2013/10/04

”お蔵入り”していたのにはワケがある・・・天才ファッションデザイナーの内面を暴けなかった密着ドキュメンンタリー~「ファッションを創る男~カール・ラガーフェルド~/Lagerfeld Confidential」~



ファッションに興味がある人なら・・・「カール・ラガーフェルドの名前は知っていて当たり前!」と思うのは、今では古い考え方かもしれません。ボクがファッションに興味を持ち始めた1980年代前半には「フェンディ」と「クロエ」のデザイナーとして、すでに大御所だったカール・ラガーフェルドは、1983年に「シャネル」のデザイナーになり、翌年には自身のブランド「カール・ラガーフェルド」を開始しました。ある時期には4つのメゾンのデザイナー(シャネルのオートクチュールを含め1年に春夏、秋冬10のコレックションを発表)を務めたこともあり、1960年代から半世紀以上、御年80歳となった今でも現役・・・「シャネル」のプレタ・ポルテとオートクチュール、そして「フェンディ」のデザイナーとして活動し続けていることは”超人的”なことであります。

”ファッション・デザイナー”という括りの敷居が低くなった現在・・・流行を取り入れるのが得意なスタイリストだったり、ディテール修正や組み合わせの上手なエディターだったり、生産工場との調整に長けたコントラクターだったり、デザインをまとめるのがうまいディレクターだったり、定番のスタイルに特化したマニアだったり、古き良きを再生するのが好きなクラフターだったりと、ひと言で”ファッション・デザイナー”と言っても、”ファッション”に取り組む方向性は様々です。基本的にスケッチをベースに、実際の服をカタチにするスタッフとコミュニケーションを取っていきながら、デザインをしていくカール・ラガーフェルドは、オーソドックスな意味での”ファッション・デザイナー”と言えるかもしれません。だからこそ、いくつものメゾンを掛け持ちすることもできるわけですが・・・彼ほど器用に各メゾンごとにデザインの引き出しを使い分け、膨大な美術史や過去のファッションを組み入れ、さらに彼自身の個性さえも各メゾンに反映させているところが、まさにカール・ラガーフェルドが”天才”と呼ばれる由縁なのかもしれません。

さて、そんな天才カール・ラガーフェルドに密着したドキュメンタリー映画「ファッションを創る男~カール・ラガーフェルド~」が海外で公開されたのは、今から6年前の2007年のこと。カメラは約3年間ほどカール・ラガーフェルドを追ったということなので、おそらく撮影されているのは2003年から20006年だと思われます。何故、今になって日本で劇場公開という運びになったのでしょうか?

2000年代に入ってから、やたらファッション・デザイナーに関するドキュメンタリー映画が制作されるようになったような気がするのですが、これは1990年代以降、アメリカのケーブルテレビ局で数多くのファッション情報番組が放送されるようになり、所謂”ファッション・デザイナー”の存在が”セレブ”として認知されるようになったからかもしれません。”ファッション・デザイナー”のハイ・ファッションまでもが”情報”として流通するようになれば、ファッション的な商品を求める裾野が広がっていくので、ファスト・ファッションの需要が高まっていったことは無関係とは言えないのかもしれません。ハイ・ファッションとファスト・ファッションとの価格の格差が大きくなっていけばいくほど・・・ハイ・ファッションは服という”実体”よりも”情報”として消費されるようになり、ドキュメンタリーという形でマスマーケットに供給されるようになっていったとも言えるのかもしれません。

アメリカでDVD発売された時(2008年?)に、ボクは本作を観ていたのですが・・・先日、日本公開になることを知るまで、この映画のことをすっかり忘れていました。本作の撮影が行われていたのと、ほぼ同じ時期(もしくは、直後?)、他に2作のドキュメンタリーの撮影も行われていて・・・ひとつは「シャネル」のオートクチュールメゾンの制作模様を追った「サイン・シャネル」で、もうひとつはコレクション発表の直前の様子を追うドキュメンタリーシリーズ「コレクション前夜」の中の「フェンディ」であります。どちらも、カール・ラガーフェルドのデザイン過程を映し出すという意味で、興味深いドキュメンタリーとなっていました。本作は、それら2作とは違い”カール・ラガーフェルド”のプライベートな人間像に迫ろうという試みをしているのですが・・・手持ちカメラでの撮影者であり、本編のインタビュアーでもあるロドルフ・マルコー二監督のドキュメンタリー作家としての才能のなさを露呈してしまった”トホホ”な作品となってしまいました。日本で5年近く”お蔵入り”していたのにはワケがあるのです。

まず、ハンドカメラでの撮影が酷い・・・”盗撮”しているようなカメラアングルが多く、何を映そうとしているのかが分からない事も、しばしばあります。また、画素が荒いイメージ画像がたびたび挿入されるのですが・・・映画の尺を長くするためのような時間稼ぎ(?)をしているかのようにさえ感じられます。しかし本作で最も問題なのは・・・一を質問すれば十を答えるほど饒舌で頭の回転の早いカール・ラガーフェルドを前にして、表面的な質問の数々を投げかけるロドルフ・マルコー二の人間的な未熟さです。薄っぺらい質問に対して、本編の中でも幾度となくカール・ラガーフェルドは苛立ちを隠せずにはいられません。特に、ホモセクシャリティーについての質問のたびに、言葉を濁すロドルフ・マルコー二には、不快感さえ覚えます。カール・ラガーフェルドの度胸の座った率直さ、彼なりに筋道の通った理屈・・・インタビュー部分は100%彼ののペースで、本作の”カール・ラガーフェルド”は、あくまでも”カール・ラガーフェルド”自身が公にオープンすることを認めている”カール・ラガーフェルド”でしかありません。

「ファッションを創る男~カール・ラガーフェルド~」は、ファッションデザイナーとしての”カール・ラガーフェルド”を考察しようという意図のドキュメンタリー映画ではありません。ファッションデザイナーとしての彼の仕事ぶりを知りたい人は「サイン・シャネル」または「コレクション前夜~フェンディ~」を観た方が、彼のデザインプロセスの舞台裏を知ることができます。我々のような一般人が容易く理解できる程度の表層的なインタビューでは、天才”カール・ラガーフェルド”の内面には近づくことは出来ないということなのです。


「ファッションを創る男~カール・ラガーフェルド~」
原題/Lagerfeld Confidential
2007年/フランス
監督 : ロドルフ・マルコー二
出演 : カール・ラガーフェルド
2013年11月16日より日本劇場公開


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