2013/01/22

さりげなくゲイのおじいさんが登場する大人映画・・・でも、さわやかなエンディングは迎えさせてもらえないの!~「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」~



ゲイ(同性愛男性)のキャラクターを扱う場合・・・女装の狂言回し役だったり、サイコパスの犯罪者であったり、哀れむ対象であったりということが、多かった時代というがありました。今ではそんな意識はすっかりなくなった・・・と言いたいところですが、女装やオネェ言葉は、いまだに笑えるギャグとして有効というのは、深層心理的には昔とそれほど変わっていないのかもしれません。同性愛をテーマとた作品というわけでもなく、登場人物の一人としてゲイを扱う場合には、一見してゲイと分かるようなステレオタイプの「ゲイ・キャラ」というのも、まだまだ多いような気がします。

「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」は、イギリス人の高齢者7人が、インドのマリーゴールド・ホテルに老後を過ごすために移住するというお話・・・さわやかな感動を呼ぶ”高齢者向け”(?)の大人映画であります。実際にホテルに到着してみると、宣伝写真とは違ってボロボロ・・・さらに、慣れないインドの環境にヘキヘキしていく様子を、暖かい眼差しと皮肉さの混じった視点で描いていきます。当初、英国人のプライド丸出しで異文化を蔑視するような彼らの態度は、傲慢に感じられますが・・・これも、新しい環境を段々と受け入れていく後半の展開との対比のためであります。それぞれの抱える問題が明らかになっていくに連れて、気難しい英国人気質さえも共感を生んでいきます。また、経営困難なホテルを再建しようとする若いインド人青年ソニー(デヴ・パテル)とイギリス人高齢者との対比は、まさに経済発展を進めるインドという国の若さとエネルギーと円熟したイギリスという国そのものであることは言うまでもありません。

夫に先立たれて自立の道を探る元専業主婦のイヴリン(ジュディ・デンチ)、腰の手術を受けるためにやってきた元家政婦のミュリエル(マギー・スミス)、離婚の危機にあるダグラス(ビル・ナイ)とジーン(ペネロープ・ウィルトン)の熟年夫婦、新しい恋を探しているオールドミスのマッジ(セリア・イムリー)、若さに執着して女の尻を追い回すノーマン(ロナルド・ピックアップ)・・・それぞれの物語の展開には、小さな驚きと清々しい結末が待っているのですが、ボク自身が注目したのは、少年時代インドに暮らしていた元判事のグレハム(トム・ウィルキンソン)の物語です。

グレアムが父親の仕事の関係でインドに住んでいた少年時代のこと・・・現地の使用人家族の息子マナージと遊び相手として仲良くなるのですが、ある時をきっかけに(本作では深くは語られません)ふたりの関係は”恋人関係”へと発展していったのでした。数ヶ月後、ふたりの関係はグレアムの両親に知られてしまいます。マナージの父親は解雇され、マナージの家族は屋敷を追い出されてしまいます。しかし、まだ少年だったグレアムは、この状況を傍観してやり過ごしてしまっていたのでした。その後、グレアムはイギリスに帰国して、何事もなかったように進学して、判事として働くまでになっていたのです・・・マナージへの愛と罪悪感をずっと抱えたまま。

ここからネタバレを含みます。

マナージにとって自分は最も会いたくない人間ではないかと恐れながらも、グレアムは根気よく役所に問い合わせてマナージの居場所をみつけます。マナージは、お見合いで妻を娶っていたのですが・・・その妻は夫のマナージが、グレアムというイギリス人の少年と愛し合っていたことを知っていたのです。無言で再会の抱擁をするマナージとグレアムを見つめる妻・・・彼女の夫への複雑、かつ、深い愛情を感じさせます。

本作は、特に同性愛の是非を問いただそうという映画ではありません。ただ、グレアムがストレートという設定で、過去に愛したインド人の少女と再会する話だとすると、陳腐なロマンチズムを感じさせたかもしれません。また、グレアムとマナージの過去、そして再会した後の様子は、フラッシュバックなどではなく、グラハムの台詞だけでしか説明されません。過去の思い出も、再会した後の会話も、観客が想像するしかないのです。

マナージはインド社会で、同性愛者として辱められ「終身刑」に追い込んでしまったと、グレアムはずっと思っていたのですが・・・実は、妻にグレアムとの関係を隠すこともなく、マナージは穏やかな人生を送っていました。そして、マナージもグレアムのことをずっと愛していたことを知らされるのであります。グレアム自身こそが、罪悪感という「終身刑」に自らを追い込んで生きていたことを悟り、彼はやっと解放されるのです。

マナージとの再会により、グレアムの愛の物語はひとつの決着はしているわけですが・・・その直後、グレアムは心臓麻痺でポックリ亡くなってしまいます。登場人物が高齢者ばかりなのですから、その中ひとりぐらいは亡くなることはあっても不思議はありませんが、よりにもよってゲイのキャラクターというのが、ちょっと釈然としません。映画本編は、さわやかで楽天的なエンディングを迎えることになるのですが・・・グラアムが、その結末を迎えさせてもらえないのは、彼がゲイという”特別枠”のキャラクターだからなのでしょうか?

高齢者のイギリス人がインドで暮らすというシチュエーションの”ネタ”は尽きないようで、続編の製作も噂されている本作・・・過去の愛を確かめ合ったグラアムの、その後が描かれることがないことが、ボクには悔やまれてならないのです。


「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」
原題/The Best Exotic Marigold Hotel
2011年/イギリス、アメリカ、アラブ首長国連邦
監督 : ジョン・マッデン
出演 : ジュディ・デンチ、マギー・スミス、ペネロープ・ウィルトン、ビル・ナイ、デヴ・パテル、セリア・イムリー、ロナルド・ピックアップ、
2013年2月1日より日本劇場公開


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