2012/04/06

アダム・サンドラー(ダブル)主演の心温まるコメディ(?)が、史上初ラジー賞全10部門制覇!・・・安易な”女装ギャグ”は勘弁して!「トッツィー」は名作だった!~「ジャックとジル/Jack and Jill」~



映画や演劇が存在する以前から、「男」が「女」の恰好をして”笑わせる”というギャグはあったのではないでしょうか?「男」であるのに「女」の如く振る舞うという”道化役”は、大道芸人もやっていたことだろうし、サイレント時代のコメディ映画でも、”女装”はポピュラーなギャグであります。不思議なのは、女が男の恰好をしても、必ずしも笑いに結びつかないところ・・・潜在的な男尊女卑のマインドが根底にあるのかもしれません。ボクの子供時代には、ばってん荒川や藤山寛美、ドリフターズのいかりや長介の女装コントが、毎週のようにテレビから流れてきました。今でも、殆どのお笑いのバラエティ番組から、”女装コント”がなくなることはありません。おそらく未開の原住民の前で演じても、笑ってくれそう・・・「女装ギャグ」というのは、時代も文化も超えた、”笑いの定番と言っても良いでしょう。

男性コメディアンが「女装して女を演じる」というのは、テレビではあっても・・・劇場映画では、なかなか見れなかったするものです。近年だと、エディ・マーフィの「ナッティ・プロフェッサー2 クランプ家の面々」があります。デブの”着ぐるみ”を着てエディ・マーフィが一家の全員を演じたコメディ映画です。その後、マーティン・ローレンスが、同じようなデブの”着ぐるみ”で母親を演じた「ビックママ・ハウス」シリーズ、エディ・マーフィも再び同じような”着ぐるみ”を着て妻を演じた「マイ・ファット・ワイフ」があります。いずれも、笑いのキャラクターとして確立している「デブの気の強い黒人女」を、デブの”着ぐるみ”を着て演じる・・・というところがミソで、”女装”というよりはコスチューム・プレイでありました。

先日(2012年4月1日)に行なわれた32回ゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)で、最低映画賞、最低監督賞、最低男優賞、最低女優賞、最低助演男優賞、最低助演女優賞、最低カップル賞、最低前編/リメイク/盗作/続編賞、最低脚本賞、最低スクリーン・アンサンブル賞とすべての部門を制覇した「ジャックとジル/Jack and Jill」は、この”女装ギャグ”という定番に、真っ向から取り組んだコメディ映画です。主役のジャック閉じるという男女の双子を演じるのが、どちらもアダム・サンドラーなのですから・・・でも、双子でも性別が違う場合には絶対に二卵性のはずなのだから、顔がそっくりという必然性はないのでは・という疑問は、野暮かもしれません・・・。本作の”酷い”のは、何と言っても、女役を演じているアダム・サンドラーの女装のクオリティの低さ!どう見ても、ただ単にアダム・サンドラー演じるジャックが女装しているにしか見えないレベルにも関わらず・・・ジルという双子の妹というのは、かなり無茶としか言いようがありません。

また、設定として”不快”なのが・・・ジャックは広告業界のエグゼクティブで成功者、幸せな結婚をしているのに、ジルはろくに仕事もしてなくて(11月末の感謝祭から年明けまでジャック宅に滞在できるんだから・・・)ろくに男性とも付き合ったことないという、かなり哀れな女性だということろ。何故、双子でそっくりだという二人が、これほどまでに格差のある人生を歩まなければならないのでしょう?結局のところ、アダム・サンドラーを無理矢理に「女」にしただけのルックスだから、勿論「ブス」で・・・だから、高校時代から”つまはじき者”の”いじめられっ子”って、女装のクオリティの低さによって、なるようにしかなれなかったキャラクターという感じで、本末転倒なのであります。

どういうわけか、アル・パチーノ本人が演じるアル・パチーノが、ジルに一目惚れというのは、ギャグとしてもアリエナイ無理な展開・・・アル・パチーノとのデートを嫌がるジルの振りをしてジャックが女装するんだけど、勿論アル・パチーノはまったく気付きません。でも、それって、ジャックが上手いこと演じているというのではなくて、ジルが元々ジャックの女装とまったく変わりないという・・・ここでも女装のレベルの低さが、ギャグを成立さえない”足かせ”になっているのです。結局、ジルはメキシコ移民の男性とハッピーエンドなるわけだけど・・・どうして彼がジルにそこまで惚れたのかも・・・理解不可能。登場人物の誰一人にも共感も、理解もできないのですから・・・心温まるコメディとしてのオチとして、まったく機能していません。

「女装」を”売り”にしたコメディ映画として、ボクが映画史上で最も成功した作品のひとつに、ダスティン・ホフマン主演の「トッツィー」が思い起こされます。正確に言うと、ダスティン・ホフマンは「女役」ではなく、女のフリをして売れてしまった売れない男優という役柄。この作品のアメリカでの前評判は最悪・・・ダスティン・ホフマンの女装なんて、単に「ギミック」でしかないという冷たいムードでしたが、実際に公開されると大ヒットどころか、アカデミー主演男優(?)賞にもノミネートされてしまったのですから、役者としての実力を見せつけた結果となりました。

「女装」のコメディ映画というのは、実はハードルとしては、非常に高いはずなのです。それを安易にギャグとしてやってしまった「ジャックとジル」は、アダム・サンドラーの演技者としての力不足を露呈させてしまいました。また、女装というギミックの縛りから、キャラクター設定も物語の展開も破綻しているという見事な迷走っぷりで・・・史上初のラジー賞全10部門制覇というのも納得するしかないのであります。

「ジャックとジル」
原題/Jack and Jill
2011年/アメリカ
監督 : デニス・デューカン
出演 : アダム・サンドラー、ケイティ・ホームズ、アル・パチーノ、ユージニオ・デルベス、デヴィット・スペード、ニック.スワードソン、ノーム.マクドナルド、ティム.メドゥ

「トッツィー」
原題/Tootsie
1982年/アメリカ
監督 : シドニー・ポラック
出演 : ダスティン・ホフマン、ジェシカ・ラング、テリー・ガー、ダブニー・コールマン、チャールズ・ダーニング、ビル・マーレイ、ジーナ・デイヴィス、シドニー・ポラック



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1 件のコメント:

  1. ラジー受賞も含め、全て狙ってる作品だと思うけど。。

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