ボクが映画に興味を持ち始めた頃(1970年代)インド映画というと・・・サタジット・レイ監督のような西洋的で優等生な映画監督による作品が、岩波ホールで上映されていたというイメージでした。だから一般的なインドの娯楽映画を初めて観たときは、ただただ衝撃でありました。ニューヨークに住んでいた時には、ケーブルテレビのインドチャンネルで、インド映画のミュージカルシーンがが放映されていました。字幕なしだったので歌詞は理解できませんでしたが、女性の特徴的な高音の歌声と、腰を振りまくる集団でのダンスにテンションが何故か上がってしまったものです。直接的な性表現でなくても、異様な密度のフェロモンを感じさせられました。一度、インド人の男にエレベーター内で誘われたことがあるのですが・・・インド映画さながらの腰のフリ加減でにじり寄ってきたのには仰天しました。映画の中だけじゃなくて、日常的にも色仕掛けで誘う時には、インド人は映画のように踊るんだと納得させられたものです。
インド映画というのは、伝統演劇の様式を踏襲しているために、どうしても「ミュージカル」ばかりになるのだそうですが・・・さらにインドの古典演劇には含まれなければいけないとされている「ナヴァ・ラサ/nava rasa」という九つの感情れが「色気:ラブロマンス」「笑い:コメディ」「哀れ:お涙頂戴」「勇敢さ:アクション」「恐怖:スリル」「驚き:サスペンス」「憎悪:敵役の存在」「怒り:復讐」「平安:ハッピーエンド」を描かなければいけない(ひとつの映画の中で!)という掟があるのだそうです!日本でこれに近いことをしているのは「水戸黄門」ぐらいしか思いつきません。ちなみに、逆にインド映画で描いてはいけない(検閲に引っかかる)要素というのは「子供や動物への虐待や暴力」「飲酒、麻薬、喫煙の推奨」「卑猥、女性侮辱的な性表現」「集団の対立を煽る描写」「反国家的表現」だそうです。考えてみると・・・「描いてはいけない」5つの要素よりも、「描かなければいけない」9つの要素を含むことの方が、トンデモナイことのように思えます。
「ロボット」はインド映画史上最高の制作費37億円を費やした”超大作!”・・・37億円なんて、ハリウッド映画と比べたら大したことないけれど、先進国とインドでは、10倍ほどの経済格差があるわけで、単純計算で「370億円」というとてつもない金額・・・最も制作費が高いハリウッド映画といわれる「パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールドエンド」の推定240億円を遥かに超えてしまうという、物凄い規模の作品なのであります。ただ、その膨大な制作費の使い道が、あまりにもおバカ過ぎ・・・真剣に凄い映画を作ろうとしているのか、それとも真面目にふざけているのか分からない破天荒さは、いかにもインド映画らしいとしか言いようがありません。
バシー博士(スーパースター・ラジニカーント)は、助手のシヴァ(サンターナム)とラヴィ(カルナース)と共に、人間の100倍のパワーを持つアンドロイド・ロボットのチッティ(スーパースター・ラジニカーントの2役)を完成させます。チッティは、本を目の前でかざすだけで書かれている内容を記憶してしまったり、スーパーヒーロー並みの戦闘能力も兼ね備えているだけでなく・・・スイーツを作るのが上手だったり、女性のヘアメイクも得意という、まさに(!?)あらゆる点で人間以上の能力を持っているアンドロイドなのです。まぁ、スイーツ作りやヘアメイクは人間に任せておけば良いのにとは思いますけど。
人間の感情を持たないアンドロイドのチッティは、ある時、大火事の現場で入浴中の女性を素っ裸のまま(インド映画なので全身にモザイク処理!)救助するのですが・・・助けられた女性は恥ずかしさのあまり車道に飛び出して、車に轢かれて即死してしまうというトンデモナイ事態になってしまうのです。羞恥心などの感情を持たせる必要があると、バシー博士はチッティに感情を理解させることにするでありますが・・・チッティはバシー博士の恋人のサナ(アイシュワリヤ・ラーイ)に恋をしてしまうところから、本作はアリエナイ展開をしていくのです。チッティは嫉妬心から、ふたりの結婚式を台無しにしてしまい、怒ったバシー博士によって、チッティは破棄処理されてしまいます。
チッティの残骸を回収したのが、アンドロイドの軍隊を外国に売ろうとしていた悪者のボーラ博士(ダニー・デンゾンバ)・・・チッティはタミネーターとして再生されてしまうのです。ただ、感情を備えてしまったチッティは、ポーラ博士を殺害して自らのレプリカを量産してロボット兵団を作り上げます。サナを拉致したチッティは、さらに暴走をしていき、バシー博士、および、人間と全面的に戦うこととなるのです。
さすがIT王国のインドの名前に恥じない、クドいほどのコンピューターグラフィックスが、怒濤のごとく使われていて、37億円という制作費はダテじゃありません!ライフルがチッティの体に磁石のようにくっついて撃ちまくったり、レプリカのチッティ数百人(?)が合体して巨大ボール、蛇、ヒト型巨大ロボットに変身したりと、想像を超える(そして意味がよく分からない)アクションの連続なのです。と、同時に・・・チッティがサナの血を吸った「蚊」に怒り狂って、その「蚊」に謝罪させるという・・・バカバカしいシークエンスにも、制作費を湯水のごとく使ってコンピューターグラフィックスを駆使してしまうのが、本作の凄さであります。
バシー博士と恋人サナのラブストーリーには、お馴染みのミュージカルシーンが、ふんだんに織り込まれているのはお約束・・・どこにいようが、唐突にロケーションを移動して、夢のように歌い踊りだしてしまうというのですから、あまり深く考えると頭がおかしくなってしまいまそうです。とにかく観客にとって心地よく、豪華で華やかであれば、何もありのようで・・・あるシーンでは、モヘンジョダロの話をしていたと思ったら「キリマンジャロ~♪」と歌いながら、マチュピチュでインカ帝国の原住民っぽい衣装を着たエキストラと踊るというメチャクチャさであります。
「スター・ウォーズ」風のロボット、「タミネーター」っぽいアクション、マイケル・ジャクソンの「スクリーム」のようなのビジュアルと、パクリ疑惑(?)は数知れませんが・・・そんなことを構っている間もないほどの、あっという間の約3時間(オリジナルの上映時間は177分!)なんです。勿論、エンディングは、当たり前のように教訓じみたお涙頂戴っぽいオチ・・・インド映画らしい9つの感情を、無理矢理(?)ねじ込んだエンターテイメントにお腹いっぱいになることは請け合いであります。
御歳61歳(撮影時には59歳?)のスーパースター・ラジニカーントさまのフェロモンは、もちろん健在であります。頭髪はカツラと分かるし、手足が細くてお腹の出ている体型だし、踊りのステップやポーズも昔の主演作と比べると少々危うい・・・それでも、スクリーン上では色気ムンムンの中年(映画的な設定はアラフォーってところか?)になってしまうのだから、これぞ「スーパースター」が、「スーパースター」である”特殊能力”なのであります。日本人だったら、松平健(現在58歳)ぐらいしか対抗できる存在はいないような気がしますが・・・・・・といっても、フェロモン放出の密度は、到底、スーパースター・ラジニカーントさまに叶うわけはありません。
再び、日本でインド映画の再ブームを起こしそうな本作でありますが、残念なのは・・・・今回、日本で劇場公開されるのは”特別(?)編集された日本版”139分の短縮版”だけ”ということ。映画館としては回転率を高めて集客したいという思惑もあるのでしょうが・・・せめて一部の劇場では177分のオリジナルバージョンで公開しても良いのでは?という気がします。ま・・・日本版DVD/blu-ray発売の時には、オリジナルバージョンも収録ってことになるのでしょうが。
ロボット
原題/Endhiran
2010年/インド
監督 : S・シャンカール
出演 : スーパースター・ラジニカーント、アイシュワリヤ・ラーイ、ダニー・デンゾンバ、サンターナム、カルナース
2011年10月25日第24回東京国際映画祭にて上映(177分版)
2012年5月12日より日本劇場公開(139分版)
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