まず、2002年の引退時期に合わせたかのように発表されたデビット・テブール(David Teboul)監督による2本のドキュメンタリー映画があります。「Yves Saint Laurent: His Life and Times」は、インタビューと過去の映像を取り混ぜた・・・唯一のイブ・サンローラン生前に作られたドキュメンタリー映画です。サンローラン本人が自身のホモセクシャリティについて語るだけでなく、サンローランの母親に息子のホモセクシャリティに関して質問するという突っ込んだ内容でした。「Yves Saint Laurent: 5 Avenue Marceau 75116 Paris」は、最後のオートクチュールコレクションの製作過程に密着したドキュメンタリー・・・精気に欠けたイヴ・サンローランの姿には痛々しいところもあり、それを含めて貴重な映像と言えるかもしれません。
そして、ドキュメンタリー映画「イヴ・サンローラン/L'Amour Fou」から数年・・・去年、今年と続けてイヴ・サンローランを描いた”劇映画”が2本「イヴ・サンローラン/Yves Saint Laurent」と「サンローラン/Saint Laurent」が製作されているのです。
先に公開されたジャリル・レスペール(Jalil Lespert)監督による「イヴ・サンローラン/Yves Saint Laurent」は、イヴ・サンローラン財団とピエール・ベルジェの全面的な協力を得て作られた・・・いわば「公式」な伝記映画であります。実際のイヴ・サンローランの仕事場やファッションショー会場で撮影を行い、ファッションショーで使用された衣装は特別に財団により保存されている”オリジナル”という「本物」にこだわる徹底ぶり・・・さらに、若き日のイヴ・サンローランに生き写しのピエール・ニネによる完璧なモノマネ演技より、伝記映画としては隙がありません。
2009年からアメリカのケーブルテレビチャンネル「LOGO TV」(LGBTの視聴者向けチャンネル)で放送されている「ル・ポールのドラァグレース/RuPaul's Drag Race」は、Next America's Drag Super Star(ネクスト・アメリカズ・ドラァグ・スーパースター)を発掘するバトル形式のリアリティー番組であります。
「ル・ポールのドラァグレース」オープニングタイトル
「ネクスト・アメリカズ・ドラァグ・スーパースター」と銘打っているところから、ファッションモデル発掘のリアリティー番組「アメリカン・ネクスト・トップモデル/America's Next Top Model」をパクったように思えるかもしれませんが・・・バトル部分のチャレンジはファッションデザイナー発掘のリアリティー番組「プロジェクト・ランウェイ/Project Runway」に近いかもしれません。直線コースを一気に走る「Drag Race/ドラッグレース」にかけていることから分かるように、番組内でもレーシング用語が決め文句として使われたり、アシスタントの男性モデルを「Pit Crew/ピットクリュー」(レース場の整備員)と呼んだりしています。
1960年11月17日にカリフォルニア州のサンディエゴで生まれたル・ポール・アンドレ・チャールズことRuPaul(ル・ポール)は、両親の離婚後、母親とアトランタへ引っ越して、そこで少年時代を過ごします。後に親友となるThe "Lady" Bunny(レディー・バニー)とは、1982年頃(ル・ポール21歳、レディー・バニー19歳の頃?)に出会い、アトランタとニューヨークでルームメイトだったこともあるほどの仲良し。1984年ニューヨークで開催された「第5回ニューミュージックセミナー/New Music Seminar」に参加した頃から、RuPaul(ル・ポール)は何度もニューヨークとアトランタの間で引っ越しを繰り返して・・・1987年頃、ニューヨークに落ち着いたようです。(ただ、その後はロサンジェルスとニューヨークを行き来しているらしい)
当時(1980年代末期)はイーストヴィレッジのカルチャーがメインストリームに受け入れられて、世界的にメジャー化していった時代・・・分かりやすいところでは、The B-52'sが大ブレークをしていました。(ル・ポールもプロモーションビデオに出演)同時期にイーストヴィレッジのクラブシーンで活動していた後輩「ディー・ライト/Deee-Lite」にメジャーデビューの先を越されたもの・・・1993年、RuPaul(ル・ポール)も「Supermodel (You Better Work/スーパーモデル(ユー・ベター・ワーク)」でメジャーデビューして大ヒットさせます。「Back to My Roots/バック・トゥ・マイ・ルーツ」「A Shade Shady (Now Parance)/ア・シェイド・シェイディー(ナウ・プランス)」「House of Love/ハウス・オブ・ラブ」などの続く楽曲もクラブダンスチャートでヒット・・・当時、人気スターがこぞって出演した深夜のトークショー番組「Arsenio Hall Show/アーセニオ・ホール・ショー」で、一躍全米の知名度を獲得したのです。
バトル形式のリアリティー番組としては、かなり後発となる「ル・ポールのドラァグレース」でありますが・・・後発だからこそ番組の「フォーマット」の完成度は高いと言えます。「アメリカン・ネクスト・トップモデル/America's Next Top Model」と「プロジェクト・ランウェイ/Project Runway」と同様に、さまざまな”チャレンジ”で競い合い、毎週ひとりの候補者が落選していき、最終的に優勝者を決定するというシステムなのですが、番組開始以降、基本的な番組の進行も大きな変わっていません。
「ミニ・チャレンジ」で”アシスタント”として登場するのが「Pit Crew/ピット・クリュー」の男性モデル・・・RuPaul(ル・ポール)が個人的(!)にオーディション(シーズン3)で選んだJason Carter(ジェイソン・カーター)と、バート・レイノルズを彷彿させるShawn Morales(ショーン・モラレス)二人がブリーフ姿で務めるというのが見所です。シーズン6からは、さらに二人を加えて計4人の「Pit Crew/ピット・クリュー」が、殺伐とした(?)ドラァグクィーン同士のバトルに花を添えています。「ミニ・チャレンジ」終了後「メイン・チャレンジ」の準備にかかる出場者たちへのRuPaul(ル・ポール)の決まり文句が・・・「Start your engine, and don't fuck it up!」(エンジンをを吹かせて・・・しくじるんじゃないわよ!)であります。
「メイン・チャレンジ」の次のパートは、RuPaul(ル・ポール)らの審査員たちの前で行なわれる「ランウェイ・パート」・・・まず、RuPaul(ル・ポール)が、ドラァグクィーンのドレス姿で登場します。ここでのRuPaul(ル・ポール)の美貌は圧倒的・・・すべての出場者を凌駕してしまうほど完璧です。審査員を紹介後、いよいよ「ランウェイ・パート」となるわけですが、ここでのRuPaul(ル・ポール)の決まり文句は・・・「Let the best woman win!」(最高の女性に勝利を!)であります。
12人~14人の出場者からスタートして、毎週ひとりずつ落選していくわけですが・・・「メイン・チャレンジ」の「ランウェイ・パート」の後、落選候補として「ふたり」が残されます。そして、その「ふたり」が「Lip Sync for your life/リップ・シンク・フォー・ユア・ライフ」=「命がけの口パク対決」で競い合い、審査員長のRuPaul(ル・ポール)の独断により、落伍者が決定するのです。リップ・シンクとは、歌に合わせて口パクで踊るドラァグクィーンならではのパフォーマンス。”命がけ”という表現がピッタリの戦いとなるわけで・・・番組に生き残るために、必死にリップ・シンクをするというエキサイティング、かつ、時には感動的なドラマを生み出す番組の頂点であります。アメリカのドラァグ・クィーンならば知っているべき選曲ばかり・・・否が応でもドラマティックで過剰なパフォーマンスが期待できるのです。
「リップ・シンク・フォー・ユア・ライフ」の後、RuPaul(ル・ポール)から落伍者と居残る者が伝えられるわけですが・・・ここでの決まり文句が「Sahay Away/サシェイ・アウェイ=去りなさい」「Shate, you stay/シャンテ・ユー・ステイ=残りなさい」であります。「Sashay, Shante」は、RuPaul(ル・ポール)が下積み時代から使ってきた造語のキャッチフレーズ・・・「Sashay」はモデルが颯爽とランウェイを歩くような雰囲気、「Shante」はモデルが決めポーズをしているようなニュアンスでしょうか?明確な意味というのはなく、音触りの良さがポイントです。
番組の最後は、生き残った出場者が一同に並んでエンディングとなるのですが、ここでのRuPaul(ル・ポール)の決まり文句は・・・「If you don't love yourself, how the hell you gonna love somebody else!」(自分を愛せないければ、誰も愛せやしないわよ!)と言った後、まるでクリスチャンの伝道師が共感を求めるように「Can I get Amen!」(アーメンをちょうだい!=賛同を頂戴)と唱えて”締める”のです。キリスト教を前提としない日本人からすると、ちょっと違和感さえ感じさせるところはありますが・・・「ル・ポールのドラァグレース」を”ファミリー番組”と冗談まじりに例えるRuPaul(ル・ポール)なので、胡散臭いクリスチャン番組のパロディなのかもしれません。
最終的に3人まで(例外もあり?)絞り込み・・・その3人が「Next America's Drag Super Star/ネクスト・アメリカズ・ドラァグ・スーパースター」のクラウンを競うことになるのですが、最後の「メイン・チャレンジ」は、RuPaul(ル・ポール)の新曲プロモーションビデオへの出演・・・ここではダンスの才能、演技力が重要となります。そして「ランウェイ・パート」の後、最終選考をふたりに絞り(例外あり)最後の「Lip Sync for your life/リップ・シンク・フォー・ユア・ライフ」で競い合い・・・「Next America's Drag Super Star/ネクスト・アメリカズ・ドラァグ・スーパースター」が決定するのです。
番組開始当初、優勝賞金は2万5000ドルでしたが、今では10万ドル(約1000万円!)となり、副賞には化粧品やクルーズ旅行と豪華になっています。さらに、優勝者だけでなく、番組の候補者たちは全米を「Battle of the season」と名付けられたドラァグクィーンのショーで営業するキャストになることができるのです。また、多くの出場者は、アーティストとしてデビューしたり、化粧品会社の契約モデルになるなど、エンターテイメント業界で番組出演後も活躍をしています。
シーズン4からは「Next America's Drag Super Star/ネクスト・アメリカズ・ドラァグ・スーパースター」の発表の最終回は、スタジオ収録ではなく・・・観客を入れた会場で行なわれる「Reunion/リユニオン」(番組放映後の同窓会)で、大々的に発表というスタイルになっています。この変更は理にかなっていて・・・最後の最後まで結果が分からないという”お楽しみ”を引っ張るだけでなく、インターネットを通じて視聴者からの意見も反映することができるわけです。また、観客の前で繰り広げられる裏舞台での暴露合戦にも、より緊張感が生まれています。
日本のオネエタレントの「ダイアナ・エクストラバガンザ」や「ナジャ・グランディーバ」は、ドラァグ・ファミリーのネームを拝借して(?)命名された芸名でしょう。この「ゲトータイプ」の厳しい現実については「Vouguing/ヴォーギング」を競う「Ball/ボール」を描いた1990年のドキュメンタリー映画「Paris is Burnig/パリ、夜は眠らない」で赤裸々に記録されています。
ドラァグクィーン特有のスラングを理解することは「ル・ポールのドラァグレース」を楽しむためには必要なことかもしれません。「Read/リード」=相手の弱点を指摘すること。明らかな欠点を指摘するのではなく、皮肉とユーモアでキツイひと言というのが、上手な「リード」です。このスラングから「Put your reading glasses. Liberaly is open」(リーディング眼鏡をかけてちょうだい!図書館が開館するわよぉ〜」というような言い方をします。「Shade/シェイド」=侮辱のひとつの形で、リードすることによって「being shady/ビーイング・シェイディ−」という状態になるです。「No Shade/ノー・シェイド」は、侮辱し合わないこと・・・「What's the T/ワッツ・ザ・ティー」=「本音(真実)は何なの?」と腹を割って話し合う時によく使われます。
ホラー映画というのは、比較的続編、もしくはシリーズ化されやすいジャンルです。前作「ウルフ・クリーク/猟奇殺人谷」は日本では製作から4年経って(2009年)DVDスルーという扱いをされていた作品で、続編となる「ミック・テイラー史上最強の追跡者/Wolf Creek 2」は、前作から実に8年ぶりになります。ボクは前作をアメリカ版DVD発売直後(2006年ぐらい?)に購入して、何も情報を知らないまま観て・・・『オーストラリア版「悪魔のいけにえ」だ~!』と、かなりツボにハマったのですが、その後、日本で劇場公開されるという話を耳にすることもなく、すっかり忘れかけていたのです。