約2年ほど前にファラ・フォーセットがガンで亡くなったとき、その傍らにいたのがライアン・オニールだったと聞いて・・・ライアン・オニールの代表作で、不治の病の女性との愛を貫く恋愛映画の王道の「ある愛の詩」を思い出した人も多かったのではないでしょうか?「愛とは決して後悔しないこと」という台詞とフランシス・レイ作曲による「愛のテーマ」は、あまりにも有名・・・しかし、現実は映画のような美しい愛の物語であったかは、かなり疑問ではあります。
ライアン・オニールという人は”ひと筋縄”でいく人ではなく・・・散々マスコミを騒がし続けてきたハリウッドの問題児。次から次へと女の乗り換えるプレイボーイであり、暴言暴挙(家庭内暴力父親だったりとか、息子に銃を発砲したり、息子と一緒に麻薬で逮捕されたり)は数知れず。かなり滅茶苦茶な人だったようです。17年間も同棲して息子をもうけながらも結婚しなかったのに、ファラが亡くなる直前にプロポーズしたという逸話(結果的に結婚手続きをする前にファラは亡くなったらしい)は、心温まる話というよりも、瀕死のファラを自分のパブリシティに利用しようとしただの、ファラの財産を狙っていただの、散々マスコミに叩かれておりました。ライアン・オニールの真意は誰も分かりませんが、ファラの療養中にも自宅に若い女性を何人も呼んでパーティーをしていたとか、相変わらずのプレイボーイっぷりを報道されたりしていて、世間的にはそれほど同情的ではなかったようです。
1960年代にテレビのソープオペラ(お昼のメロドラマ)の「ペイトン・プレイス物語」で一躍人気俳優になっったライアン・オニールですが、当時から女性遍歴のゴシップには事欠ないプレイボーイとして知られていました。ただ、ウォーレン・ビーティのような”肉食系プレイボーイ”というよりも、女性が放っておけないタイプの”ツバメ系プレイボーイ”・・・その後、何度も演じることになる優柔不断な役柄がライアン・オニールに近いキャラクターなのではなんて思ってしまいます。1970年代に入ってからは活動の場を映画に移し、次から次に話題作に恵まれることになります。私生活のゴシップに塗れていたのに、純愛をテーマにした「ある愛の詩」が世界的に大ヒット・・・1971年(第43回)のアカデミー主演男優賞にもノミネートされたりもします。
その後、ソープオペラ男優の二枚目からコミカルな役柄の三枚目も演じるようになり、バーブラ・ストライサンドと共演した「おかしなおかしな大追跡」や娘のテイタム・オニール(当時の最年少でアカデミー助演女優賞を受賞)と共演した「ペーパームーン」が大ヒット・・・さらに、逆に”ツバメ”的資質をを生かして(?)スタンリー・キューブリックの「バリー・リンドン」にも主演します。1970年代は、ハリウッドスターとして充実していたと同時に、ゴシップ紙を賑わすトラブルも多かったようです。振り返ってみると話題作が多いにも関わらず、ライアン・オニールの俳優としての”代表作”というのは、ない気がしてしまいます。ソープオペラ出身の俳優にありがちな「プリティフェイス」でしかないと言ってしまえば・・・その通りで、人間的な深みに欠ける印象は拭いきれないのです。しかし・・・この時代を代表する”典型的な誰もが認める”ハンサム”であったことは確かなことで・・・日本では「ロードショー」「スクリーン」などの雑誌でも常に人気男優としてランクインし、全盛期はアメリカでも女性ファンだけでなく、ゲイにもライアン・オニールの人気は絶大なものでした。
1980年代に入ると急にキャリアは下降線を辿りだします。この時期に、まだファラ・フォーセット・メジャース(TVシリーズ「600万ドルの男」のリー・メジャースと結婚していた)と名乗っていたファラ・フォーセットと同棲を始めたようなのですが、その後17年も続く関係を続けることになります。まるで「バービー&ケン人形」のようなふたりが付き合っているというのは、ゴシップ紙の悪意のある興味を長年引いていましたが、ライアンにとっても、ファラにとっても、最も長く続いたパートナーシップではあったのです。
さて1981年に公開された「恋のジーンズ大作戦/巨人の女に手を出すな」の大失敗の後、40代に突入したライアン・オニールが再びコミカル路線で再起を図ったのが「パートナーズ」であります。日本では劇場未公開でビデオ発売だけの作品ですが、刑事もの”バディ・ムービー”としては、「48時間」「リーサル・ウェポン」の先駆的な作品であり、1980年当時の西海岸のゲイライフスタイルの記録ということだけでも見逃せない作品なのです。
殺人課の巡査部長である刑事ベンソン(ライアン・オニール)はハンサムで女たらしのストレート・・・ゲイコミュニティーで起こっている殺人事件の侵入捜査のため、事務課のカーウィン(ジョン・ハート)とゲイカップルを装って同棲することになります。実はカーウィンはクローゼットのゲイ・・・ひと目で分かる”オネェ系”というところが古臭いゲイキャラクターのような気がします。しかし、当時としてはゲイがハリウッドのメインストリームの映画に主役として登場するだけでも画期的なことでした。本作の3年前に公開された「クルージング」は、ニューヨークのゲイライフスタイルをダークに描いて否定的な印象を残していましたが、「パートナーズ」では、逆にホモフォビアな警察組織を茶化しているようなところがあって小気味良いのであります。これは「Mr. レディ Mr.マダム」の脚本も書いたフランシス・ヴェベールならでは。また、ジョン・ハートは「ミッドナイト・エクスプレス」「エレファント・マン」などで演技派として注目を浴びていた頃で、ルックス的にはお気の毒なほどイケていませんが(そういうイケてない役柄ではあります)真に迫る演技で気弱なゲイになりきっています。
ただ・・・クィア的視点からは、本作の一番の”みどころ”はライアン・オニールのゲイファンへのサービス。本編の登場シーンの殆どは胸毛出しまくりのほぼ上半身裸、もしくは「ジョック」「レザー」「カウボーイ」などのゲイコスプレを堪能出来るのですから堪りません!当時は「クローン」と呼ばれる髭のハードゲイのスタイル(ヴィレッジ・ピープルのような)が人気でしたが、ライアン・オニールのようなブロンドヘアー&ブルーアイズの「ブルーボーイ誌」タイプのスタイルもまだまだ健在でした。だからこそ、ゲイからのモテっぷりを利用してコミュニティーに侵入し、捜査するという設定も、ライアン・オニールのルックスであればこそ「納得」のリアリティがあったのです。
事件を捜査していくうちに、馬の合わなかったベンソンとカーウィンの間に信頼が生まれていくというあたりは、いわゆる”バディ・ムービー”であるのですが・・・二人の関係は最後まで空回りしている印象が残ります。そして、その空回りが、それほど笑いに繋がらないところが、ちょっと残念。ただ、オネェを卑下するような差別的な笑いを取ろうとしているわけではなく・・・と言って「Mr. レディ Mr.マダム」のようなストレートの世界を皮肉るほどでもありません。ベンソンに淡い恋心を寄せるカーウィンとのギクシャクしたコミュニケーションと、ゲイフォビアのベンソンがに罰ゲームのような任務をする姿を笑うしかないのです。
ベンソンは恋人がいるにも関わらず、捜査のためにゲイ雑誌のヌードモデルをした時に出会った女性カメラマン(事件の鍵を握る)と、即デキてしまうという”ライアン・オニール本人”さながらのプレイボーイっぷりを発揮していて・・・カーウィンの乙女心は弄ばれてしまいます。それでも命がけでベンソンの命を救うために銃で撃たれてしまったカーウィンに「一緒に暮らそう」と、ベンソンはエンディングで唐突に語りかけるのです。本来なら感動のシーンであるはずなのですが・・・まったく真実味を感じることが出来ないのは、演技力(!)以前に、ライアン・オニールの薄い人間性に由来しているような気がしてしまいます。
それでも「パートナーズ」が、今でもボクの記憶に残るのは・・・ライアン.オニールが捨て身のゲイコスプレを演じたということではなく、男らしさを微塵にも感じさせなかったカーウィンが、ベンソンを救うため勇気を振り絞って真犯人に立ち向かう姿なのです。
「パートナーズ」
原題/Partners
1982年/アメリカ
監督 : ジェイムス・バロウズ
脚本 : フランシス・ヴェベール
出演 : ライアン・オニール、ジョン・ハート
追伸その1:2014年1月27日、TSUTAYA限定商品のオンデマンドでDVD発売されました。
追伸その1:2014年1月27日、TSUTAYA限定商品のオンデマンドでDVD発売されました。
0 件のコメント:
コメントを投稿