ファッションデザインに関わっていた者としては、現代アートで洋服の引用される際に気になっていたことはありました。
実際に着る服として作られてなく、概念としての洋服を引用としているためか、ファッション/服作りの観点からすると完成度の低い服であることが多いような気がしていたのです。
それでも、アーティストの意図は十分伝わることが多いのですが、単に服作りに関して無知な部分というのはアーティストの意図とは無関係というケースもあると思えるのです。
ブルックリン美術館で展覧会の行われている「Yinka Shonibare MBE 展」は、ファッションの引用という形をとったアートとしては、稀にみるほどファッション/服作りの完成度の高い作品群を発表しているアーティストです。
イギリス生まれのナイジェリア人というエスニックのバックグラウンドを持つ彼の作品の殆どは、アフリカンプリントのテキスタイルを使用しています。
我々にも馴染のある、このアフリカンプリントというのは、実はアフリカから生まれたテキスタイルでもなく、アフリカで生産されているテキスタイルでもありません。
アフリカを植民地化していた時代に、オランダの会社が植民地にしていたインドネシアのテキスタイル技術(バティークプリント)を利用して、アフリカ輸出向けに特別にデザインして生産しアフリカの人達に売りつけた、植民地から摂取する経済戦略でもあり、アイデンティティーさえ奪う政治的戦略の賜物だったのです。
そして、現在でもこれらのテキスタイルは(現在では主に)イギリスで生産されて、アフリカへ輸入されています。
Yinka Shonibare MBE(インカ・ショニバーレ・MBE)は、シャネルなどのロゴをあしらったオリジナルのアフリカンプリントのテキスタイル生地で、ビクトリアン時代の衣装を緻密に再現し、ファイバーグラス製のマネキン(首なし)に着せた彫刻作品を多く発表しています。
それらは、西洋絵画や西洋史にあるようなシーンを再現するという、幾重にも引用を重ねた作品です。
また、彼自身が衣装を着て、西洋史や西洋文学の白人男性のキャラクターになりすましている写真作品もあります。
植民地搾取の産物であり、アフリカ系の人達のアイデンティティーとして存在しているアフリカンプリントのテキスタイル生地で作られたビクトリアンスタイルの衣装は、アーティスト自身のバックグラウンドとアフリカが経験した不幸な歴史を感じさせると同時に、植民地であったアフリカと搾取をしてきたヨーロッパの立場を逆転したような妙な印象さえ与えます。
衣装が、ビクトリアンスタイルに忠実であれば、あるほど、そのアイロニーが二重、三重にも際立ってくるのです。
パターンや縫製の技術によって服としての完成度が高いことが、アーティーストの意図と連動している「アート」→「ファッション」として見事に成功している作品でした。
Yinka Shonibare MBE
Brooklyn Museum,
Morris A. and Meyer Schaporp Wing, 4th Floor
Period Rooms, 4th Floor
Robert E. Blum Gallery, 1st Floor
200 Eastern Parkway, Brooklyn
2009年9月20日まで