元ケネディ大統領夫人、ジャクリーン・ケネディ・オナシスの姪と伯母にあたるイーディス・ブーヴィエ・ビールとリトル・エディ母娘の、イーストハンプトン(ニューヨーク郊外の高級避暑地)での生活を追ったドキュメンタリー映画「グレイ・ガーデンズ」が公開されたのは1975年のことでした。
上流階級の夫人でありながらショービジネスに憧れた結果、妻の座を追われたイーディスと、その娘リトル・エディは「グレイ・ガーデンズ」と呼ばれた大邸宅に信託基金を切り崩しながら、閉じられたふたりの世界で生きていたのです。
バサバサの髪をしていても、ボロ布をスカートとして身に付けていても、上流階級独特のアクセント、詩的な言い回し、上品な身振りを備えた母娘から、ハイソサエティの気品が滲み出ていたことは奇妙な感銘を与えました。
また「過去と現在」「現実と幻想」を揺れ動く母娘の意識は、狂気というよりも落ちぶれても上流階級らしさを持ち続ける強ささえ感じさせました。
ゲイの間で「グレイ・ガーデンズ」はカルトフィルムとしてたいへん人気があり、カリスマ的な人気を博したブーヴィエ母娘(特にリトル・エディ)でしたが、ジャクリーンの一族の汚名を消そうとする努力もあり1990年代には忘れられた存在になっていきました。
ジャクリーン死後、2006年にブロードウェイミュージカルとして甦ったことをきっかけに、ドキュメンタリー映画の再編集版が公開されたり、ヴォーグ誌などでリトル・エディの着こなしを真似たボロルックを特集したり、HBOゲーブルテレビでドラマ化されたり・・・と、アメリカでは以前にも増して脚光を浴びることになったのです。
アメリカのようなブーヴィエ母娘の知名度がまったくない日本で、ミュージカル「グレイ・ガーデンズ」が日本人キャストで上演されることに最初驚きましたが、主演が大竹しのぶと知って見逃せない舞台であると確信しました。
舞台では1940年代の豊かな生活を一幕目で、その後の1970年代に落ちぶれた姿を二幕目で描きます。
日本人が演じるというバタ臭いミュージカル独特の不自然さに、開演数十分は戸惑いは感じましたが、段々と慣れました。
大竹しのぶは一幕目で母、二幕目では娘という難しい二役を怪演していたのですが、庶民的な雰囲気を払拭することは出来ず、ビーヴィエ母娘の”気品”を感じさせるには至っていなかった気がします。
二幕目で母を演じた草笛光子は、ボロボロの衣装とヘアでも”気品”を感じさせていたのは、さすがでした。
ミュージカル版は変わり者の母と母に依存し続ける娘との葛藤の物語として、分かり易く描き過ぎている印象はありましたが、実際に本人たちの言った言葉の引用がちりばめられていて、オリジナルのドキュメンタリー映画をこよなく愛する僕にとっても満足の出来のミュージカルでした。
宮本亜門演出、大竹しのぶ、草笛光子出演
シアタークリエ
2009年11月7日~12月6日
2009年11月7日~12月6日
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