何かを訴えようとする志の高い(?)映画だけでなく・・・スラップスティックコメディであっても、エログロのトラウマ映画でも、何らかの感動、または不快感を生み出して、どこかしら観客の心を動かすところがないと、観るに絶えない”つまらない映画”と評価を下されてしまいがちです。「この映画って何が言いたいの?」というのは、多くの場合、褒め言葉ではありません。
何だかよく分からないのに、何故か、何度でも見たくなってしまう・・・ボクの”お気に入り”の一作となったのが、殆ど予備知識もない状態で観た「Sightseers/サイトシアーズ(原題)=ツーリスト/観光客と同義語」。”あの”エドガー・ライト(「ショーン・オブ・ザ・デッド」「ホットファズ~俺たちスーパーポリスメン」「スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団」)がプロデューサーに名を連ね、クールなバイオレンス映画の「キル・リスト」を監督したベン・ウィートリーによる最新作のブリティッシュコメディ映画であります。
カップルがイギリスの田舎をキャンピングカーで旅をするというロードムービーなのですが・・・まず、主人公のカップルの二人がイケてなさ過ぎ。ティナ(アリス・ロウ)は、ビターな性格の母親と小さな町で暮らしをしている34歳の女・・・付き合い始めて3ヶ月になる恋人のクリス(スティーブ・オラム)は、ティナに「俺の世界を見せやりたい!」とか、「君はボクのミューズ!」とか、ほざいている”さえない中年男で自称(?)ライター。約1年ほど前に、唯一の友達として可愛がっていた愛犬を失った(ティナがソファに置きっぱなしにしていた編み物棒に誤って突き刺さって死んじゃった!)母親は、いまだに落ち込んでいるのですが・・・ティナは一週間の予定でヨークシャー地方へ、クリスの執筆の取材を兼ねた旅行に出かけようとしています。
奇妙な依存関係にある母と娘でありますから、勿論のこと母親はクリスを”信用出来ない男”だと毛嫌いしていて、旅行にも大反対・・・なんだかんだで、この旅行は二人にとっては”エッチやり放題”目的の旅行であることは、母親にもバレているようです。だからこそ、罵声を浴びせる(!)母親を振り切ってティナはクリスとキャンピングカーで旅立ってしまうわけですが・・・このタイトルシーンで流れるのが「Taited Love」(Marc Almond姐さんの”Soft Cell”バージョン!)というもの、この先の皮肉な展開を予感させているかもしれません。
最初に立ち寄った「トラム(路面電車)博物館」で、アイスクリームの包み紙を捨てる男の客に遭遇したクリスは、すぐさま注意するのですが、その男は注意を無視しただけでなく、中指を立てるサインまでしてきて、その後もゴミを施設内でまき散らします。彼の大好きなトラム博物館を汚すマナーの悪い奴なんて許せない・・・という苛立ちを抱えながら出発しようとしたところ、その男が偶然にもキャンピングカーの背後に。クリスはうっかりを装おって(?)その男をバック運転でひき殺してしまうのです。タイヤで踏みつぶされた男の顔や腕は、見事にグッチャリ・・・スプラッター映画に匹敵するほど悪趣味な描写でありながら、あっさりと見せてしまうセンスは、とことん”ドライ”であります。
パニックになるティナを慰めながらも、ニヤリと微笑むクリス・・・これは、故意だったのです。結局、警察では事故と処理されて、二人はあっさりと解放されるのですが・・・その後、トラックドライバーの休憩所近くに駐車して、覗き見されることも気にせずに激しくエッチに興じます。殺人によって、性的にも興奮しちゃうって・・・ヤバいです。これをきっかけに、ある種の”歯止め”が効かなくなった二人は、イギリスの美しい田舎を旅しながら、彼らたちに関わる人々を次々と殺害していくことになっていくのであります。最初の殺人は(ゴミを捨てたからといって殺していいという正当性はありませんが)非常識な相手ではありました・・・しかし、その後は自分勝手な理由で、次々と普通の人々を殺していくのです。
キャンピングカーで旅している夫婦の旦那を石で殴り殺した上に彼の飼っている犬(偶然にもティナが殺してしまった犬にそっくり!)と一眼レフカメラを奪い・・・遺跡で犬のウンチ処理をしなかったことを注意してきた男を撲殺しサンドイッチを盗み・・・田舎のパブでクリスにちょっかいを出してきた結婚間近の女を崖の上から突き飛ばし・・・車を止める時に路肩を走っていたランナーをひき殺し・・・キャンピング用の自転車を開発した旅行者を崖から突き落とし・・・と、スプラッター映画並みに死体がゴロゴロです。
しかし、ティナとクリスは、シリアルキラーのキチガイとして描かれるわけでもなく、ボニー&クライドのようなアンチヒーロー的な破天荒っぷりさもありません。妙にスピルチュアルになったり、エコ問題には敏感だったり・・・結局、人間は他者に対して、タカが外れてしまうと冷酷になってしまうものなのか・・・と、笑いは凍りつきそうになります。しかし、ロードムービーにありがちな登場人物の人間的な成長や、説教じみた教訓もなく、淡々と人を殺す以外は(!)ちょっとオフビートなセンスを持った変わり者のカップルとして描いているに過ぎないのです。
キャンピング用の自転車を一緒にビジネスにしようとクリスが仲良くなった男性(最後に殺される)にセクハラされたと訴えるティナ・・・それはクリスの気を引くための切ない乙女な嫉妬なのですが、その嘘の内容が”ウンコプレー”という意味のない下品っぷりにドン引きであります。「人の死」と「下品なジョーク」を横並びにしてしまう不謹慎さは、とてつもなく”ブラック”です。
ここからネタバレを含みます。
こんな二人が、呑気にティナの実家に帰宅して終わるわけはないだろう・・・と思っていたら、旅の最終地点となる古い橋まで来たところで、キャンピングカーをガソリンをかけて燃やしてしまいます。そう・・・旅の終わりというのは、二人にとっての死に場所だったのです。ティナとクリスは古い橋の上から飛び降り心中をするために、橋に登ります。結構、唐突な展開なのですが・・・さらに驚きの”どんでん返し”を迎えて、再び「Taited Love」(今度はオリジナルのGloria Jonesバージョン!)が流れて、いきなり映画は終わります。正直いって「この映画って何だったの?」という呆然とさせられてしまうエンディング・・・「これこそ男と女の違い!」という解釈もできるのかもしれませんが、登ってきた脚立がすっと外されたような感じなのです。
とっちらかしの伏線を見事につなげていくハリウッドのコメディ映画や、最後には涙ホロリとさせる邦画のコメディ映画とは違う本作の、共感にも感動にも意味のないシュールさは「ワハハハ」ではなく「ヒーヒーヒー」という”引きつり笑い”しかできないボクの笑いのツボにピッタリとハマったのであります。
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