2012/05/20

映像の全てがハンディカムの”モキュメンタリー”というギミック・・・超能力を身につけた少年の暴走に”アナーキーさ”がないんじゃ!~「クロニクル/Chronicle」~



ボクが子供の頃、ユリ・ゲラーの超能力ブームというのがあって、日本でも”関口くん”という一人の少年はスプーン曲げで一世風靡しました。もしかするとボクにも、そんな超能力が備わっているのかもしれないと・・・スプーンや壊れた時計(ユリ・ゲラーの超能力で壊れた時計が動き出すと言われていた)を準備してテレビの特番の放送を食い入るように観たものです。しかし、ボクの前ではスプーンは曲がらず、時計も動き出さず、自分の超能力のなさにガッカリしたものでありました。ただ、その後、スプーン曲げ自体に疑惑がかかると、関口少年をはじめ、当時騒がれた少年少女はインチキとして忘れられていたったのです。超能力を持つことに憧れていたボクのような少年にとっては冷や水を浴びたような体験であったことは確かでした。

洞窟で不思議な物質に触れたことで、とてつもない超能力を身につけてしまった三人の少年たちが、その力の故に起こってしまう事件の末路を描いた「クロニクル/Chronicle」は、映像の”全て”がハンディカム(時には、監視カメラ、ニュース映像など)によって撮影されているという設定のモキュメンタリーという実験的なギミック映画”でもあります。映像が登場人物のハンディカムであるという設定は「ブレアウィッチ」以降、ホラー映画でよく使われる手法です。生々しい臨場感を醸し出すのには有効な手段ではありますが、カメラの構図が不安定で画面酔いしやすいという致命的な欠点もあるし、誰かが常に撮影しているという不自然さもあるので・・・「ここぞ」というシーンだけがハンディカムによる映像にして、モキュメンタリー”風”というのが一般的なような気がします。しかし・・・本作は、とりあえず映画の中の映像すべてが現場にあるカメラによって記録されたという”体(てい)”にこだわっているのであります。

アンドリュー(デイン・デハーン)は、癌で死につつある寝たきりの母親、アル中で暴力的で父親(マイケル・ケリー)からは虐待を受けている高校生で、学校では”いじめられっこ”・・・そんな彼は、ある日からハンディカムで日常を撮影することにするのです。何不自由なく、学校でも人気者の従兄弟マット(アレックス・ラッセル)に、親戚という義理で誘ってもらったパーティーで、黒人のスティーブ(マイケル・B・ジョーダン)に誘われて、森の洞窟へ”カメラを持ったまま”進入・・・そこには青白く光るクリスタルのような物質があり、ハンディカムは画像のノイズに、3人は鼻血と痛みに襲われ、その体験後、3人はモノを動かす能力(念力/テレキネス)を身につけたことに気付くのであります。

当初は、レゴブロック程度の小さなモノしか動かせませんでしたが、次第に動いているボールを空中で止めたり、ぬいぐるみを宙に浮かせたり、友達を突き飛ばしたり、駐車している車を移動させたり・・・他愛ないイタズラに止まっているわけもなく、次第に彼らは超能力で交通事故を引き起こしたりしだすわけです。能力は訓練すればするほど高まるようで・・・遂には彼らは自分自身の体さえ思うように宙を飛ばすことまで出来るようになって、空さえも飛び回るようになるのであります。勿論、ここまでの経緯は全てがアンドリューのハンディカムに収められた映像というのがミソでありまして・・・念力によってハンディカムを宙に浮かせて、自由自在のアングルで撮影できているということになるわけです。

ここから多少ネタバレを含みます。

監督のジョシュ・トランクいわく、大友克洋の「AKIRA」から最も影響を受けたというだけあり、超能力が暴走した時の破壊力の表現での類似点は見つけられるものの・・・前評判のように、これぞアメリカの「AKIRA」実写版!というほどまで、物語は大きな広がりも深みもありません。あきまでも・・・いじめられっこで父親に虐待されているアンドリューの怒りの爆発という個人的な理屈による、超能力の大暴走となるのです。確かに、厳しい環境は同情するところではありますが、シアトルの街を破壊して無差別に人を殺すほどの”ぶっちぎれ”っぷりは、あまりにも唐突・・・思想までは求めませんが、若者らしいアナーキーさがないのです。”お子さま”的な自分中心主義の感情・・・もしかすると、今どきの若者にとって「個人的な怒りを暴走させること=無差別な大規模破壊」というのでさえ、それほど不自然に感じなくなっているのかもしれませんが。

低予算ということもあって、モキュメンタリースタイルを選んだようですが・・・正直言って、それほど映画の内容に効果的な手法ではなかったような気がします。(正直、モキュメンタリー手法が成功している例って、それほど多くない気もします)予算的にも、映画としての山場も、街の破壊シーンにつぎ込んでいるのですが・・・最後の最後、なんとも啓蒙的なエンディングには消化不良を感じさせました。病気の母親と関係、父親からの虐待、そして学校や地域からのイジメなどを深く掘り下げ、いかにアンドリューが世の中をぶっ壊してやりたいと思っているかを描きった上で、大暴れすれば納得できたのかもしれません。3人の少年ではなく・・・アンドリューひとりに物語を集約して、男の子版「キャリー」を目指してしまえば良かったのにとつくづく思ったのであります。



「クロニクル」
原題/Chronicle
2012年/アメリカ
監督 : ジョシュ・トランク
脚本 : マックス・ランディス、ジョシュ・トランク
出演 : デイン・デハーン、アレックス・ラッセル、マイケル・B・ジョーダン、マイケル・ケリー
2013年9月27日より首都圏限定劇場公開



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