先日(2019年10月8日)・・・”特殊メイクアップアーティスト”兼”映画監督”のライアン・ニコルソン(Ryan Nicholson)が、若干47歳で亡くなられたという悲しい知らせがありました。映像特典とかで見たことのある本人画像は小太りだったのに、近影はほっそりしていたので「もしかして闘病とかしてるのかなぁ?」と思っていたんですが・・・まさか”脳ガン”で闘病していたとは。
ところで・・・ライアン・ニコルソンって誰ぞやという話であります。カナダ出身の”特殊メイクアップアーティスト”で、ハリウッド映画(「ファイナル・ディストネーション」「最終絶叫計画」「ブレイド」「リディック」など)や、アメリカのTVドラマシリーズ(「Xファイル」「アウター・リミッツ」「スターゲイト SG-1」「アンドロメダ」など)を担当・・・母国カナダではスプラッター専門の映画監督としても活躍しており、その手のマニアにはお馴染みの人かもしれません。
監督作品はどれも”低予算”・・・それも、その安っぽさがわかるようなクオリティー(主にビデオカメラでの撮影、台詞がアフレコなど)であり、基本的に映画館で公開されるということも殆どなく、基本”DVDスルー”なのであります。しかし、本職である特殊メイクアップアーティスト魂を発揮して、血糊多めのスプラッター描写に特化されており、過激なエロ要素や加減のない悪趣味さも相まって、一部のマニアからは「カルト映画」として称賛されているのです。
ただ・・・映画的には”素人っぽい”(?)「クソ映画」でもあります。見せ場であるはずのスプラッター場面ではクローズアップすぎて被写体が構図からはみ出したり(おそらく特殊効果の粗を見せないため?)、アクションシーンの編集と構図がやけに雑だったり・・・あちらこちらに技術的な稚拙さが目立つのです。さらに、出演している役者の演技が絶望的に下手クソ・・・さらに使い古された”クサい”演出や台詞も加わって1980年代のスップラッター映画のようなチープさ満載なのであります。
ここから各作品のネタバレを含みます。
長編第一作の「ライブ・フィード(原題)/Live Feed」(2006年)は、イーライ・ロス監督の「ホステル」の舞台を中国に移したような設定で・・・5人の若者が、ポルノ映画館(売春婦が利用するための個室がある)で拉致されて残虐な方法で殺されていくというお話であります。この映画館を仕切っているのが中国人ギャングのボス(ステファン・チャング)で・・・惨殺される様子を別室のモニター越しで眺めたり、肉屋の調理人(グレッグ・チャン)に死体を調理させて食べるのが、彼の楽しみなのです。
個室にしけ込んでエッチには励んだカップルのリンダ(キャロライン・チョニャッキ)とマイク(リー・ティション)の前に、いきなり巨体の処刑人(マイク・ベネット)が現れて、マイクを刺殺して首を切り飛ばしてしまいます。リンダは無理やり蛇を飲み込まされて唇をホチキスで蓋をされた後、腹を切り裂くと生きた蛇が出てくるのです。
エミリー(タアイラ・マーケル)のボーイフレンドのダレン(ロブ・スカッターグッド)は、サラ(アシュレー・スチャッパート)とトイレの中でエッチに励んでいます。その後、一人になったサラは中国人ギャングの男たちに捕らえられて、縄で縛られた状態で刀で突き刺されて殺されてしまうのです。
各個室には盗聴カメラが仕掛けられていて他の部屋のモニターから見ることができるので、別室にいたエミリーは全てを目撃して恐怖に怯えています。そこに、調理されたマイクのペニスをギャングの手下が運んできて無理やり食べさせられるのですが、隙を見計らってエミリーは凶器を奪い男を滅多刺しにして脱出を試みルのです。しかし、怪しい白人男(テッド・フレンド)に捕まって、中国人ボスの元へ連れて行かれてしまいます。
このポルノ映画館に、中国人ボスを捜査中に拷問されて殺された日本の警察官だった兄の復讐に燃えているマイルズ(ケヴァン・オーツジ)が、一目惚れしたエミリーを追って乗り込んでくるのです。本作ではヒーロー役といったところなのですが・・・演じている日系人の男優さんが、異常な熱量で演じているわりに大根役者で、全然プロットが頭に入ってきません。また、見せ場となるべきアクションシーンの構図や編集が雑で、登場人物の立ち位置も、何が起こっているかも、よく分からないまま終わってしまうのです。
裏切りを知った処刑人に中国人ボスは首を捻られる拷問で惨殺されて・・・処刑人とマイルズの死闘はエミリーがとどめを刺すのですが、最後の最後にマイルズはギャングの下僕(コリン・フー)に殺されてしまいます。エミリーは警察官に助けられてパトカーで現場を去るのですが、そこに突如現れたのは命拾いしたボーイフレンドのダレン・・・パトカーに同席した彼にエミリーは冷ややかな視線と言葉をかけて本作は終わります。
他のスプラッター映画で観たことあるような場面や設定が繰り返し出てくるのは、監督やスタッフらの好きな要素を詰め込んだ結果かもしれません。実際に営業していたポルノ映画館で撮影したのは、セットを組む必要がないということもあったようですが、精液などで本当に汚れた内装であったことは、本作の怪しい臨場感にひと役かっています。そういう意味でも・・・”よく出来た”卒業制作のようでもあるのです。
長編二作目の「悪魔の毒々ボウリング/Gutterballs」(2008年)は、唯一日本字幕版が観られる(DVDレンタル)ライアン・ニコルソン作品であります。「あの”悪魔の毒々”シリーズが復活!」とトロマ映画のように宣伝されていますが・・・極めて”低予算映画”であることや”エログロ悪趣味”に満ちた作風などの共通点はあるものの、実際は無関係です。ボーリング場を舞台に、二つの不良グループの若者たちが、ボーリングバッグを被った殺人鬼に次々と殺されていくというお話で・・・1980年代のスプラッター映画にオマージュを捧げています。
清掃係(ダン・エリス)の計らいで、二つの対抗する不良グループはボーリング対決のため営業後のボーリング場にたむろしています。リーダーのスティーブ(アラスティア・ギャンブル)は、別グループのリーダーのジェイミー(ネイサン・ホワイト)が、リサ(キャンディス・レワルド)とエッチしたことを根に持っていて、ジェイミーのグループのひとりである女装のサム(ジミー・ブライス)にちょっかいを出したことをきっかけに喧嘩となるのです。リサは、超ミニスカートにノーパンで”割れ目”の覗かせるような”あばずれ”で、やたら気が強い女でもあります。リサは、スティーブの足にボーリングボールを落として、一旦は喧嘩を沈静させるのです。
皆が帰った後、忘れ物を取りにリサがボーリング場に一人で戻ると、そこにはスティーブのグループの男4人が待ち構えていて、リサはスティーブによって手荒に強姦されてしまいます。続いて、A.J.(ネイサン・ダッシュウッド)とジョーイ(ワデ・ギブ)によってもリサ犯されていたぶられるのです。躊躇して手を出そうとしないパトリック(トレヴァー・ジェンマ)に、スティーブはボーリングの”ピン”で犯すことを指示して、リサの股間は血だらけになってしまいます。
翌日・・・二つのグループは再びボーリング上に集まり、ボーリング対決が始まるのですが・・・スコアボードには誰なのか分からない「BBK」という名前があるのです。足を怪我して松葉杖をついたスティーブは、ジュリア(ダニエル・ムンロ)とハンナ(サラフィナ・バードュー)という二人のガールフレンドを連れて現れます。ビールを取りに行ったバーで、ジュリアはジョーイのグループのデイヴ(スコット・アロンゾ)といい感じなり、二人はトイレで69のポジションでやり始めるのです。そこにボーリングバッグを頭にかぶった殺人鬼が現れて、頭を押さえつけて二人ともお互いの性器で窒息死させられてしまいます。(んな馬鹿な!)
すると「BBK」のスコアボードに”ツーストライク”と表示されるのです。そう・・・「BBK」とは「ボーリング・バッグ・キラー/Bowling Bag Killer」の略なのであります!
女装のサムが、トイレに身繕いでやってくると、待ち構えていた「BBK」によって個室トイレに連れ込まれてしまいます。命乞いをするサムに、非常にも「BBK」はボーリングのピンをサムの喉に押し込んで殺してしまうのですが、それで終わりでなく・・・サムの男性器をパンティから取り出して、カッターで縦に切り裂くのです。このシーンは日本版DVDではモザイクだらけですが、オリジナル版で観ることのできる特殊効果は股間が縮こまルほどリアルになっています。
ジョーイのグループのベン(ジェレミー・ビランド)とシンディ(ステファニー・スチャッター)は、倉庫にしけ込んでエッチを始めるのですが・・・コンドームがないことに気付き、ベンはトイレに設置されたコンドーム販売機に買いに行くことになります。そこには、当然「BBK」が待ち構えており、ボーリングのピンで頭を殴打されて、ベンは殺されてしまうのです。倉庫に一人で残ったシンディの前にも「BBK」が現れるのですが、ベンがボーリングバッグをかぶっていると思い込んでいるシンディも、ボーリングシューズの紐で首を締められて殺されてしまいます。
ジュリアを探して館内をうろつくハンナは、ボーリングボールを両手につけた鉄の鎧で現れた「BBK」により頭を潰されて殺害・・・続いて、A.J.は「BBK」によって、ボーリングボールを磨く機械に顔を押し付けられて顔を削がれて無残な姿で殺されてしまうのです。次々と仲間の姿がいなくなるのを不審に感じたスティーブがレーン裏に行ってみると、そこには首を繰り落とされたジョーイの死体を発見・・・そこに「BBK」が現れて、スティーブをボーリングのピンで殴って朦朧とさせて、削って尖らせたピンでスティーブのアナルを犯した後、顔を滅多打ちにして殺します。
こんな事が起こっている中・・・ジョーイとサラ(ミホーラ・タージック)はボーリングのゲームを続けていルのですが、ボールリターンの機械からジョーイの生首が飛び出してくるのです。大騒ぎでボーリング場から逃げようとしますが、出入口にはチャーンがかかっていて外に出れません。ドアの外にはパトリックの死体が放置されているのです。
二人が地下室へ逃げ込むと、そこには殺された仲間たち全員の死体がディスプレイされています。そこに3人の「BBK」が現れて、正体を明かします。一人目は清掃係・・・前夜、強姦されたリサの父親だった彼は、スティーブのグループだけでなく、忘れ物を一人っきりで取りに行かせた仲間までを殺害することを計画したと告白するのです。そして、ジェイミーは、初めから計画を知っていたことも。実際に殺害していたのは、二人目の「BBK」のパトリック・・・しかし、用済みとなったところで清掃係によって首を切られて殺されてしまいます。三人目の「BBK」はリサで、スティーブに復讐していたのです。
カオス状態から脱出するため、ジェイミーは清掃係の頭をショットガンでぶっ放して粉砕・・・サラはリサをショットガンで撃ち殺します。ボーリング場から出てところで、サラは「あんたも最低!」と言い放ち、ジェイミーをショットガンで殺してしまうのです。
舞台をボーリング場のほぼ館内だけに限ったこと、実際にあるボーリング場でロケーション撮影したことにより、低予算で制作されていることは明白ですが・・・特殊効果メイクアップのグロさや下ネタのエロさは秀逸で、スプラッターエンターテイメントとして楽しめる作品となっています。ただ・・・残念なことに日本国内レンタル版は、性器だけでなくスプラッターな部分にもボカシ入りという仕様になっているので、本作を満喫するためには”輸入版”がオススメです。
ちなみに「悪魔の毒々ボウリング」の続編・・・「ガーターボールズ2:ボールズ・ディープ(原題)/Gutterballs 2: Balls Deep」が2015年に製作されています。テキサス・フライトメア・ウィークエンドというイベントで初公開されたようなのですが、現時点(2019年11月30日)ではDVD/ブルーレイ化はされていません。ただ”あの”アンアースド・フィルムス(Unearthed Films)が、プロットディガー・フィルムス(Plotdigger Films)から配給権を獲得したそうなので、近い将来ライアン・ニコルソン監督作品がブルーレイ版が販売されると思われます。
「ハンガー(原題)/Hanger」は、ドイツとオーストラリアで公開禁止となったということもあり・・・相当エグいゴアシーンが売りの一作であります。特殊効果を駆使したゴア描写だけでなく、倫理観を覆す内容には、思わず頭を抱えてしまうほどです。冒頭のプロローグに「トロマ映画」創始者のロイド・カフマンが女装姿でカメオ出演しているのも、マニアには見所かもしれません。
妊娠中で金を稼げない売春婦のローズ(デビー・ローシャン)は、ポン引きのリロイ(ロナルド・パトリック・トンプソン)から暴力的な取り立てをされており、お腹の子の父親のザ・ジョン(ダン・エリス)の手引きで逃亡しようと企てるのですが、リロイに見つかってしまいます。リロイは洋服ハンガーをローズの股間に突っ込んで、胎児を引っ張り出すという強引な中絶を行い、ローズを殺害。傷だらけの胎児はゴミ箱に捨てられてしまうのですが、ホームレスの男(ライアン・ニコルソン)によって偶然発見されて育てられることになるのです。
ハンガー(ネイサン・ダッシュウッド)の18歳の誕生日を機に、父親のザ・ジョンはホームレスの男からハンガーを託された後、ホームレスの男を轢き殺してしまうのです。ザ・ジョンの計らいで、ハンガーはゴミ処理場でダウン症のラッセル(ワデ・ギブ)と一緒に暮らして働くことになります。ザ・ジョンはハンガーの”筆下ろし”のために売春婦を連れてくるのですが、ハンガーの酷く傷ついた顔を見た途端に逃げ出してしまったので、彼女の頭をトラックのドアで何度も挟んで殺害してしまうのです。
ポルノ好きのラッセルと一緒にポルノ映画を見ていると、ハンガーは画面に母親ローズの姿を見つけます。そこに”エホバの証人”の宗教勧誘の女性が訪ねてきて、ハンガーは彼女を向かい入れるや否や、襲いかかって鋭い歯で彼女の胸に噛みつき、ハラワタを引きずり出して殺してしまうのです。
ザ・ジョンはポン引きのリロイに復讐を企てているのですが、売春婦(リロイの仲間)に裏切られて、リロイに拉致されて、拷問を受けることになります。意識を失った状態で放置されてしまうのですが、膣洗浄器を見張りの女性の鼻に突っ込み、なんとか逃げ出すのです。
その頃、ゴミ処理場の同僚のフィル(アラスティア・ギャンブル)は、ラッセルとハンガーに薬で意識を失わせて、サンタクロースのコスプレ衣装で強姦しています。ラッセルは普通にアナルを犯されるのですが、ハンガーは人工肛門を脇腹につけており、フィルは”あえて”便が漏れ出してくる人工肛門を犯すのですから・・・正気で観ていられません!その後、犯されたことに気づいたラッセルとハンガーは、ゴミ処理場でフィルを殺害して復讐を果たすのです。
ラッセルはゴミ処理場のオフィスで働くニコル(キャンディス・レワルド)に歪んだ思いを抱えていて、ニコルの使用済みタンポンでお茶を嗜んだりしています。ハンガーによって薬で意識を失わされたニコルを事務所で発見したラッセルは、ニコルの股間からタンポンを抜き取り持ち帰るのです。気を失ったままのニコルは、リロイに見つかり犯されてしまいます。意識を戻したニコルに、リロイはラッセルを誘い出すように脅迫・・・のこのこ現れたラッセルを、リロイはニコルのタンポンを口に詰めて殺してしまうのです。
ゴミ処理場でフィルの頭部だけを発見したリロイの前に、ザ・ジョンがいきなり現れて、二人は銃で相討ちして死んでしまいます。そして、ハンガーとニコルは、このゴミ溜めから何とか逃げ出すのです。コミ処理場を舞台に、登場人物全員がモラルが欠如した”クソ人間”で・・・同情も共感もできない衝撃的な内容で、個人的には、ライアン・ニコルソン監督作品ベストワンと言えるかもしれません。
これら初期三作品は、映画としては稚拙さは目立つものの・・・「血みどろスプラッター好き」「下ネタ悪趣味」「80年代オマージュ」が、”好きモノには好き”な世界観を貫いていており、ライアン・ニコルソンは(映画監督としての技術は???だけど)際立つ”作家性”の持ち主なのであります!
ライアン・ニコルソン監督のフィルモグラフィー
2004 トーチド(原題)/Touched(ビデオ中編)
2006 ライブ・フィード(原題)/Live Feed
2008 悪魔の毒々ボウリング/Gutterballs
2009 ハンガー(原題)/Hanger
2010 スター・ヴィエクル(原題)/Star Vehicle a.k.a Bleading Lady
2011 ファミン(原題)/Famine a.k.a. Detention Night
2013 デッド・ヌード・ガールズ(原題)/Dead Nude Girls(中編)
2014 カラー(原題)/Collar
2015 ガーターボールズ2(原題)/Gutterballs 2: Balls Deep
「ライブ・フィード(原題)」
原題/Live Feed
2006年/カナダ
監督/脚本/製作 : ライアン・ニコルソン
出演 : ケヴァン・オーツジ、タアイラ・マーケル、ステファン・チャング、コリン・フー、グレッグ・チャン、ロブ・スカッターグッド、キャロライン・チョニャッキ、アシュレー・スチャッパート、リー・ティション、マイク・ベネット、グレッグ・チャン、コリン・フー、テッド・フレンド
日本未公開
「悪魔の毒々ボウリング」
原題/Gutterballs
2008年/カナダ
監督/脚本/製作 : ライアン・ニコルソン
出演 : ダン・エリス、アラスティア・ギャンブル、ミホーラ・タージック、ネイサン・ホワイト、キャンディス・レワルド、トレヴァー・ジェンマ、ネイサン・ダッシュウッド、ワデ・ギブ、ジミー・ブライス、ジェレミー・ビランド、ダニエル・ムンロ、サラフィナ・バードュー、スコット・アロンゾ、ステファニー・スチャッター
日本劇場未公開、レンタルDVD
「ハンガー(原題)」
原題/Hanger
2009年/カナダ
監督/脚本/製作 : ライアン・ニコルソン
出演 : デビー・ローシャン、ダン・エリス、ネイサン・ダッシュウッド、ロナルド・パトリック・トンプソン、ロイド・カフマン、ワデ・ギブ、アラスティア・ギャンブル、キャンディス・レワルド
日本未公開