ホラー映画のシリーズも3作目あたりになると”ポシャる”ことってアリガチです。1作目がヒットして、それを踏襲した続編となる2作目はソコソコ成功しても、3作目ともなるとネタ切れ感があったり、観客も飽きてしまったり・・・。「ムカデ人間」1作目の公開時から、トム・シックス監督は1作目では3人を繋げたムカデ人間が2作目では12人・・・3作目では500人というトンデモナイ「ムカデ人間」の三部作構想を明らかにしていたのですが、最終章となる3作目で、これほど見事なハズしっぷりとなるとは・・・。
「口と肛門を繋ぐ」という分かりやすく(?)インパクトのある”B級ホラー映画として「ムカデ人間」は世界中のファンの心を掴んだわけですが、それに続く2作目は、まさかの”メタ構造”で、エログロ描写は過激・・・1作目を笑って観ていたボクさえも血の気が引いてしまうほどの”トラウマ映画”だったのです。以前からトム・シックス監督は3作目は政治的な映画になると発言していましたが、風刺にもなっていません。また舞台をアメリカ中西部であろう砂漠地帯にある刑務所に移したのも失敗・・・東ヨーロッパを舞台にした「ホステル」が3作目にアメリカのラスベガスに舞台に移して失敗していましたが、同じ過ちを犯してしまったようです。
1作目で”ムカデ人間”をつくったハイター博士を演じたディーター・ラーザーが刑務所所長、2作目で「ムカデ人間」の映画を観てムカデ人間をつくってみたいと”妄想する”マーティンを演じたローレンス・R・ハーヴィーが刑務所所長の助手を演じています。前2作に主演している俳優が、本作で所長と助手を演じているというのは、ちょっと不自然・・・囚人の中には1作目でムカデ人間の先頭になっていた日本人の北村昭博がいたり、トム・シックス監督が自分の役で出演している「楽屋オチ」のファンサービスも、完全にスベってしまっているのです。
ディーター・ラーザとローレンス・R・ハーヴィーは、カルト映画らしい”怪演”を意識した結果、前2作でのハマりっぷりが嘘のような学芸会レベルの演技で空回りしてしまっています。役名も所長が「ボス」、助手が「バトラー」という名前というのも、ジョークにもなっていません。二人とも寡黙であることでカリスマ性のあるキャラクターを演じていたのとは真逆で、本作では非常に饒舌・・・本作の半分は刑務所の所長室での”会話劇”のようになっています。台詞での説明が過剰で、キャラクターの行動に何も意外性を感じさせないので、トラウマ感が皆無なのです。
「ムカデ人間3」は、やっぱりというか、再びの”メタ構造”・・・映画「ムカデ人間」と「ムカデ人間2」を観た助手が、所長に経費節約のために500人もの囚人達を繋いでムカデ人間にしようと提案する場面から本作は始まります。
ボスは「目には目を歯には歯をの100倍~!」と所長自ら囚人達を虐待していて・・・骨が露出するまで腕を捻ったり、顔にタオルをのせて熱湯をかけたり、ナイフで睾丸を切り取って去勢したりと、やりたい放題。そのくせ囚人達から「リスペクトがない!」と怒りまくって、銃を乱射しているというメチャクチャっぷり・・・トム・シックス監督にとっての「クレイジーなアメリカ人!」という描写なのかもしれませんが、何も脈略もなく狂っているだけ。唯一の女性キャラクターである秘書のデイジーに対してのセクハラっぷりは、フェミニストがブチ切れそうほど酷いモノですが、悪趣味という意味では、完全に想定内。エリック・ロバーツ演じる州知事が、囚人達をムカデ人間に改造することを「素晴らしい!」と容認するという展開は、政治的な風刺にさえなっていません。
見所のひとつであるはずのムカデ人間への改造手術の行程は、稚拙な方法になっています。1作目では頬とお尻の皮膚を三角形に切り取って縫い合わせるという手術を施していたのが、本作では唇と肛門の周りに糸を通して引っ張るだけ・・・これでは大便はダダ漏れになるのは確実。500人もの人間が口と肛門を縫い合わされた状態で、どうやって移動するのかにボクは興味があったのですが、そのような場面を描くことは一切なく・・・術後、いきなり運動場のような広い空間に、局部だけ穴の開いた囚人服を着せられた状態で、ムカデ人間となった500人が繋がっているというシーンに切り替わってしまいます。また、終身刑の囚人は、手足を切り取った上、口と肛門を繋げた「イモムシ人間」にさせられるいるのですが、これが画的に地味・・・本来であれば「なんてこった!」と驚愕すべきところなのでしょうが。
最後には、所長は完全に狂って(というか最初から狂いっぱなしではありますが)全員を殺害して、監視塔で奇声をあげながら、アメリカ国歌が流れてエンディングとなります。サプライズもなく、三部作の物語の着地点としては、なんとも消化不良な感じ。ボクが観たのはアメリカ版に先駆けて発売されたイギリス版のブルーレイなのですが、それには「もうひとつのエンディング」が収録されていて、こちらの方が全然良いのです。
全員を殺害して、アメリカ国歌が流れるところまでは同じなのですが・・・ここで、いきなり高速道路の脇に停められた車のシーンに変わります。実はこのシーンは「ムカデ人間」の1作目のオープニングシーン・・・車の中ではハイター博士が、口と肛門を繋げる実験をした愛犬たちの写真を見ながら、涙を流しています。”メタ構造”を繰り返してきた本シリーズにふさわしく、1作目の”ふりだし”に戻ることで、「ムカデ人間」の全ては妄想の産物だったというのが、最も妥当な”オチ”だったのではないでしょうか?
「ムカデ人間3」
原題/The Human Centipede 3 (Final Sequence)
2015年/アメリカ、オランダ
監督&脚本:トム・シックス
出演 :ディーター・ラーザー、ローレンス・R・ハーヴィー、エリック・ロバーツ、北村昭博、ブリー・オルソン、ロバート・ラサード、トミー・タイニー・リスター、トム・シックス
2015年8月22日より日本劇場公開
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