゴミ捨て場に約二ヶ月後に発見されたのかなど、未だに分かっていないのです。

本作の監督であるライアン・ホワイト氏の叔母が、シスター・キャシーが元生徒だったことが制作のきっかけだったそうですが・・・同じく教え子であったジェマ・ホスキンズ(Gemma Hoskins)さんと、アビー・シャウブ(Abbie Schaub)さんの二人によって、事件の真相解明を求めて開設されたFacebookページ(現在はThe Keepers Ofiicial Groupに移転)が、多くのキーオ高校の卒業生や関係者に事件を風化させてはならないという思いを起こさせたに違いありません。


事件発生時、シスター・キャシーは同じくキーオ高校で教師をしていたシスター・ラッセルと(カトリックのシスターが共同生活を送ることが当たり前だった当時としては実験的な試みとして)一般のアパートメントでルームシェアをしていました。シスター・キャシーは妹の婚約祝いを買いに出かけて、その夜帰宅しなかったのです。ルームメイトのシスター・ラッセルは、すぐに警察に連絡することはなく・・・まず、シスター・キャシーと個人的に親しかった(当時は神父だった)ジェリー・クーブ氏を呼び出します。朝方、シスター・キャシーの車は、自宅アパートメントの近くに不自然な位置に停車しているのが、ジェリーによって発見されるのです。

キーオ高校の生徒たちには詳しいことを伝られることもなかったそうで・・・(行方不明になった11月7日は金曜日だったので)週明けの月曜日(11月10日)に、シスター・キャシーがいなくなってしまったこと”だけ”を知らされるのです。事件当時25歳だったシスター・キャシーは、年齢的に女生徒達とも近く”お姉さん”的な尊敬と憧れの存在であったそうで、生徒たちのショックは計り知れません。それ故、元教え子のジェマやアビーは、事件発生から45年経っても真相を追求せずにはいられなかったのかもしれません。

ジェマとアビーのacebookページ以前・・・1994年にシスター・キャシー・セスニック殺人事件は、キーオ高校の元生徒を名乗る匿名女性の衝撃的な告発よって全米の注目を集めているのですが、本作では匿名女性本人のジーン・ハルガドン・ウェーナー(Jean Hargadon Wehner)から詳細が語られます。事件当時、キーオ高校は修道女によって運営されていたのですが、ジョゼフ・マスケル(Joseph Maskell)とニール・マグナス(Neil Magnus)という二人の神父も在籍してしました。ジーンは二人の神父から性的虐待を受けていたのです。


ジーンの証言は、聞くだけでも心が痛むほど具体的であります。叔父から性的な悪戯されたことを懺悔したジーンを、最初に虐待したのはマグナス神父・・・彼はジーンの懺悔に耳を傾けながら自慰をしていたといいます。その後、マグナス神父だけでなくマスケル神父も加わり、聖霊であるとして精液を飲み干させられたり、罵られながら強姦されたり、張型で悪戯されたりと、在籍中は繰り返し繰り返し性的虐待を受け続けていたのです。

”神”に近い存在であった神父から”性的虐待”を受けているということは、当時のジーンには認識できせんでした。性的虐待をされた者の多くは、罪悪感とストレスより虐待されたことさえ記憶からさえ消し去ってしまいます。卒業から20年以上経った、あるとき・・・高校時代の同級生から同窓会に誘われたことをきっかけに、ジーンは徐々に記憶を取り戻していくのです。

1990年代には、記憶を取り戻したという人々による虐待の告発が、アメリカでは多く報道されていました。一時期、大きな社会問題となったのですが・・・年月が経ってしまうと虐待の事実を証明をする手段がなく、被害者の訴えが認められないことも多々あったのです。ただし、カトリック教会内では性的虐待は(男女共に)全米各地で起こっていたことが明らかで、ジーンも氷山の一角であったのかもしれません。

ジーンの他にも、ジーンと共に匿名で告発していたテレサ・ランキャスター(Teresa Lancaster)や、本作でのインタビューに応じたキャシー・ホベック(Kathy Hobeck)やドナ・ヴォンデンボシュ(Donna Vondenbosch)からも、神父らによる性的虐待の実体が語られます。女生徒の個人情報を知ることのできた彼らは、過去に性的な虐待の経験のある者や家庭環境が悪く親子関係が破綻している者を選別・・・信仰だけでなく、精神分析、薬物、催眠術を駆使して、彼女たちに非があるようにマインドを操って、性的虐待をしていたのです。


ジーンによる推理は・・・マスカル神父らの女生徒達へ性的虐待を知ったシスター・キャシーは、警察に訴えるなど何らかの行動を起こそうとしていたため、口封じのために殺されたというのです。ただ、殺害に関与したり、遺体を処理したのは、神父らとは直接関係のなかった人物であったと示唆します。また、ジーンはマスカル神父に連れられてシスター・キャシーの死体を見せられたという証言もしています。シスター・キャシーの死体を見せることで、ジーンの口封じもしたということなのです。

1994年に行なわれたジーンによる告発は、結果的には不起訴となります。ボルチモアのカトリック教会からは協力してもらえるはずもなく、ジーンは自ら虐待の証明することを強いられるのですが・・・警察は証拠となる文書を紛失、州検事も証拠不十分という判断を下します。この時点で、既にマグナス神父は死去していましたが、マスケル神父は復職していたのですから驚きです。性的虐待の被害者が、差別や偏見を乗り越えて声を上げることあげることが、どれほど困難なことなのか・・・さらに、法律に従って虐待を証明して起訴する道のりが、どれほど険しいのかを思い知らされます。

本作が、被害者だけの回想で構成されていたとしたら、カトリック神父による性的虐待の暴露ドキュメンタリーのひとつでしかなかったかもしれません。しかし、本作では被害者だけでなく、事件当時に捜査に関わった警察関係者、虐待されていた女生徒を診察した婦人科医、1994年に起訴を取り下げた性犯罪班の州検事・・・さらに、シスター・キャシーの殺人に関わったかもしれない隣人のビリー・シュミッド(Billy Schmid)とエドガー・デヴィットソン(Edgar Davidson)という人物の存在を、彼らの親族からの告発で発見・・・本人にもインタビューしているのです。

ここからネタバレを含みます。


加害者側の関係者の多くは既に亡くなっていたり、生存していたとしても高齢でまともにインタビューができる状態ではなかったりします。シスター・キャシーが何故殺されなければならなかったのか、どう殺害されて死体遺棄されたのか・・・その答えの糸口は見つかりそうで見つからないのです。性的虐待を暴露しようとしていたシスター・キャシーの動向を察知したマスカル神父が、ビリーとエドガーに殺害を指示したのではないかと推測はできるのですが・・・真相は本作の中では明らかにはされません。しかし、7時間にも及ぶ本作を観ていると、犯人探し”だけ”が目的ではなくなっていきます。

シスター・キャシー・セズニック殺人事件の真相は、いまだに分かっていませんが・・・被害者が声をあげたことで、メリーランド州の性的虐待の通報期限が(25歳から38歳に)延長されたり、少しだけ状況は改善されつつあります。本作に出演した被害者と家族、事件に関わった人々は、各自それぞれの”幕引き”をして人生を歩んでいくしかないのです。でも、それは過去を葬り去ることではありません。いつか、真実を遮る壁が打ち砕れるまで「キーパーズ/The Keepers」は終わっていないのですから。


「キーパーズ」
原題/The Keepers
2017年/アメリカ
監督 : ライアン・ホワイト
2017年5月19日より「Netflix」にて配信

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2 件のコメント:

  1. まさに、まさに真実という重さ、人の織り成す闇の深さ。

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  2. トルーマン・カポーティの『冷血』や、ノーマン・メイラーなどのノンフィクション・ノベルはアメリカ人は大好きなので、小説家されていませんか?
    ゴシック・ロマンスで読む中世の破戒僧の物語も、作者が題材にした事件は頻繁に起きていたんだろう。
    教会という閉鎖社会では、現在もあり得ること。
    カルト宗教への傾斜は、信仰心からよりも、弱い自分を認めてくれる結社への参加願望ではなかったか。
    オウム事件でもうかがえるし、浅間山荘事件でも、リンチは性的虐待の下手な表現ではなかったか。
    ところでこの、ネットフリックスのリミテッドシリーズの映像は、余りにも構成が見事なので、どこまでが再現映像なのか、判らん。『キーパーズ』でも、真相を究明するジェマとアビーとのやりとりは、この事件をドキュメントする企画以前のシーンのはず。達者な役者で再現したのかと疑ってしまう。
    アメリカの番組制作の様子を知らないのだが、再現部分は1コマもないとすればギャフンである。

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