25年ほど昔、アートスクールでペインティングなんて勉強していたものだから、芸術として写真をリスペクトできない時期がありました。
当時は「アーティストは自分の手で何かを創造することである!」と思い込んでいたので「すでに存在している被写体」を撮影するだけの写真は、ファインアート(絵画、彫刻はどの純粋芸術)の格下だと決めつけていたのでした。
写真の「記録」と「表現」という、ふたつの軸をクリエティブな作業として興味深く感じるようになったのは、自ら写真を撮るようになってからかもしれません。
デーシレー・ドルロン(Desiree Dolron)は「芸術写真」を発表するアムステルダムの写真家です。
残念ながら、彼女の実物の写真作品は見たことはありません。
しかし、彼女の作品集からだけでも、彼女の写真作品の持つ「密度」を感じられるほど完成されています。
ひとつのテーマを時間をかけて取り組むという姿勢のために、1991年から現在まで4つのシリーズしか発表していません。
「撮影」「デジタル加工」「紙の選択」「写真印刷」という行程の”クラフト”にこだわるために作品数が少ないようです。
1991年から1999年に制作された「EXALATION」は宗教と死の関係性を捉えたセピアの写真のシリーズには、宗教儀式に恍惚となっている猟奇的な時間が凝縮されています。
1996年から1998年に製作された「GAZE」はガーゼを透かしたようなソフトフォーカスの写真シリーズで、夢のような恍惚感に包まれています。
2002年から2003年に製作された「TE DI TODOS MIS SUENOS」は、キューバの社会主義のユートピアと実生活を対比させた政治的な写真シリーズですが、流れを止めてしまったような時間を感じさせます。
彼女の最高傑作と思われるのは、2001年から2005年に制作された「XTERIOS」でしょう。
中世絵画のような構図に特徴があり、ハーマンズホイの絵のような静かな空間とフェルメールのような光を思い起こさせます。
写真では「空気感」と言いますが、デーシレー・ドルロンの写真は見る者が息を止めてしまうほどの濃密な空気と時間を表現しています。
それは被写体の「呼吸感」を感じられるほどです。
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