映画作品の”リメイク”というのは、昔から行なわれていたこと。”リメイク”されるということは、元となる作品に人気があるからですが、オリジナルを超えることは稀です。ドラマをミュージカル化するとか、時代設定を現代にするとか、オリジナルとは”別物”としてリメイクされれば、新たな作品として成功することもあるのですが「何故リメイクするの?」という作品もよくあったりします。
「ロッキー・ホラー・ショー」は、カルト映画の中でも有名な作品のひとつ。ロンドン舞台版のキャストをそのまま起用して、1975年に映画化されましたが、公開時はそれほどヒットしなかったそうです。その後、ニューヨークやロサンジェルスのミッドナイト上映で人気を博して「カルトムービー」を代表する作品となります。映画上映中にお約束のツッコミを入れたり、画面の中に登場するモノ(お米、新聞紙、ライター、紙吹雪など)を使用したりするのは、今でいう”応援上映”(?)のルーツと言えるのかもしれません。また、キャラクターと同じ”コスプレ”をして、スクリーンの前で映像と同時進行で演じる”シャドウキャスト”は、初公開から40年以上経った今でも世界各国で行なわれています。
「ロッキー・ホラー・ショー:タイムワープ・アゲイン/ The Rocky Horror Picture Show : Let's Do the Time Wrap Again 」は、アメリカのFOXテレビにて放映されたテレビ映画で、監督を務めたのは元々振り付け師のケニー・オルテガ・・・ドキュメンタリー映画「マイケル・ジャクソン THIS IS IT」の監督を務めたことで知られていますが、ライブコンサートの演出家としてはさておき、映画監督としては「どうなの?」という人”では”あります。
オリジナル版の「ロッキー・ホラー・ショー」は、フランクン・フルター博士を演じたティム・カリーの出世作です。スパンコールのコルセットとガーターベルトに厚底のハイヒール、毒々しい化粧の女装姿は、一度観たら忘れられない強烈なインパクトです。リメイク版では、このフランクン・フルター博士役を「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」に出演しているアフリカ系トランスジェンダー(性転換手術済み)のラヴァーン・コックスが演じています。
フランクン・フルター博士は、女装趣味のある(マッチョ好きでかなりゲイ寄りの)バイセクシャルの男性という設定で、良くも悪くも悪趣味で、外見的にも男性と分かる程度のクオリティの低い(?)女装ということろが、愛すべきポイントだと(ボク個人的には)思っているのですが、本作でフランクン・フルター博士を演じるラヴァーン・コックスは、豊満な胸の谷間をもつ「女性」・・・声の低さや体格の大きさから「元男性」であることを推測する人も多いとは思いますが、アフリカ系の男性と女性の外見的性差が、他の人種と比較すると少なめ(?)ということもあり、女装趣味の男性ではなく、単に大柄な女性に見えてしまうかもしれません。
フランクン・フルター博士を演じる俳優が「”白人=アングロサクソン系”でならなければならない」とは全く思いませんが・・・博士が理想の男性とする人造人間のロッキーは(歌詞にもあるように)”ブロンドで日焼けしたマッチョマン”なのですから、違和感が全くないかというとビミョーなところであります。さらに、リフ・ラフ(リーブ・カーニー/アングロサクソン系)の”妹”であるマジェンタを演じるのは、ヒスパニック系のクリスティーナ・ミリアン・・・エディ(アダム・ランバート/アングロサクソン系&ユダヤ系)の叔父であるスコット博士は、アフリカ系ベン・ヴァリーンによって演じられているのです。”ポリティカリー・コレクトネス”の観点では、演じる俳優の人種と役柄の設定は”無関係”とするべきなのかもしれませんが、シャドウキャスト公演、または、舞台ならまだしも、テレビ映画としては少々無茶な印象は否めません。
「ロッキー・ホラー・ショー」は、1930年代から1950年代のサイエンス・フィクション、モンスター、ミュージカルに数々のオマージュを捧げています。しかし、残念ながら多くの視聴者には、それらの”元ネタ”を知らないかもしれません。リメイク版のオープニング曲(Rocky Horror Picture Show Science Fiction Double Feture)では、シャドウキャスト公演や舞台版と同様に”案内嬢”(アイビー・レバン)が、歌詞にでてくる映画のポスター(「キングコング」「地球が静止した日」「透明人間」「禁断の惑星」など)の前で歌うことで、親切な(?)説明となっています。
「タイムワープ」で登場する”トランスベニアン”たちは、オリジナル版では”奇人変人”としかいいようのない摩訶不思議なキャスティング(デブ、ノッポ、チビ、老人など)と、お揃いの黒い燕尾服姿により(良い意味で)時代性を意識させませんでした。しかし、リメイク版では衣装と振り付けが今風(?)に変更されています。また「タイムワープ」の直後、フルター博士の登場シーンに於いては、オリジナル版はエレベーターを巧みに使うことにより、登場の”サプライズ”を演出されていたのですが・・・リメイク版ではフルター博士は撮影用(?)クレーンに乗ってゆっくりと現れる上に、そもそも後ろの壁にはフルター博士の肖像画が飾られているために”サプライズ”がありません。
エキスパート(犯罪学者)が物語を解説するという”メタ構造”をもっている「ロッキー・ホラー・ショー」・・・リメイク版では本編を映画館の観客が観ているという、さらなる”メタ構造”となっているのです。2012年に脳梗塞により車椅子生活で言語障害を抱えている御年70歳のティム・カリーが、本作ではエキスパート役で起用されていることには胸がいっぱいになります。ティム・カリーがエキパート役でスクリーンに登場するやいなや、大騒ぎになる画面の中にいる映画館の観客たちは、本作をテレビで観ている視聴者と同じ立場(オリジナル版を知っていてリメイク版を観ている)ということになるわけであります。カルト映画であることが”前提”でのリメイク版で、オリジナル版”ありき”の”メタ構造”というわけです。
アメリカ絵画の「アメリカンゴシック」、B級のSF映画で知られていた「RKOピクチャー映画会社シンボルタワー」、トランスベニア星人としてマジェンタが登場するときの髪型の「フランケンシュタインの花嫁」、など、オリジナル版で随所に散りばめられていたオマージュの数々は、リメイク版では何故かスルー・・・逆(?)に、フルター博士がゴム手袋を引っ張るとか、スコット博士がいきなりカメラに向かって話しかけるとか、些細なギャグはしっかりと踏襲されていたりして、オリジナルへのリスペクト度合いが少々不可解。なんだかんだで、カルト映画の”お約束”だけを拝借している印象になのです。
古くは1980年の映画「フェーム」から近年では「Glee」のセカンドシーズンでフィーチャーされて、新たな世代にも浸透している「ロッキー・ホラー・ショー」をリメイクするというのは、無謀なチャレンジではあります。劇場用映画ではなくテレビ映画ではありますが、オリジナル版よりもプロダクションの規模も大きくなっていますし、出演しているキャストたちも、そこそこ良い仕事をしていると思うのですが・・・ケニー・オルテガ監督によるリメイク版は、まったくの”別物”として突き抜けているわけでもなく、といって・・・オリジナル版への愛に満ち溢れているようにも特に感じられません。
「キング・オブ・カルトムービー」を甦えらせるのであれば、オリジナル版に忠実なシャドウキャストのライブの方が、(そのようなスペシャル番組は過去にありますが)素直に”リスペクト”が感じられたのではなかったでしょうか?
「ロッキー・ホラー・ショー:タイムワープ・アゲイン」
原題/ The Rocky Horror Picture Show : Let's Do the Time Wrap Again
2016年/アメリカ
監督 : ケニー・オルテガ
出演 : ラヴァーン・コックス、ヴィクトリア・ジャスティス、ライアン・マッカータン、アナリー・アッシュフォード、アダム・ランバート、リーブ・カーニー、クリスティーナ・ミリアン、アイビー・レバン、スタッズ・ナール、ベン・ヴァリーン、ジェーン・イーストウッド、ティム・カリー