「イット・フォローズ/It Follows」は、単に”ホラー映画”という範疇には収めるのが惜しいくらい切なさも感じさせる青春映画であります。というのも・・・「アメリカン・スリープオーバー/The Myth of American Sleepover」(何故か日本では限定された上映しかされていない劇場未公開作品!)のデヴィット・ロバート・ミッチェル監督の第2作ということを知れば・・・ある意味「納得!」と思えるところもあるのです。
「アメリカン・スリープオーバー」は、ティーンエイジャーたちのエピソードを紡いで夏の終わりの一日を描いた青春映画・・・些細なディテールを丁寧に積み上げることで、細かい心を動きが生々しく描かれます。性への興味と同時に不安を抱えながらも、クールかつ大胆に性と向かい合う、子供と大人の間の微妙な時期だからこそ起こりえる、起伏の激しい内に秘めた感情のひだを、適度な距離感でとらえていて、何度観ても発見がある作品になっているのです。大きな事件がまったく起こらないのに、ちょっとした視線や、わずかな動きにさえ、観客はドキドキさせられてしまう・・・ある種のサスペンスさえ感じる巧みな演出の、デヴィット・ロバート・ミッチェル監督デビュー作であります。
ビタースイートな青春映画を撮った監督が、まさか2作目で”ホラー映画”に挑むというのは、ちょっと意外です。ただ、ホラー映画の多くは若者が主人公(被害者)という作品が多いので、青春映画とホラー映画というのは、考えてみれば・・・そもそも相性が良いのかもしれません。
「イット・フォローズ/It Follows」は「it/イット」=「それ」に追われる恐怖を描いたホラー映画・・・「それ」に取り憑かれている人とエッチをすると取り憑かれてしまいます。「それ」は、さまざまな姿になって取り憑いた人を追ってくるのですが、「それ」の姿が見えるのは取り憑かれている人”だけ”(その人の前に取り憑いていた人も)・・・そして、「それ」に捕まってしまうと、取り憑かれた人は惨殺されてしまうのです。すると、殺された人の前に取り憑いていた人に再び取り憑くという厄介さ・・・「それ」に取り憑かれたら、次々とエッチをして次の人に押し付けていかないといけないのであります。
アッパーミドルクラスの住宅地で、何かから逃げようとする少女・・・父親に「ごめんなさい」という言葉を残して、彼女は「それ」に惨殺されてしまいます。彼女が恐れていた「それ」については、この段階では何も分かりませんが・・・「それ」が恐ろしい存在であることは、観客の脳裏に焼き付くこととなります。
ジェイ(マイカ・モンロー)は、妹のケリー(リリ・セベ)、ジェイに思いを寄せている幼馴染みのポール(キーア・ギルクリスト)、メガネっ娘のヤラ(オリヴィア・ルカルディ)らと常につるんでいる普通のティーンエイジャー・・・新しいボーイフレンドのヒュー(ジェイク・ウィアリー)とのデートを楽しみにしています。ある晩、カーセックスにおよんだ後、ヒューはジェイを気絶させて車椅子に縛りつけて、ジェイに「それ」を伝染させたことを伝えます。半信半疑のジェイの前に「それ」は老婆、半裸の女性、背の高い男性などの姿となり、ジェイを追いかけてくるようになるのです。
近所に住むグレッグ(ダニエル・ゾボット)も合流して、彼らは湖畔の別荘へ逃げるのですが・・・「それ」はヤラの姿となってジェイに襲いかかってきます。車で逃げる途中、ジェイは事故を起こしてしまい、入院する羽目になってしまうのです。そこで病室でジェイはグレッグとエッチをして「それ」を意図的にグレッグへ伝染させることにします。ジェイに思いを寄せるポールは、ジェイがグレッグを選んだことに密かに嫉妬心を燃やすのです。
ここからネタバレを含みます。
「イット・フォローズ」の中で「それ」が何であるかの説明は一切されません。ただ「それ」は姿は、見知らぬ亡霊だけでなく、今生きている誰かにまで姿を変えて、取り憑いた者を殺害するまで追いかけてくるのです。グレッグは、彼の母親に姿を変えた「それ」により殺されてしまいます。そして、再び「それ」のターゲットはジェイに戻るのです。
ティーンエイジャーが考えそうな稚拙な方法で「それ」を感電させて退治しようと、古いプール施設におびき寄せることには、ジェイと仲間、妹のケリー、ポール、ヤラは成功するのですが・・・ジェイの父親に姿を変えた「それ」は、ジェイに激しく襲いかかるのであります。何とかプールの中で「それ」を仕留めたものの、再び「それ」が襲ってくるのは時間の問題です。そこで、今度はポールがジェイとエッチをして「それ」に取り憑かれることにします。ポールにとってジェイの身代わりになることは本望なのかもしれません。
どうやら・・・ポールは町外れに立っている売春婦とエッチをして「それ」から逃れようという思惑があるようなのですが、その結果がどうなったかは映画ではハッキリ説明されません。ただ「それ」に怯え続けるジェイとポールは、お互い寄り添う合うことしかできないのです。もしかすると「それ」は再びターゲットをポールに戻ってきて、彼らの後ろを追いかけているのかもしれない・・・という不吉な余韻を残して、映画は終わります。
本作の恐怖感は、時にデヴィット・リンチ、時にジョン・カーペンターズ、時にスタンリー・キューブリックさえ思い起こさせる美麗なカメラワークと共に、ゲーム音楽の作曲家として活躍してきたディザスターピース(Disasterpeace)ことリッチ・ヴリーランドによるアンビエントなエレクトリックミュージックによって増長されていると言えるでしょう。また、家庭環境や家族を説明をし過ぎないことで、ジェイと仲間のティーンエイジャーの物語だけに観客は集中することができるわけであります。
「イット・フォローズ」は、性感染症のようにエッチによって取り憑く相手が伝染していく「それ」に追いかけられる恐怖を描いているような”ホラー映画”ではありますが、ポールの視点から見ると、幼馴染みのジェイへの切ない片思いが「それ」の脅威によって成熟するという・・・なんとも皮肉な”恋の物語”でもあるのです。
「イット・フォローズ」
原題/It Follows
2014年/アメリカ
監督 : デヴィット・ロバート・ミッチェル
出演 : マイカ・モンロー、キーア・ギルクリスト、ダニエル・ゾボット、ジェイク・ウィアリー、リリ・セベ、オリヴィア・ルカルディ、ベイリー・スプライ
2016年1月8日より日本劇場公開
「アメリカン・スリープオーバー」
原題/The Myth of the American Sleepover
2010年/アメリカ
監督 : デヴィット・ロバート・ミッチェル
出演 : クレア・スロマ、マーロン・モートン、アマンダ・バウワー、ブレット・ジェイコブソン
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