2014/07/25

ピエール・ベルジェとサンローラン財団が全面協力した伝記映画・・・ちょっと下世話なゲイ描写と伝説的なファッションショーの再現~「イヴ・サンローラン/Yves Saint Lauren」~



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2002年にデザイナー引退を表明して以来、イヴ・サンローランに関する映画が続々と製作されています。20世紀のフランスファッションを代表するデザイナーというだけでなく、公私ともにパートナーであったピエール・ベルジェとの同性愛関係や、若者カルチャーが激変した1960年代から1970年代の生き証人として、語るべき物語には尽きないようです。

まず、2002年の引退時期に合わせたかのように発表されたデビット・テブール(David Teboul)監督による2本のドキュメンタリー映画があります。「Yves Saint Laurent: His Life and Times」は、インタビューと過去の映像を取り混ぜた・・・唯一のイブ・サンローラン生前に作られたドキュメンタリー映画です。サンローラン本人が自身のホモセクシャリティについて語るだけでなく、サンローランの母親に息子のホモセクシャリティに関して質問するという突っ込んだ内容でした。「Yves Saint Laurent: 5 Avenue Marceau 75116 Paris」は、最後のオートクチュールコレクションの製作過程に密着したドキュメンタリー・・・精気に欠けたイヴ・サンローランの姿には痛々しいところもあり、それを含めて貴重な映像と言えるかもしれません。

2008年、イヴ・サンローランが71歳で死去。その後、イヴ・サンローランとピエール・ベルジェによって収集された美術品のオークションの過程を追いながら、ピエール・ベルジェの回想インタビュー、サンローラン生前のフィルムやスチール写真などで構成された・・・2010年のピエール・トレトン(Pierre Thoretton)監督によるドキュメンタリー映画「イヴ・サンローラン/L'Amour Fou」(めのおかし参照)が制作されました。日本では「イヴ・サンローラン」というタイトルがつけられていましたが、フランスの原題「狂おしい愛」が示していたとおり・・・ピエール・ベルジェというイヴ・サンローランを愛した男の人生を浮き彫りにしたものでした。

そして、ドキュメンタリー映画「イヴ・サンローラン/L'Amour Fou」から数年・・・去年、今年と続けてイヴ・サンローランを描いた”劇映画”が2本「イヴ・サンローラン/Yves Saint Laurent」と「サンローラン/Saint Laurent」が製作されているのです。

先に公開されたジャリル・レスペール(Jalil Lespert)監督による「イヴ・サンローラン/Yves Saint Laurent」は、イヴ・サンローラン財団とピエール・ベルジェの全面的な協力を得て作られた・・・いわば「公式」な伝記映画であります。実際のイヴ・サンローランの仕事場やファッションショー会場で撮影を行い、ファッションショーで使用された衣装は特別に財団により保存されている”オリジナル”という「本物」にこだわる徹底ぶり・・・さらに、若き日のイヴ・サンローランに生き写しのピエール・ニネによる完璧なモノマネ演技より、伝記映画としては隙がありません。

本作「イヴ・サンローラン」では、1958年イヴ・サンローランがクリスチャン・ディオールのアシスタントとして働き始めるところから、デザイナーとして全盛期の頂点であった「ロシアンコレクション」までを、美術品のオークション出品準備をするピエール・ベルジェ(キョーム・ガリエンヌ)の視点で振り返っていくのですが・・・2010年のドキュメンタリー映画「イヴ・サンローラン/L'Amour Fou」と内容的にかぶっているところが多く、インタビューで語られていた部分が再現されているという感じです。映画ではハッキリとは描写されていませんが・・・1976年の二人の恋人関係が解消した時点で回想が終わるということで、本作も「イヴ・サンローラン/L'Amour Fou」と同様にピエール・ベルジェ版のイヴ・サンローランの伝記と言えるのかもしれません。

1時間45分ほどで、イヴ・サンローランの人生のうち最も波乱に満ちていた20年間ほどを振り返ろうというのですから、いろんな逸話をあれこれと詰め込んだという印象です。イヴ・サンローランの人生と彼の交友関係のあった人々を知らないと、登場人物が誰なのかが理解できないかもしれません。ネタバレは気にせずに、前記のイヴ・サンローランのドキュメンタリー映画などを観たりして、しっかりと予習して観ることが必要だと思います。

ここからネタバレを含みます。


クリスチャン・ディオールの葬儀会場で初めて会ったと言われるイヴ・サンローランとピエール・ベルジェ・・・当時ピエール・ベルジェにはアートディラーのバーナード・ブフェット(ジャン=エドワルド・ボザック)という恋人がいたのです。その後、ピエール・ベルジェはハーパーズ・バザーの編集者のコネを使って(?)クリスチャン・ディオー亡き後のコレクションでデザイナーに就任したばかりのイヴ・サンローランを食事会で紹介してもらい・・・二人は見事に恋に落ちることになります。


これは”奇跡の出会い”と言えるかもしれませんが・・・ピエール・ベルジェの策略が上手くいったと邪推してしまうのは、少々意地悪でしょうか?当初はプライベートな関係だった二人でしたが、ピエール・ベルジェは徐々にディオールのデザインスタジオに入り込んでいき・・・そして、ピエール・ベルジェはバーナード・ブフェットと分かれて、イヴ・サンローランと同棲を始めるのですから。


しかし、ディオールから解任された後、イヴ・サンローラン自身のオートクチュールハウスを設立するために、金策を走り回ったのはピエール・ベルジェだったわけで・・・精神的に弱いイヴ・サンローランにとっては、ビジネス上でもピエール・ベルジェは欠かせない存在となっていくのは当然のこと。後にイヴ・サンローランの才能の寄生虫のように、煙たがられてしまう存在となってしまうピエール・ベルジェですが・・・イヴ・サンローランのキャリアにとって、必要不可欠な人物であったことは否定できないのかもしれません。

クリスチャン・ディオールのミューズであったヴィクトワール・ドゥトレリュー(シャルロット・ルボン)は、イヴ・サンローランの独立後もミューズであり、カール・ラガーフェルド(ニコライ・キンスキー)とのプラトニックな奇妙な三角関係もあったのですが・・・いきなり彼女は引退することになります。それは、ディオールに代表された”ライン”の時代から、”感性”のファションの時代へ移行したこともあったようなのですが、実はピエール・ベルジェとヴィクトワールの確執があったことが本作で描かれています。それも、ピエール・ベルジェがヴィクトワールと無理矢理肉体関係を持ったことを、あえてイヴ・サンローランの告げ口するという”小汚い”手口だったというのですから・・・なかなかエグいです。


その後、1965年「モンドリアンルック」の世界的な注目を集めたイヴ・サンローランは、オートクチュールのデザイナーとして初めてプレタ・ポルテ(高級既製服)の店舗をオープンさせたり、「サファリルック」「パンツスーツ」「アフリカンルック」など若々しい感性で、デザイナーとして第一線の活躍をしていくことになります。デザインに追われるパリから逃げ出し、プライベートな時間を過ごすため、イヴ・サンローランはモロッコに別荘を購入・・・新しいミューズとなったバティ・カトルー(マリー・ドビルパン)やルル・ド・ラ・ファレーズ(ローラ・スメット)らとつるむようになるのです。


時代の寵児となったイヴ・サンローランの元には、流行の先端をいく若者が集まってくるわけで・・・時代的な背景を考えれば、ドラッグ、アルコール、セックスに溺れていくことは、当然の流れだったのかもしれません。ただ、恋人としての愛情だけでなく、ビジネスのパートナーの責務として、ピエール・ベルジェは”お目付役”という嫌われ者をかって出て、イヴ・サンローランを守ろうとしていたというのは、ある意味真実なのかもしれません。

1970年代のパリ社交界とゲイのアンダーワールドのセレブであったジャック・デ・バシェー(ザビエ・ラ・フェット)は、カール・ラガーフェルドの恋人として知られていますが・・・実はイヴ・サンローランとも愛人関係にありました。パーティー会場の片隅でジャック・デ・バシェーがイヴ.サンローランを誘惑してオーラルセックスをしたり、怪しいゲイクラブでイヴ・サンローランが手を縛られて後ろから犯されているとか・・・ちょっと下世話なゲイ描写(映画では、ハッキリとは映像では見せていませんが)によって描かれています。

勿論、ピエール・ベルジェがイヴ・サンローランとジャック・デ・バシェーの関係を見逃すわけはなく・・・ピエール・ベルジェはジャック・デ・バシェーを脅迫して、無理矢理イヴ・サンローランから引き離すことになるのです。ジャック・デ・バシェーとの経緯があった後、ピエール・ベルジェとイヴ・サンローランは結果的に恋愛関係を解消することになり、純粋にビジネスパートナーとなってしまうのですから、ジャック・デ・バシェーの存在というのは非常に大きかったと言えるでしょう。


本作では、長年に渡るカール・ラガーフェルドとの(デザイナーとしてだけでなく)プライベートでの確執を描ききれていないのは残念・・・ピエール・ベルジェ公認ということもあるでしょうが、カール・ラガーフェルド側への配慮もあるのかもしれません。そのため・・・精神的に弱いイヴ・サンローランは第一線でデザイナーとして活躍し続けるプレッシャーによって、徐々にドラッグ、アルコール、セックスに溺れていったという「才能に溢れた成功者の転落」「輝かしい過去への郷愁」いうドキュメンタリー映画で何度も描かれた・・・お馴染みの「イヴ・サンローラン物語」となってしまったような気もします。


さて・・・もうひとつのイヴ・サンローランの伝記映画は、ピエール・ベルジェの協力も、財団のサポートも受けずに製作された”非公認”となるベルトラン・ボネロ(Bertrand Bonello)監督による「サンローラン/Saint Laurent」です。2014年9月24日からフランス国内で劇場公開ということで、詳細は分かりませんが・・・ジャリル・レスペール監督版と違い1967~76年の10年間という最もイヴ・サンローランの人生の中でも破天荒な時期を描いているらしいです。イヴ・サンローランとカール・ラガーフェルドを翻弄させたジャック・デ・バシェーの存在感を予感させる予告編・・・ピエール・ベルジェが封印したいスキャンダルなイヴ・サンローラン像が描かれるのでしょうか?


イヴ・サンローラン役にはギャスパー・ウリエル、ピエール・ベルジェ役にジェレミー・レニエ、ルル・ド・ラ・フランセーズ役にレア・セドゥ(アデル、ブルーは熱い色)・・・と、本人たちには似ているとは思えないキャスティングではあります。ただ、ギャスパー・ウリエルが卑屈に微笑むポスターから感じ取れるのは微かな”悪意”・・・非公認を逆手に取ったエグい描写に期待が膨らみます。また、1989年当時のイブ・サンローラン役を演じるのが”ヘルムート・バーガー”(!!!)というのも、非常に気になるところ・・・御歳70歳となる”元美青年”の恐ろしいまでの劣化が、老年期のイヴ・サンローランと重なります。


ファッションショーの再現には、財団の所持するオリジナルを使用することはできないので、おそらく全てを改めて制作したと推測しますが、スチール写真を見る限り、まったく本物と比べても引けを取っていない感じです。おそらく、タブロイド紙的な下世話な内容になりそうな「サンローラン/Saint Laurent」・・・イヴ・サンローラン亡き後、どうしてもピエール・ベルジェ視点でしか語られることのなかった物語が、どのようにフィクションを交えて描かれるのか楽しみであります!


「イヴ・サンローラン」
原題/Yves Saint Laurent
2013年/フランス
監督 : ジャリル・レスペール
脚本 : ジャリル・レスペール、マリー=ピエール・ユステ、ジャック・フィエスキ
出演 : ピエール・ニネ、キョーム・ガリエンヌ、シャルロット・ルポン、ローラ・スメット、マリー・ドビルパン、ニコライ・キンスキー、マリアンヌ・バスラー
2014年6月28日「フランス映画祭2014」にて上映
2014年9月6日より日本劇場公開


「サンローラン」
原題/Saint Lauren
2014年/フランス
監督 : ベルトラン・ポネロ
脚本 : ベルトラン・ポネロ、トーマス・ブリッジゲイン
出演 : ギャスパー・ウリエル、ジェレミー・レニエ、レア・セドゥ、ルイス・ガレル、アミラ・シーザー、ヘルムート・バーガー
2015年12月4日より日本劇場公開


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