個人的な”トラウマ映画ナンバーワン”として、以前「めのおかしブログ」で取り上げた「In a Glass Cage/Tras el cristal」は、スペインのデヴィット・リンチなどと評されることもある奇才、アグスティ・ビジャロンガ(Agustí Villaronga)監督の長編デビュー作です。その後つくられた作品をを観ると、いろんなタイプの映画を器用に・・・というよりは「子供時代のトラウマ」「同性愛の罪悪感」「信仰の重み」など、同じテーマを繰り返して描く作家的な監督であることに気付かされます。
「エル・マール~海と殉教~(海へ還る日)/El mar」は、アグスティ・ビジャロンガ監督らしい3つの要素を織り込んだ・・・心痛む、美しき傑作であります。日本では2001年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で公開されたっきり・・・日本国内のビデオもDVDも発売されていません。また、欧米で発売されていたDVDも、すでに廃盤。今では鑑賞することが難しい作品となっています。
内線下のスペインのマヨルカ島。自警団に殺される父親を目撃した少年が、父親を殺した男の息子の首にナイフを突き刺して惨殺・・・その後、その少年も自殺してしまいます。その場に居合わせた二人の少年ラマーリョとトゥール、少女フランチェスカは、その一部始終を目撃してしまいます。しかし、その忌まわしい記憶を心の奥底に秘めたまま、三人はそれぞれの人生を歩むのです。
10年後・・・男娼として裏社会で生きていた美しい青年ラマーリョ(ルジェ・カザマジョナール)が、結核療養所へ入所してきます。そこには、すでに患者として入所していたトゥール(ブルーノ・ベルゴンシーニ)と、修道女となって患者の治療にあたるフランチェスカ(アントニア・トレンス)の姿があり、3人は再会することとなります。
トゥールは、社交的なラマーリョと対照的に、静かに神への祈りを捧げる日々を送る信仰深い青年です。しかし、ラマーリョと再会してからというもの、友情以上の”思い”が強くなり、その欲望と罪悪感に苛まれていくのです。ラマーリョは、それまで生きるためにボスのエウジェニとの肉体関係を持っていたのですが、そんな状況から抜け出したいという苛立ちを抱えています。それを見守るフランチェスカも、ラマーリョへの愛を感じていたのです。
ここからネタバレを含みます。
常に死と背中合わせの療養所の生活・・・ひとり、また、ひとり仲間が亡くなっていくと同時に、トゥールはラマーリョへの思いは日増しに強くなり、ますます罪悪感で苦しみます。また、ラマーリョは療養所を逃げ出して、自分のことを抑圧してくるエウジェニを殺すため、彼の元を訪ねます。そこで知ったのは、ラマーリョを心配するトゥールがエウジェニと話していたという”裏切り”・・・ラマーリョはエウジェニを斧で惨殺して、トゥールを問い詰めるために療養所へ戻ります。
トゥールの特別な思いを、すでに分かっていたラマーリョは「ずっと、こうされたかったのだろう?」と・・・トゥールを荒々しく犯します。叶えられた「禁断の愛」の成就は、最も残酷に暴力的に描かれます。苦痛を伴う営みの中・・・トゥールは自分の体にのしかかっているラマーリョの首にナイフを突き刺し、殺害してしまいます。そして、トゥール自身も手首を切って自害するのです。
信仰に反する同性愛のセックスが許せなかったのか?長年の思いを果たしたトゥールには心中のような”死”か選択がなかったのか?もしかすると、ラマーリョは殺されるために、療養所へ戻ってきたのではないのか?いずれにしても、子供時代に目撃した忌まわしい記憶の殺人と同じ方法で、ラマーリョを殺さなければいけなかったというのは意味ありげです。信仰深いトゥールにとって、悪魔のように彼を誘惑し続けてきたラマーリョは「神」という「父親」という存在を殺してしまったようなものなかもしれません。
映画は、ラマーリョとトゥールの遺体を葬るフランチェスカの淡々として姿を映して終わります。ふたりの最後の営みを知っているのか、知らないのか・・・フランチェスカの祈りの無力さを感じさせられます。信仰によって彼らは救われるのでしょうか?
「エル・マール~海と殉教~」(海へ還る日)
原題/El mar
1999年/スペイン
監督 : アグスティ・ビジャロンガ
原作 : ブライ・ベネット
出演 : ブルーノ・ベルゴンシーニ、ルジェ・カザマジョナール、アントニア・トレンス、エルナン・ゴンザレス、アンヘラ・モリーナ、シモン・アンドレウ
2001年7月19日〜第10回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭にて上映
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