日本では、それほどポピュラーな映画のジャンルないんだけど、アメリカでは盛んに制作されているのが「男性向け恋愛映画」・・・といっても、ブロンドのおねえちゃんが脱ぐだけのセクシー映画というのではなく、男性目線で楽しめる恋愛映画というのでもなく、恋愛下手な男性に「どのように恋愛したら良いのか」をレクチャーするような映画であります。
いつまでも大人になりきれず男同士でつるんでばかりいる男性が、親友(バディ)たちとの友情から卒業して、女性を伴侶として選択して成熟した大人の男へと成長していくというのが王道のパターンであります。下品なエロ満載なのは、あくまでも男性客相手だから。「無ケーカクの命中男/ノックドアップ」「40歳の童貞男」「40男のバージンロード」や、グレッグ・モットーラ監督作品の「スーパーバッド 童貞ウォーズ」「アドベンチャーランドへようこそ」などが、この手のジャンルの作品としてあてはまるかもしれません。
「テッド/ted」は、ネタバレ気味に”ひと言”で言ってしまうば・・・主人公のジョン(マーク・ウォールバーグ)が、親友のテディベアのテッド(声/セス・マクファーレン)とのバディの関係を卒業して、4年間付き合ってきた恋人ロニー(ミラ・クニス)を人生の伴侶として選んで大人の男に成長するお話。日本では「世界一ダメなテディベア」というコピーで、テッドの可愛らしさを前面に押した宣伝をしていますが・・・うっかりデートで観に行ったりしたら、後悔してしまいそうなほど、実はかなりのブラックジョークと下品な下ネタ満載の一作であります。
いじめられっ子で友達のいなかったジョンが、クリスマスプレゼントに受け取ったテディベアのテッドが、永遠の友達になるように祈ったところ、魂が宿ってしまうというというファンタジーな設定であるのですが・・・27年後(ジョンが35歳)には、テディベアのテッドも同じように年を取って”おっさん”になっているのであります。このテディベアのテッドというキャラクターの立ち位置は「宇宙人ポール」のポールっぽい感じで・・・ボクの観た”アンレーテッド・バージョン”は、その過激さが一線を越えていて頭を抱えてしまいそうになることもしばしばでありました。見た目は”かわいらしいテディベア”でありながら、内面はどうしようもない”エロ親父”と化したテッドは、ある意味、反則的にチャーミングであります。
本作が、あくまでも「男性向け恋愛映画」なのは・・・ジョンの恋人のロニーにしても、スーパーマーケットのアルバイト先で知り合ったレジ係のテッドのガールフレンドのタミ・リン(ジェシカ・バース)にしても、男にとって都合のいい女としてしか描かれていないところであります。まぁ・・・スーパーマーケットの倉庫で下着を足首まで下ろして、テディベアとエッチしてしまうようなタミ・リンに、リアルな女性像を求めることが、所詮、無理なことなのかもしれませんが。また、マーク・ウォールバーグが、元”いじらめられっ子”で、いまだに「フラッシュゴードン」に夢中な”オタク”というのも、正直ハマっていない感じ・・・なにはともあれ、テッドの可愛らしさと下品さが、本作の魅力を担っている作品であることには間違いありません。
それにしても、なんで繰り返し繰り返し、男同士のバディから卒業して、人生の伴侶として女性を選ぶことで、一人前の男になる・・・というアメリカ映画って多いのでしょう?そこには、ウーマンリブの先進国でありながら、レディーファーストの習慣も生き残っている、アメリカ独特の、ある洗脳を感じてしまうのです。
ハイスクールの最後のイベントとなる「プロム」というダンスパーティーは、男子が女子を誘うのが通例でありまして、これは将来のために女性をどのようにエスコートするかを男子に習得させるためと言われております。プロポースは男性が女性の前で跪き、バレンタインズデーには男性から女性へプレゼントをして食事に招待するというのが、いまだに常識・・・どれほど女性が社会的、経済的、肉体的にも強い時代になったとしても、表面上(?)は男性に主導権を与えるような習慣を洗脳している文化なのです。
ただ、そのような洗脳の仕組みの中でも落ちこぼれてしまうのが、近年増えてきた「オタク」っぽい男の存在であります。趣味に没頭したり、男同士でつるんで遊ぶことにしか興味のない・・・大人になりきれていない男性に対して、人生の伴侶となる真のパートナーは男友達ではなくて女性であると、潜在意識に擦り込んでいるような気がしてならないのです・・・。
「テッド」
原題/ted
2012年/アメリカ
監督 : セス・マクファーレン
出演 : マーク・ウォールバーグ、ミラ・クニス、セス・マクファーレン(テッドの声)、ジョバンニ・リピシ、ジェシカ・パース、サム・J・ジョーンズ(本人)、ノラ・ジョーンズ(本人)
2013年1月18日より日本劇場公開