2014/07/19

ドラァグクィーンがNext America's Drag Super Starを競うリアリティー番組・・・RuPaul(ル・ポール)の歴史とドラァグクィーンの楽しみ方~「ル・ポールのドラァグレース/RuPaul's Drag Race」~



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この記事はドラァグクィーンの文化を誰よりも愛していた親友ティムシー・ルース/Timothy Luce(
2009年没)に捧げます。

1:「ル・ポールのドラァグレース」の概要

2009年からアメリカのケーブルテレビチャンネル「LOGO TV」(LGBTの視聴者向けチャンネル)で放送されている「ル・ポールのドラァグレース/RuPaul's Drag Race」は、Next America's Drag Super Star(ネクスト・アメリカズ・ドラァグ・スーパースター)を発掘すバトル形式のリアリティー番組であります。

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「ル・ポールのドラァグレース」オープニングタイトル

「ネクスト・アメリカズ・ドラァグ・スーパースター」と銘打っているところから、ファッションモデル発掘のリアリティー番組「アメリカン・ネクスト・トップモデル/America's Next Top Model」をパクったように思えるかもしれませんが・・・バトル部分のチャレンジはファッションデザイナー発掘のリアリティー番組「プロジェクト・ランウェイ/Project Runway」に近いかもしれません。直線コースを一気に走る「Drag Race/ドラッグレース」にかけていることから分かるように、番組内でもレーシング用語が決め文句として使われたり、アシスタントの男性モデルを「Pit Crew/ピットクリュー」(レース場の整備員)と呼んだりしています。

すでにシーズン7(2015年放映予定)の制作も発表されており、現在までに「オールスターズ」(シーズン1~4より選出)を含めて7つのシーズンが放映されています。(そのうちシーズン2~5までがアマゾンUSにてオンデマンドDVDを購入可能)さらにドラァグ・クィーンが女性をメイクオーバーしてバトルするスピンオフのリアリティー番組「RuPaul's Drag U」(シーズン3まで放映/2010~12年)も制作されました。また、イギリスBBCの人気司会者のJonathan Ross(ジョナサン・ロス)氏がイギリス版「ドラァグレース」の制作権利を獲得したということなので、イギリス版が放映されるのも遠い日ではないようです。ただ、イギリス版にRuPaul(ル・ポール)が出演するかは現時点では未定らしいです。

2:ドラァグクィーンとは?

「ドラァグクィーン/Drag Queen」とは、女性特有の「グラマーさ」や「セクシーさ」を強調したヘアスタイル、メイクアップ、ドレスを、見せるために着飾っている人のこと・・・性別(性同一障害、性転換も含む)や性的嗜好は無関係と言われています。ハッキリと区別する必要があるのは、女性として「パス」することを目的にして女装をする人たち・・・派手な衣装ではなく地味なワンピースやアンサンブルを好み、化粧も薄めで、完成度の個人差は大きいかったりするのです。性同一障害者(Transsexual)やフェチズムのクロスドレッサー(Cross Dresser)の中には「どう見ても男」だったりしてしまうのは、個人的な満足感を得るための「女装」だからかもしれません。

ビジネスで女装するパフォーマー(Female Inpersonater)は、モノマネやコメディアンとしての「女装」なので、実生活ではストレートの男性ということもあります。世界的に最も有名なのはオーストラリア出身のコメディアン・Barry Humphries(バリー・ハンフリーズ)が演じるDame Edna Evarage(デイム・エドナ・エヴァレイジ)でしょう。日本だったら・・・荒川ばってん?(古いけど)でしょうか。

自ら「ドラァグクィーン」を名乗るのは、殆どが「ゲイ男性」・・・ゲイ・カルチャーの中で成熟させてきた「ドラァグクィーンならではの化粧技術やファッションセンス」「ドラァグクィーン特有のスラングやフレーズ」「ドラァグクィーン好みのスター、映画、音楽」などを知ることで、より”ドラァグクィーン”の世界というのは楽しめるものなのです。

3:ル・ポールの歴史

「ル・ポールのドラァグレース」の司会、審査員長、アドバイザーの3役を務めるRuPaul(ル・ポール)は、1980年代初頭から活動を続けるアメリカのドラァグクィーン・・・御歳54歳でありながら圧倒的な美貌、エンターテイメント業界で30年以上生き抜いてきた経験値、敬虔なクリスチャン(?)でバランス感覚の優れた人格者であります。

1960年11月17日にカリフォルニア州のサンディエゴで生まれたル・ポール・アンドレ・チャールズことRuPaul(ル・ポール)・・・両親の離婚後、母親とアトランタへ引っ越します。後に親友となるThe "Lady" Bunny(レディー・バニー)とは、1982年頃(ル・ポール21歳、レディー・バニー19歳の頃?)に出会い、アトランタとニューヨークでルームメイトだったこともあるほどの仲良し。1984年ニューヨークで開催された「第5回ニューミュージックセミナー/New Music Seminar」に参加した頃から、RuPaul(ル・ポール)何度もニューヨークとアトランタの間で引っ越しを繰り返して・・・1987年頃ニューヨークに落ち着いたようです。(ただ、その後はロサンジェルスとニューヨークを行き来?)

ボクが初めてRuPaul(ル・ポール)のパフォーマンスを見たのは、1987年に行なわれた第3回「Wigstock/ウィッグストック」・・・「Star Booty/スター・ブーティー」というモヒカンの女性スパイのキャラクターで、音楽活動や自主映画に出演していた頃のことです。2メートル以上(ハイヒールを含む)の長身で繰り広げられたパフォーマンスと愛に超ポジティブなメッセージは、キャンプ(Camp)テイストの強いイーストヴィレッジのクラブ/アート系ドラァグクィーンや、ハリウッド女優のモノマネをするビューティーコンテストタイプとは、別次元の「エンターテイナー」としての片鱗を見せつけたのです。

1986年/オリジナル版「スターブーティー」全編

当時、RuPaul(ル・ポール)友人だったNelson Sullivan(ネルソン・サリバン)氏によって撮影された動画は、ル・ポールの下積み時代というだけでなく・・・1980年代半ばのニューヨークのクラブシーンや、当時のドラァグクィーンの日常(?)の貴重な記録と言えるでしょう。

1984年/ダンステリアの楽屋にて

1985年/ピラミッドクラブにて

1986年/アトランタでのパフォーマンス

1987年/ピラミッドクラブにて

1988年/ゴーゴーダンスを語るル・ポール

1985年、The "Lady" Bunny(レディー・バニー)によってオーガナイズされた「ウィッグストック」は当初、イーストヴィレッジのピラミッドクラブなどで活動するパフォーマーたち・・・John Sex(ジョン・セックス)、Tabboo!(タブー!)、Hapi Phace(ハッピーフェース)、Wendy Wild(ウェンディ・ワイルド)Sister Dimention(シスター・ディメンション)、Ethel Eichelberger(エセル・エッチェルバーガー)、John Kelly(ジョン・ケリー)、Flloyd(フロイド) らによる”クラブシーン”色の濃い「ミュージックフェスティバル」でした。


その後・・・RuPaul(ル・ポール)、Lypsinka(リップシンカ)、Joey Arias(ジョージ・アイリス)、Candis Cayne(キャンディス・ケイン)、Perfidia(パフィディア)、Misstress Formika(ミストレス・フォーマイカ)、Lahoma Van Zandit(ラホマ・ヴァン=ザンディット)、Mona Foote(モナ・フット)、Linda Simpson(リンダ・シンプソン)らの参加により、ドラァグクィーンのフェスティバルとしての知名度を確立していったような気がします。1995年のドキュメンタリー映画「Wigstock The Movie/ウィッグストック・ザ・ムービー」で、1990年代前半の「ウィッグストック」の会場の雰囲気を感じることができるかもしれません。

現在でもニューヨークのドラァグクィーンの第一人者として人気を誇るThe "Lady" Bunny(レディー・バニー)は、ダスティ・スピリングフィールドのパロディのようなキャラ、派手なサイケデリックファッション、頭の数倍あるような巨大なウィッグ(かつら)で、ドラァグクィーンの”アイコン”となっています。自虐的、かつ、天然ボケと下ネタ満載の話術”は、毒舌/辛口を売りにしていたドラァグパフォーマンスとは違う「愛されキャラ」を確立しました。RuPaul(ル・ポール)は、The "Lady" Bunny(レディー・バニー)が開拓した路線を継承しながらも、歌って、踊れて、MCを努められる総合的なエンターテイナーとして、ゲイクラブシーンを飛び出していく次世代のドラァグクィーンとなっていくのです。

レディーバニーのトリビュートビデオ

当時(1980年代末期)はイーストヴィレッジのカルチャーがメジャー化していった時代・・・The B-52'sが大ブレークをしていました。(ル・ポールもプロモーションビデオに出演)同時期にイーストヴィレッジのクラブシーンで活動していた後輩「ディー・ライト/Deee-Lite」にメジャーデビューの先を越されたもの・・・1993年、RuPaul(ル・ポール)は「Supermodel (You Better Work/スーパーモデル(ユー・ベター・ワーク)」でメジャーデビューを果たして大ヒットさせます。「Back to My Roots/バック・トゥ・マイ・ルーツ」「A Shade Shady (Now Parance)/ア・シェイド・シェイディー(ナウ・プランス)」「House of Love/ハウス・オブ・ラブ」などもクラブダンスチャートでヒット・・・当時、人気スターがこぞって出演した深夜のトークショー番組「Arsenio Hall Show/アーセニオ・ホール・ショー」で、一躍全米の知名度を獲得したのです。

ル・ポール「スーパーモデル」

1996~98年には、VH1(音楽専門のケーブルテレビチャンネル)で「The RuPaul Show/ザ・ル・ポール・ショー」というトーク番組を持つまでになり、ダイアナ・ロス、シェール、デボラ・ハリー、パット・ベネター、オリビア.ニュートン=ジョン、タミー・フェイ、バーナデット・ピーターズ、ディオンヌ・ワーウィック、シンディー・ローパー、リンダ・ブレア、リンダ・カーターなど、蒼々たるゲストが出演しました。

しかし、その後、RuPaul(ル・ポール)のキャリアは若干、低迷気味・・・アトランタ時代に演じていたキャラクターをリメイクした2007年の低予算映画「Starrbooty/スターブーティー」(Mike Ruiz/マイク・ルイズ監督)は、いくつかのゲイ&レズビアン映画祭で上映されただけで、DVD版リリースもRuPaul(ル・ポール)の自主レーベルから発売されたため、今ではプレミア化しています。

2007年版「スターブーティー」映画予告編

4:「ル・ポールのドラァグレース」番組フォーマット

さて、長~い前置き(?)になってしまいましたが・・・ここから本筋です。

バトル形式のリアリティー番組としては、かなり後発となる「ル・ポールのドラァグレース」でありますが・・・後発だからこそ番組の「フォーマット」の完成度は高いと言えます。「アメリカン・ネクスト・トップモデル/America's Next Top Model」と「プロジェクト・ランウェイ/Project Runway」と同様に、さまざまな”チャレンジ”で競い合い、毎週ひとりの候補者が落選していき、最終的に優勝者を決定するというシステムなのですが・・・番組開始以降、基本的な番組の進行も大きな変わっていません。

まず番組は、男性の姿で出場者たちがワークルームに集合するところからスタートします。(最初のエピソードのみ、全出場者がドラァグクィーンの姿で登場)そこに司会のRuPaul(ル・ポール)から「SHE MAIL」(eメールにかけている)届いて、その回の「ミニ・チャレンジ」のヒントが伝えられます。そして、男性の姿のRuPaul(ル・ポール)がワークルームに登場して「ミニ・チャレンジ」が行なわれるという流れです。番組の冒頭、候補者もRuPaul(ル・ポール)も男性の姿というところが大切な「ミソ」でありまして・・・メイクアップ、かつら、コスチュームによって、各出場者がどれほど劇的に変貌するかを強調しているかのように思いのです。

20~30分程度の「ミニ・チャレンジ」は、工作をするようなチャレンジから、ダンス、モデル、クイズ、スポーツなどあるのですが・・・「ミニ・チャレンジ」で勝者となることで、メイン・チャレンジを有利に奨めることができる”特典”が与えられます。例えば、個々にテーマが与えられる「メイン・チャレンジ」の場合、どのテーマを各候補者に与えるかの決定権・・・グループに分かれて行なわれる「メイン・チャレンジ」の場合は、勝者二人がグループリーダーとなって自分のグループのメンバーを順番に選んでいける権利となるわけです。終盤になっていくと、家族(または友人や彼氏)に電話する権利ということもあります。いずれにしても「ミニ・チャレンジ」の勝者の判断次第で、各出場者にとって「メイン・チャレンジ」の難易度が大きく変わることもあるので、必然的に出場者たちの関係はギスギスとしていくのです!

「ミニ・チャレンジ」で”アシスタント”として登場するのが「Pit Crew/ピット・クリュー」の男性モデル・・・RuPaul(ル・ポール)が個人的(!)にオーディション(シーズン3)で選んだJason Carter(ジェイソン・カーター)と、バート・レイノルズを彷彿させるShawn Morales(ショーン・モラレス)二人がブリーフ姿で務めるというのが見所です。シーズン6からは、さらに二人を加えて計4人の「Pit Crew/ピット・クリュー」が、殺伐とした(?)ドラァグクィーン同士のバトルに花を添えています。「ミニ・チャレンジ」終了後「メイン・チャレンジ」の準備にかかる出場者たちへのRuPaul(ル・ポール)の決まり文句が・・・「Start your engine, and don't fuck it up!」(エンジンを踏み込んで・・・しくじるんじゃないわよ!)であります。


「メイン・チャレンジ」で求められることは、さらにレベルの高いタスクになっていきます。多くのチャレンジは二つのパートに分けれていて、最初の「チャレンジ・パート」は・・・ゴミ箱から拾った素材でクチュールっぽい衣装を作成するとか、シチュエーションコメディやコマーシャルで演技をするとか、モノマネをしてゲームショーの出演者を演じるとか、ドラァグクィーンの姿で路上の見知らぬ人に難題をお願いするとか、アスリートのノンケ男性をドラァグクィーンに仕立てるとか、女性政治家に扮して政治的なスピーチをするなど、単に「キレイに着飾ること」だけではありません。演技力、お笑いのセンス、ダンスの才能、裁縫などのドレス作成技術、モノマネの完成度、かつらをセットする技術、メイクのテクニックなど、審査される能力の範囲は、どのバトル形式のリアリティー番組よりも広い範囲になっていると言っていいでしょう。そして、もっとも重要なのは、各チャレンジの意図を理解して、自分の個性を表現することなのかもしれません。

「メイン・チャレンジ」に向けて出場者たちが作業中、RuPaul(ル・ポール)はワークルームを再び訪問してアドバイスをします。「プロジェクト・ランウェイ」でのティム・ガン氏の役割もRuPaul(ル・ポール)が担っているわけですが・・・出場者それぞれのパーソナリティーを考慮しながら、的確なアドバイスをしていく手腕は見事であります。また、ここの場面で見えてくるのが、ワークルーム内での出場者同士の確執・・・そして、徐々に化粧をして、男性の姿からドラァグクィーンに変貌していく過程です。

「メイン・チャレンジ」の次のパートは、RuPaul(ル・ポール)らの審査員たちの前で行なわれる「ランウェイ・パート」・・・まず、RuPaul(ル・ポール)が、ドラァグクィーンのドレス姿で登場します。ここでのRuPaul(ル・ポール)の美貌は圧倒的・・・すべての出場者を凌駕してしまうほど完璧です。審査員を紹介後、いよいよ「ランウェイ・パート」となるわけですが、ここでのRuPaul(ル・ポール)の決まり文句は・・・「Let the best woman win!」(最高の女性に勝利を!)であります。

出場者たちは、与えられたテーマのスタイルで、ランウェイウォークを見せることになるのですが・・・ここで着用するコスチュームは持ち込みしている市販のドレスの時もあれば、テーマによっては与えられた生地やトリミングでデコレーションを施したり、時には生地からコスチューム全部を作成しなければならない時もあるのです。与えられている期日が1~2日程度ということを考慮すると、「プロジェクト・ランウェイ」以上に過酷なタスクと言えるでしょう。

12人~14人の出場者からスタートして、毎週ひとりずつ落選していくわけですが・・・「メイン・チャレンジ」の「ランウェイ・パート」の後、落選候補として「ふたり」が残されます。そして、その「ふたり」が「Lip Sync for your life/リップ・シンク・フォー・ユア・ライフ」で競い合い、審査員長のRuPaul(ル・ポール)の独断により、その回の落伍者が決定するのです。リップ・シンクとは、歌に合わせて口パクで踊るドラァグクィーンならではのパフォーマンス。”命がけ”という表現がピッタリの戦いとなるわけで・・・番組に生き残るために、必死にリップ・シンクをするというエキサイティング、かつ、時には感動的なドラマを生み出す番組の頂点であります。アメリカのドラァグ・クィーンならば知っているべき選曲ばかり・・・否が応でもドラマティックで過剰なパフォーマンスが期待できるのです。

リップシンク・フォー・ユア・ライフ

「リップ・シンク・フォー・ユア・ライフ」の後、RuPaul(ル・ポール)から落伍者と居残る者が伝えられるわけですが・・・ここでの決まり文句が「Sahay Away/サシェイ・アウェイ」「Shate, you stay/シャンテ・ユー・ステイ」であります。「Sashay, Shante」は、RuPaul(ル・ポール)が下積み時代から使ってきた造語のキャッチフレーズ・・・「Sashay,」はモデルがカッコつけて歩いているような雰囲気、「Shante」は美しくポーズを決めているよな雰囲気というイメージでしょうか?正確な意味というのはなく、音触りの良さがポイントなのです。

番組の最後は、生き残った出場者が一同に並んでエンディングとなるのですが、ここでのRuPaul(ル・ポール)の決まり文句は・・・「If you don't love yourself, how the hell you gonna love somebody else!」(自分を愛せないければ、誰も愛せやしないわよ!)と言った後、まるで伝道師のように「Can I get Amen!」(アーメンをちょうだい!)と唱えて”締める”のです。キリスト教を前提としない日本人からすると、ちょっと違和感さえ感じさせるところはありますが・・・「ル・ポールのドラァグレース」を”ファミリー番組”と冗談まじりに例えるRuPaul(ル・ポール)なので、胡散臭いクリスチャンファミリー番組のパロディのつもりなのかもしれません。

最終的に3人まで(例外もあり?)絞り込み・・・その3人が「Next America's Drag Super Star/ネクスト・アメリカズ・ドラァグ・スーパースター」のクラウンを競うことになるのですが、最後の「メイン・チャレンジ」は、RuPaul(ル・ポール)の新曲プロモーションビデオへの出演・・・ここではダンスの才能、演技力が重要となります。そして「ランウェイ・パート」の後、最終選考をふたりに絞り(例外あり)最後の「Lip Sync for your life/リップ・シンク・フォー・ユア・ライフ」で競い合い・・・「Next America's Drag Super Star/ネクスト・アメリカズ・ドラァグ・スーパースター」が決定するのです。

番組開始当初、優勝賞金は2万5000ドルでしたが、今では10万ドルとなり、副賞には化粧品やクルーズ旅行と豪華になっています。さらに、優勝者だけでなく、番組の候補者たちは全米を「Battle of the season」と名付けられたドラァグクィーンのショーで営業するキャストになることができるのです。また、多くの出場者は、アーティストとしてデビューしたり、化粧品会社の契約モデルになるなど、エンターテイメント業界で番組出演後も活躍をしています。

シーズン4からは「Next America's Drag Super Star/ネクスト・アメリカズ・ドラァグ・スーパースター」の発表はシーズンエピソードの最終回ではなく・・・観客を入れた会場で行なわれる「Reunion/リユニオン」(番組放映後の同窓会)で、大々的に発表というスタイルになっています。この変更は理にかなっていて・・・最後の最後まで結果が分からないという”お楽しみ”を引っ張るだけでなく、インターネットを通じて視聴者からの意見も反映することができるわけです。また、観客の前で繰り広げられる裏舞台での暴露合戦にも、より緊張感が生まれています。

5:タイプ別のドラァグクィーン

バトル形式のリアリティー番組の面白さは、チャレンジの出来不出来”だけ”ではありません。他の番組と同様・・・居残れば居残るほど長期にわたる閉鎖された過酷な状況(家族や友人への連絡は禁じられている場合も多い)での、出場者同士の不仲、確執、嫉妬、妬み、喧嘩などが、視聴者の興味を惹きつけるのです。ドラァグクィーンは、男性的な要素(好戦的な態度)と女性的な要素(策士的な頭脳)を兼ね備えているところがあるので、数人が集まったら確執が生まれるのは火を見るより明かなこと・・・また、アメリカのドラァグクィーンにはいくつかのタイプがあり、それぞれがお互いのタイプを牽制して認め合わないので、トラブルが起こるのは必然と言えるでしょう。

ルックスの美貌とリアルネスを追求する「ビューティーコンテスト(ページェント)タイプ」は、フロリダ州やテキサス州などアメリカ南部に比較的多く、本物の女性以上に美しい(とは言っても体格はそれなりに男性的?)のが強みです。比較的、年齢的に若いドラァグクィーンであることが多く、若さと美貌を武器に普段チヤホヤされているせいか、性格的にわがまま放題、基本的に自己チューで、本番組ではトラブルメーカーになりがち・・・他の出場者から真っ先に嫌われることが多いタイプでもあります。


ドラァグクィーンのショーで舞台に立つ「プロフェッショナルタイプ」は、モノマネが得意だったり、歌が上手かったり、コメディアンとしてのセンスが優れていたり、パフォーマーとしての完成度が高いのが特徴です。「Old School/オールドスクール」と呼ばれるドラァグクィーンの伝統を継承し、キャリアも積んできているので、年齢的にも高めだったりします。ただ、ドラァグクィーンに必要な技術に長けているし、豊富な人生経験によって人望も厚く、本番組では出場者たちの精神的な支えとなっていく”キーパーソン”となることが多かったりします。


貧しい地区で育った「ゲトー(貧民街)タイプ」は、家出少年や親に捨てられた少年たちであることが殆どです。生きるためにドラァグクィーン(男娼として働くことも)になっている場合もあり、女性のフリをして男性客を欺くという・・ドラァグクィーンの悪いステレオタイプの原因になってきたことは否めません。年長者のドラァグ・クィーンを”ドラァグ・マザー”とするドラァグ・ファミリー=ハウスに所属していることが多く、同じハウスのメンバーは同じファミリーネームを名乗のることを週刊としていましたが、現在では、ハウスの存在意義もサバイバルのためというよりも、仲間意識の強化が目的となってきているかもしれません。


日本のオネエタレントの「ダイアナ・エクストラバガンザ」や「ナジャ・グランディーバ」は、ドラァグ・ファミリーを真似て命名した芸名でしょう。この「ゲトータイプ」の厳しい現実については「Vouguing/ヴォーギング」を競う「Ball/ボール」を描いたドキュメンタリー映画「Paris is Burnig/パリス・イズ・バーニング」で赤裸々に記録されています。

ステレオタイプのドラァグクィーンではなく・・・個性的であることを目指す「アートタイプ」は、ニューヨーク、シカゴ、サンフランシスコなどゲイクラブが細分化している大都市に存在することが多いようです。いわゆるドラァグクィーン好みの”ゴージャス系”ではなく”アヴァンギャルド系”のファッションを嗜好して「メイン・チャレンジの「ランウェイ・パート」のコスチュームも、テーマの解釈が独特で、リスクを負うことを恐れない独自性を追求していきます。しかし、ある種、攻撃的(?)な外見に反して、化粧を落とした素顔は、ナイーブで繊細な青年(?)であることが多いようです。イジメられっ子として悲惨な少年時代を送った場合あり・・・他のタイプのドラァグクィーンからは「バケモノ」扱いされたり、「変人」「コミック(お笑い系)」とバカにされ‰ウなど、番組内でも”イジメられっ子”的なポジションに追い込まれることが多かったりします。


6:ドラァグクィーンの楽しみ方

ドラァグクィーンの名前も”お楽しみ”のひとつ・・・出場者たちは番組内では(男性の姿でいる時も)本名ではなく、ドラァグネームが使われます。典型的なドラァグネームのひとつは「名前だけ」のドラァグネームでありまして・・・多くの場合、音の響きによってつけられていています。「Raven/レイヴン」「Jujubee/ジュジュビー」「Raja/ラジャ」「Willam/ウィラム」、すでにある言葉をもじった「Detox/デトックス」、ブランド名のスペルを変えた「Shannel/シャーネル」、何故か地名を名前にしてしまった「Alaska/アラスカ」「Milan/ミラノ」などがあり・・・ファッションモデル的で、どこかしらエキゾチックな雰囲気を漂わせます。

ファーストネームとラストネームを組み合わせた「Carmen Carrera/カルメン・カレラ」「Jessica Wild/ジェシカ・ワイルド」「Tyra Sanchez/タイラ・サンチェス」「Ivy Winters/アイヴィー・ウィンターズ」などは、いかにもストリップダンサーにありそうな名前だったりします。「Pandora Boxx/パンドラ・ボックス」「Jinkx Monsoon/ジンクス・モンスーン」などは、二つの言葉の意味を掛け合わせるというのも、ドラァグクィーンらしい捻りの効いたセンスです。「Latrice Royale/ラトリース・ロイエール」のように、ゴージャスっぽいネーミングは、まさに伝統的なドラァグクィーンらしさを感じさせます。

「Sharon Needles/シャロン・ニードルズ」「Honey Mahogany/ハニー・マホガニー」「Nina Flowers/ニナ・フラワーズ」「Rebecca Glasscock/レベッカ・グラスコック」などは、女性のファーストネームにドラァグクィーンらしい嘘っぽいラストネームを加えることで、独自の世界観を表現しているかのようです。「Sahara Devenport/サハラ・デヴンポート」「Manila Luzon/マニラ・ルゾン」などは、イメージで言葉を並べています。「Phi Phi O'Hara/フィフィ・オハラ」「Coutoney Act/コートニー・アクト」「Delta Work/デルタ・ワーク」などは、有名人の名前を拝借して、イメージを掻き立てるのに役立っています。「Chad Michaels/チャッド・マイケルズ」のように、希に本名がドラァグクィーンっぽいこともあるようですが・・・一般的にドラァグネームは、ドラァグクィーンのアイデンティティーというだけでなく、如何にジョークにできるかというところも決め手となるので、なかなか奥深いものがあります。

舞台裏でのドラァグクィーン同士の戦いも見逃せません・・・ということで、第4シーズンからはスピンオフエピソード「Untcked/アンタックド」という番組も同時に制作されるようになっています。これは「メイン・チャレンジ」の「ランウェイ・パート」の後、出場者達が控え室(ゴールドルームとシルバールームがある)で審査を待っている間の様子を撮影したものなのですが・・・もうすぐ誰かが落選するという緊張感の中、必ずと言って良いほど喧嘩が始まるのです。さらに、RuPaul(ル・ポール)からのメッセージを託した「Pink Box/ピンクボックス」がプレゼントされて、時には意図的に喧嘩の種を提供したりするのですから・・・番組制作側も結構意地悪。時には、出場者の家族、恋人からのビデオレターなどを紹介する時もあり、お涙頂戴の演出となることもあります、なんだかんだで、”シスター”として出場者同士の絆を強めることにも、貢献しているようです。

ドラァグクィーン特有のスラングを理解することは「ル・ポールのドラァグレース」を楽しむためには必要なことかもしれません。「Read/リード」=相手の弱点を指摘すること。明らかな欠点を指摘するのではなく、皮肉とユーモアでキツイひと言というのが、上手な「リード」です。このスラングから「Put your reading glasses. Liberaly is open」(リーディング眼鏡をかけて!図書館が開館しま〜す」というような言い方をすることもあります。「Shade/シェイド」=侮辱のひとつの形で、リードすることによって「being shady」となるのです。「No Shade」は、侮辱し合うのではないということ・・・「What's the tea/ワッツ・ザ・ティー」=「本音(真実)は何?」と腹を割って話し合う時によく使われます。

「Tuck/タック」「Untuck/アンタック」=男性器を股に押し込むことが「タック」で、それを元に戻すことが「アンタック」と言います。小さめの下着の着用やマスキングテープの使用によって、男性器の竿部分と玉部分の両方を股(下から後ろ?)に押し込んで、女性のような平坦な股間にするのです。アソコのサイズ次第では、それなりの苦痛を伴うようですが・・・レオタードやビキニのような股間がピッタリした衣装の時には「タック」することは絶対的に必要な作業であります。

何でも大袈裟に表現するのがドラァグクィーン・・・形容詞の最上級には事欠きません。「Eleganza Extravaganza/エレガンザ・エクストラバガンザ」=「エレガンス」の最上級。「fierce!/フィアス!」=「上出来」の最上級。「Sick"ning/シックニング」=「素晴らしい」の最上級。一昔前ならば・・・なんでもかんでも「Fabulous!/ファビュラス!」と表現されていましたが・・・現在では、死語(?)に近いかもしれません。形容詞の使い方は、良くも悪くも、世代がバレることがあるのです。

女性”らしさ”を表現している女装を「Realness/リアルネス」と言いますが・・・ドラァグクィーンの「リアルネス」は、本物の女性として「パス」することが目的ではありません。あくまでも、ドラァグクィーン的なステレオタイプの”女性像”を強調しているということ・・・「1950年代サントロペのリゾートスタイル」とか「パークアヴェニューのランチョンスタイル」とか、ほぼ「妄想」と「思い込み」に近い世界観だったりします。反対語として言われるのが「Fantasy/ファンタジー」・・・こちらは「パリコレモデルのスーパーガール」とか「エジプトのミイラのグラマーに生き返った」とか、アリエナイ設定のスタイルのことです。

「Honey/ハニー」というのは一般的にパートナーなど(愛する人)を呼ぶ時に使われます。逆に、女性に対して侮辱的な罵倒する呼び名として使われるが「Cunt/カント」(女性器の意)・・・そこで、仲の良いドラァグクィーン同士は「ハニー」と「カント」を合成して「Hunty/ハンティー」と呼び合います。ドラァグクィーンの多くは「ゲイ男性」・・・化粧を落とした時、男性として魅力的なドラァグクィーンのことは「Trade/トレード」と呼びます。ハンサムな男性が必ず美しいドラァグクィーンになるわけではありませんが・・・多くのドラァグクィーンは日常生活は男性の姿で過ごしていることが多いので、男としても魅力的というのは、さまざまなケースでアドバンテージがあるのかもしれません。そして、ドラァグクィーン同士でセックスすることは「Kai Kai/カイカイ」と言って、ちょっとした秘事・・・一般的にドラァグクィーンは、より男性的な男性を求めることが多いので、ドラァグクィーンの間で肉体関係が発生することは、滅多にありません。ただ、希に”似た者同士”でくっついてしまうこともあり・・・このような場合、パートナー同士で化粧品、かつら、衣装、補正下着などを貸し借りできるという利点はあるでしょう。

7:「ル・ポールのドラァグレース」の意義

「ル・ポールのドラァグレース」の出場者はドラァグクィーンの中でも、一筋縄ではいかない強者揃い・・・エピソード1で全出場者が揃った時点では、正直、誰にもシンパシーを感じられません。しかし、エピソードを重ねていくうちに・・・化粧、かつら、衣装の下に潜んでいる”素”の人間性が垣間見えてきて、ひとりひとりの出場者が愛しくなってきてしまうのです。まんまと演出にハマってしまっているということですが・・・リアリティー番組の神髄は、その演出が多少意図的であったとしても、出場者の人間らしい”素”の弱い部分に視聴者が共感してしまうところなわけで、「ル・ポールのドラァグレース」はバトル系リアリティー番組として、これ以上ないほど正統派であると言えるでしょう。

RuPaul(ル・ポール)は、出場者すべての「ドラァグ・マザー」的存在として、また、ドラァグクィーンの「ローモデル」として、「ル・ポールのドラァグレース」という番組を背負っています。番組内で繰り返し使われる音楽のすべてはRuPaul(ル・ポール)の曲の一部ですし、チャレンジで使用することのできるパンプスなどもRuPaul(ル・ポール)プロデュースによるものだし、番組内のルールもRuPaul(ル・ポール)の気持ちひとつで変更可能と、まさにRuPaul(ル・ポール)カラー一色なのです。

古い友人を大切にすることで知られているRuPaul(ル・ポール)は、本番組に多くの友人をスタッフやキャストに配しています。審査員のミッシェル・ヴィサージュとサンティノ・ライスとは、20年以上の付き合いらしいですし、RuPaul(ル・ポール)のヘア&メイクを担当するMathu(マヒュー)、コスチューム担当ののZaldy(ザルディー)らとも、メジャーデビュー以前からの付き合いだそうです。番組内で出演するカメラマンのMike Ruiz(マイク・ルイズ)にしても、ダンスの振り付け師のCandis Cayne(キャンディス・ケイン)にしても、古い友人・・・また、最近その存在を公言したオーストラリア人のボーイフレンド/パートナーのGeorge LeBer(ジョージ・レバー)とは20年来の仲であります。「ル・ポールのドラァグレース」という番組は、RuPaul(ル・ポール)に集められた長年の友人たちに支えられているのです。

RuPaul(ル・ポール)にとって、深夜のテレビトークショー番組「アセニオ・ホール・ショー」に出演することは、大きな節目となるようです。約20年前、ブレイクのきっかけになった出演時には、ド派手なドラァグクィーンの姿でしたが...今年の出演の際には、あえて男性の姿で登場しました。ドラァグクィーンのRuPaul(ル・ポール)と男性タレントとしてのRuPaul(ル・ポール)を使い分けるというのも、RuPaul(ル・ポール)らしい選択と言えるでしょう。

2014年/アセニオ・ホール・ショー

現在、世界中のドラァグクィーンの中でも、圧倒的な美貌を誇るRuPaul(ル・ポール)でありますが・・・ドラァグクィーンとしての自己表現というエゴや、ナルシシズムの自己満足というのは一切感じさない器の大きい人格者であります。「ギャラ貰わないとドラァグクィーンにはならない!」と冗談めいて公言していますが・・・これは、ドラァグクィーンを真面目にとらえ過ぎていないバランス感覚に富んだ発想を持っているからに他なりません。また、外見的な完璧さを求める努力とプロフェッショナリズムの照れ隠しかもしれません。ドラァグクィーンというのは、ゲイカルチャーが長年愛おしんできた文化を、モザイクのように集めた”パロディ”芸術であることを、誰よりも理解して体現しているのがRuPaul(ル・ポール)だと、ボクは思うのです。

RuPaul(ル・ポール)という”ひとりの人間”の人生の集大成と言える「ル・ポールのドラァグレース」でありますが、RuPaul(ル・ポール)自身の再ブレイクを果たしただけでなく・・・”ドラァグクィーン”という存在への理解と認知度を高めることに貢献し、ドラァグ・カルチャーを全米のメインストリームに浸透させ続けている画期的な番組といっても過言ではありません。

オネエタレントが当たり前のようにテレビで毎日のように観られる日本で、ぜひ「ル・ポールのドラァグレース」を放映して欲しいと思います。スラングの翻訳など敷居は決して低くはありませんが・・・英語が堪能らしいミッツ・マングローブが解説するというのは、どうでしょう?できれば・・・マイナーなケーブルチャンネルとかではなく(フジテレビの有料配信のNEXTチャンネルで、シーズン1が放映されていたことがあるらしい)地方局(テレビ東京とか、東京MXで?)のプライムタイムで、実現して欲しいものです!

「ル・ポールのドラァグレース」
原題/RuPaul's Drag Race
2009年よりLOGO TVにて放映
出演 : ル・ポール・チャールズ、ミッシェル・ヴィサージュ、サンティノ・ライス、ビリーB



Tim,

Every time I watch "RuPaul's Drag race," I think of you and wonder how much you would have loved the show.


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