2011/08/22

閉じ込められた少女は自由のために戦うの!・・・意識の深層を描いた似て非なるふたつの映画~ジョン・カーペンターの「ザ・ウォード/監禁病棟」とザック・スナイダーの「エンジェル・ウォーズ」~



「奇しくも」と言うべきなのか・・・ジョン・カーペンター監督の「ザ・ウォード/隔離病棟」とザック・スナイダー監督の「エンジェル・ウォーズ」は、共に1960年代の隔離された精神病棟に閉じ込められて苦境に追い込まれた少女の脱出劇ということで、いくつか類似点があります。どちらも舞台となるのは”精神病棟”・・・雷が鳴っているおどろおどろしい雰囲気でグレーを基調にした色彩構成というところもそっくり。さらに、それぞれの主演女優(エミリー・ブラウニング、アンバー・ハード)が、二人とも脱色したブロンドで男勝りの戦う少女キャラというところも似ています。そして何よりも2作品とも、意識の深層を描くというところまで一致しているのです。

すでに日本でも劇場公開済みDVDの発売済みの「エンジェル・ウォーズ」は「300」や「ウォッチメン」のザック・スナイダーの初のオリジナルストーリー・・・コンピューターグラフィックスのスローモーションのアクションシーンや非常にダークなトーンで意識の中の意識を映画的な表現によって描いていています。夢の深層世界を描いた「インセプション」や、村上春樹の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」を思い起こさせるところもあります。

主人公のベイビードール(エミリー・ブラウニング)は、母の死後に義理の父親との諍いの中、誤って妹を死なせてしまいます。怪しい精神病院に閉じ込められることになったベイビードールは、ロボトミー手術を施されようとしています。心を開放するために彼女の意識は、想像の別世界へ移行してしまうのです。そこはスイートピー、ロケット、ブロンディ、アンバーという捉えられた少女達が働かされている「売春宿の世界」・・・「精神病院の世界」の看護士が少女達を管理するオーナーとして仕切っていたりします。「売春宿の世界」でベイビードールが悩殺ダンスを踊ると、売春宿から自由を手にするために少女達が戦士として戦わなければならない想像の「戦場の世界」が、さらにあるのです。

この「戦場の世界」「売春宿の世界」とはパラレルに関係しており「戦場の世界」で起こったことは「売春宿の世界」にも反映されるようなのです。売春宿から逃げ出すためには「地図」「火」「ナイフ「鍵」そして、もうひとつ「謎の何か」が必要で、それらを手に入れるため少女達は結束して戦うことになります。大魔神のようなサムライロボットと戦ったり、第一次世界大戦のような戦場で戦ったり、ドラゴンと戦ったり、時限爆弾を積んだ列車に乗り込んだりして、無事に「戦場の世界」での任務を終えることが出来れば、必要なアイテムを「売春宿の世界」でも手に入れることが出来たということ・・・しかし「戦場の世界」で命を落としてしまった仲間は「売春宿の世界」でも命を落としてしうことになってしまっています。

「精神病院の世界」の厳しい現実(といっても、まるでミュージックビデオか舞台のようなリアリティのなさ!)・・・想像の中の娼婦/踊り子たちが閉じ込められた淫靡な「売春宿の世界」、さらに想像の中の想像である少女戦士達がセーラー服姿で戦う「戦場の世界」という二重の意識の深層で、ベイビードールは自由のために戦わなければならないのです。

「売春宿の世界」では、スイートピーとベイビードールの二人だけが生き残り、売春宿からの脱出を計ことになります。5つ目に必要な「謎の何か」というのが、自分自身の命であったことを悟ったベイビードールは、自ら囮となってスイートピーひとりだけを逃がすのです。「売春宿の世界」で殺された瞬間・・・「精神病院の世界」では、ベイビードールにロボトミー手術が執行されていたのです。そして「精神病院の世界」=「現実」では、意識を持たない抜け殻のような生きた屍となってしまうのであります。

しかし・・・映画はここで終わりません。「売春宿の世界」ではスイートピーがバスに乗り込み無事に逃げていく姿が描かれます。もしかして「売春宿の世界」こそが、実は本当の「現実」で、主人公はベイビードールではなくスイートピーではなかったのか・・・と暗示するように映画は終わるのです。

解釈は、いろいろとあるでしょうが・・・「精神病院の世界」でロボトミー手術を受けたベイビードールの意識は永遠に「売春宿の世界」へ閉じ込められ、その世界の中でスイートピーという存在は生き続けているということなのでは・・・と思いました。意識世界では、何が現実に存在するのかということが大切なのではなく、どの意識を視点にするかによって実在も変わってくるということなのでしょうか?

「エンジェル・ウォーズ」のエンディングは、ある種ハッピーエンドのようでいて観る者を愕然と落ち込ませます。それは「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の読後に似ているのでした。

ジョン・カーペンター監督にとって約10年ぶりの新作となる「ザ・ウォード/監禁病棟」は、ホラー的な要素のあるサスペンスミステリー・・・1966年の監禁病棟を舞台にして少女クリステンが自由を求めて、同じく監禁されている少女達と共に怪奇現象の真実を探りながら、病棟からの脱出を計るという物語なのです。ただ、映画的な視点のトリックをつかったミステリー(「セックス・センス」のように)なので、ネタバレを知って見るか、知らないで見るかでは雲泥の差が出てしまう映画でもあります。

クリステン(アンバー・ハード)は田舎の一軒家に放火するのですが、それ以前の記憶がまったくなく、自分の名前しか分からないまま、この精神病棟へ監禁されます。病棟の看護士たちは何故かクリステンに対して冷ややかで、何だか分からな錠剤を飲ませたり、電気ショックなどの荒療治を施したりするのです。病棟内には、エミリー、サラ、ゾーイ、アイリスという4人の少女がすでに入院しているのですが、彼女らは魔物のような”何か”を恐れている様子・・・クリステンが来る前にタミーという少女が姿を消していたことが分かってきます。このままでは、自分もいつか殺されてしまう・・・クリステンは、その”何か”が、少女達が共謀して殺ろしたアリスという少女であると確信します。しかし、そんな魔物を信じようとしない医者や看護士・・・クリステンは自由と自分の命のため病院から脱出を試みることとなるのです。

終盤で明らかとなる真実は、昔のテレビシリーズ「トワイライト・ゾーン」とかであったようなオチで、実はそれほど衝撃的ではありません。しかし!!!・・・ある意味、斬新さを狙っていないオーソドックスな演出であるからこそ、音響効果やグロテスクな映像のショックだけでなく、オチを知って見る二度目こそ、実はジョン・カーペンター監督の職人芸を楽しめる映画となっています。

2作品とも、自由を求める少女の意識の深層を描きながら・・・脳内世界へ閉じてしまう「エンジェル・ウォーズ」と、自己の人格を取り戻す「ザ・ウォード/監禁病棟」とでは、結末は真逆であったのです。


「エンジェル・ウォーズ」
原題/Sucker Punch
2010年/アメリカ
監督 : ザック・スナイダー
脚本 : ザック・スナイダー、スティーヴ・シブヤ
出演 : エミリー・ブラウニング、ヴァネッサ・ハジェンズ、アビー・コーニッシュ、ジェイミー・チャン、オスカー・アイザック、カーラ・クギノ、スコット・グレン


「ザ・ウォード/監禁病棟」
原題/The Ward
2011年/アメリカ
監督 : ジョン・カーペンター
脚本 : マイケル・ラスムッセン、ショーン・ラスムッセン
出演 : アンバー・ハード、エイミー・ガマー、ダニエル・パナべイカー、ローラ・リー、リンジー・フォンセカ、ミカ・ブレーム、ジャレット・ハリス
2011年9月17日より全国順次公開



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