2012年4月30日にTBS系で放映された「悪女について」の視聴率が、なかなか良かったらしく(関東地方で14.7%)・・・沢尻エリカのTVドラマ復帰第1作という意味では、とりあえずは”成功”と言えるのでしょう。しかし・・・今回の沢尻エリカ版は、有吉佐和子氏の原作や影万里江さんが主演した1978年のテレビドラマとは、またくの別次元のモノ。原作の持ち味である根源的なテーマ(視点の違いで善悪さまざまな人格が浮き彫りとなる)を覆してしまっています。
影万里江さん主演のテレビドラマについては、以前「めのおかしブログ」で書いたことがあります。ボクは15歳のとき、このドラマをリアルタイムで観て以来、かなりの思い入れを持っていますし、放映後に出版された有吉佐和子氏の原作も、初版で発売されたときに購入しました。テレビドラマは放映時に一度観たっきり(本放送後に午後に再放送があったかもしれませんが)ということもあって、小説版を繰り返し読み返したものでした。
「悪女について」は、戦後の混乱期から昭和にかけて一代で巨万の富を築いた”虚飾の女王”と呼ばれた富小路公子という女性の人生と謎の死を、27人の証言からヒモ解いていくというミステリー・・・到底、2時間ドラマの枠に収まるような物語ではありません。2時間枠に収めるためには、エピソードを抜粋する必要性があるのは仕方ないことかもしれませんが、結果的にスケール感のない物語となってしまいました。
原作(オリジナルドラマ)の神髄は、さまざまな視点で浮かび上がってくる富小路公子の多面性・・・時には嘘をついてばかりの悪女のようであり、少女のような可愛らしい女性でもあり、強くしたたかな自立した女性あったかもしれないという・・・さまざまな解釈をされている富小路公子像の不思議さが、一番の魅力であったのです。同じ場面が違い人物の視点で語り直されることで、違う真実が見えてくるというのであります。原作の掲載とテレビドラマの進行が同時進行であったということから、原作者の有吉佐和子氏も主演した影万里江さんをイメージしていたに違いありません。記憶が確かではありませんが・・・オリジナルドラマでは、富小路公子が実際に「飛び降り自殺」するシーンというのは、なかった気がします。ひとりっきりであったはずの部屋から、”転落”したという状況しか語られず・・・最後まで自殺だったのか、他殺だったのか、事故死だったのかさえ、明確には結論づけていなかった覚えがあるのです。
さて、沢尻エリカ版「悪女について」は、原作の物語の一部をベースにしながらも・・・「富小路公子は、やはり悪女であった」「実は、多くの負債のかかえて自殺した」という結論に、船越英一郎演じる沢山栄次が達するという「沢山栄次視点でのミステリー」となってしまっているのです。これでは、富小路公子の「多面性」を描くというよりも、単に「沢山栄次の視点による富小路公子の物語」でしかありません。物語の推進力は、沢山栄次が自分の子供だと思ってきた富小路公子の二人の息子の父親が、本当は誰だったのを探るという・・・下世話な話になってしまったのです。沢尻エリカ主演ドラマであるはずなのに・・・観終わった印象は、船越英一郎の2時間ドラマ以外の何ものではないというオチでした。
自身のブログ「主婦・松居一代ブログー船越家の毎日ー」で「悪女のついて」の中での夫・船越英一郎と沢尻エリカのラブシーンに嫉妬して夫婦喧嘩になっただの、その後夫が家出しただのと大騒ぎをして、ちゃっかり他局の芸能ニュースまでも巻き込んで「狂言番宣」をした松居一代・・・こういう「こずるさ」こそが”富小路公子”のやり口でもあったような気がします。沢尻エリカが、番宣のための番組出演NGという逆風を逆手にとった、掟破り、捨て身の行動を、良妻とみるか、悪妻とみるかは、人それぞれですから・・・。
さて、主人公を演じる沢尻エリカは、冒頭の顔の超ドアップに耐えうるほど、美貌の健在っぷりを見せつけていたとは思いますが・・・結果的には、富小路公子の人格の深みを演じるまでには達していませんでした。化粧っけのない十代の公子を演じていても、その美しさは圧倒的・・・ポスト沢尻エリカして注目される女優さんたちとは格違いを認めるしかありません。「別に・・・」発言によって、女優として、女性として、最も美貌も輝く時代に芸能活動を出来なかったことが、悔やまれるほどです。ただ、影万里江さんのような”イノセントさ”は微塵と感じさせず、悪女的なしたたかさを漂わせてしまうのは、沢尻エリカ本人が背負ってしまったキャラクター・・・ただ、今回のドラマ版は悪女と結論づけるという、非常に薄っぺらいドラマになっているので、万人に分かりやすく「悪女」を演じる沢尻エリカで「良し」とするしかないのかもしれません。
まさかの再ドラマ化で、ますます影万里江さん版の「悪女について」の、満を持してのDVD化に思いが募ります。また、原作本も、現在、絶版しているようで・・・こちらも再版を望みます。影万里江さんの面影は「悪女について」以外のテレビドラマには殆ど出演されていないこともあって、今では薄らいでしまっています。そこで、姪にあたるテレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」のメインキャスター小谷真生子さんを拝見するたび・・・影万里江さんの面影を、ボクは探してしまうのです。
「悪女について」
2012年4月30日TBSテレビ系放映
原作 : 有吉佐和子
出演 : 沢尻エリカ(富小路公子)、船越英一郎(沢山栄次)、余貴美子(鈴木タネ)、上地雄輔(渡瀬義雄)、渡辺大(尾崎輝彦)
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