カルト教団の恐さのひとつって・・・詐欺まがいで金を集めたり、訳のわからない奇行をさせられることもあるけど、信者になってしまった人が自己判断能力を失ってしまうことだと思います。もしかすると、当初は何かしらの”救い”を与えているのかもしれませんが・・・教団が社会的に受け入れられなければ受け入れられないほど、教団の閉鎖感と異常性が過激になっていきがち。最終的には教団に反するものを排除するための”暴力”へと発展しがちです。いつの時代にも、世界のどこかで、新たなカルト教団が出現して、不可解な事件を起こす・・・ナチス、コミュニスト(共産主義者)、テロリストに続いて、カルト教団は、映画の中では”絶対悪”の存在として扱われるのかもしれません。
「チェイシング・エイミー」や「恋するポルノグラフィティ」などの”ダメ男”のためのラブコメで知られる、オタク監督ケヴィン・スミスが、わざわざ自ら400万ドルの資金集めまでして自主制作した「レッド・ステイト/Red State」は、保守的なキリスト教団体を”キ○ガイ”扱いする過激な内容のサスペンス・アクション映画であります。
アメリカ中部の田舎町の高校生3人組が、セックスの相手を募集する女性のネット広告につられて、喜んで出向くと・・・そこには、結構いい歳の迫力のある”おばちゃん”(メリッサ・レオ)が待ち構えていたのです!そこで引き返せば良いものの、誘われるがままトレーラーハウスに入ってビールを飲むと、彼らは気を失ってしまうのです。彼女は超保守派のキリスト教信者で、性の乱れを象徴する”悪しき者”として、彼らを教会内で公開処刑しようと罠にはめたのでした。教祖(マイケル・パークス)が語る教団の教えは、アメリカ国内に今も実在するキリスト教原理主義的な教会の思想に近く、保守派の信者たちにとっては一部は賛同できてしまいそうなところが恐い・・・同性愛や堕胎手術を宗教的に許さないというアメリカ人は、統計的には3人に1人はいるのだから。
少年達が処刑されそうになるまでは、ティーン向けのホラー映画っぽいノリなのですが・・・中盤からは機動隊が派遣されて、捕虜であるはずの無実の少年達も、洗脳されている信者達も殺されていく銃撃戦となっていきます。そして最後には、機動隊のエージェント(ジョン・グッドマン)が、事件の顛末を、上司に報告するという政治的な会話劇になっていきます。また、冒頭の憲法についての授業、教祖が教団の思想を語るくだり、機動隊エージェントと上司とのやり取りなど、説明的な台詞が多くてクドい印象・・・キーパーソンとなる教祖役のマイケル・パークスとエージェント役のジョン・グッドマンの説得力のある演技力によって、ケヴィン・スミス監督の、超保守的なキリスト教団の思想に対してだけでなく、威圧的な権力構造に対しての嫌悪感も、ヒシヒシと感じられる奇妙な映画となっています。
保守的なアメリカの一部では、同性愛や堕胎手術を否定するほうが常識的だったりします。ボクが、同性愛や堕胎手術は自由意志だと考える権利が与えられているように、超保守派にも反対する権利が平等に許されているのです。宗教や思想の自由のない社会は恐ろしいけど、自由のある社会というのも、また恐ろしい・・・しかし、その”宗教”によって、歴史的に人は殺し合ってきたわけで、何が正しいのか分からなくなってきてしまいます。
「マーサ、あるいはマーシー・メイ/Martha Mary May Marlene」も、カルト教団を描いた映画ではあるのだけど・・・こちらは、マーサ(エリザベス・オルセン)という1人の女性が、あるカルト集団に洗脳されていく過程を、淡々と描写していきます。ミヒャエル・ハネケ監督のような地味な作風ではありますが、じわじわと恐くなってくる作品です。
ニューヨーク州のキャッツキル周辺の農園で、自給自足に近い集団生活をする若者たち・・・ギター演奏で唄を歌ったり、一緒に農作業したり、一見するとヒッピー的には理想に近い生活環境のようにみえます。しかし、その実態はリーダーの男(ジョン・ホークス)によって洗脳された集団だったのです。本作は、2年間音信不通だったマーサが、姉夫婦(サラ・ポールソン、ヒュー・ダンシー)の家に転がり込むところから始まり、時間軸をシャッフルして、時には”ワンショット”ごとに「カルト集団を逃げ出して姉夫婦の家に身を寄せている現在」と「カルト集団の中で生活していた過去」を行き来しながら、どうマーサが洗脳されていったかを丹念に描いていきます。そして、どうして彼女は逃げるきっかけになる集団の素顔が徐々に明らかになっていきます。
集団生活を始めてまもなくして、マーサはリーダーに犯されるのですが、それは”名誉”なことであると、先輩の女性メンバーから教え込まれます。そして、いつしかマーサ自身も、後輩女性に同じことを教え込む立場になっていったのです。集団との共同生活の中ではセックスは共有するもの・・・マーサは、姉夫婦がセックスに励んでいる最中のベットに「1人では眠れない」と、添い寝してくるという奇妙な行動をしたりします。
ここからネタバレを含みます。
この集団が、一線を超えるような犯罪行為も行っていることを知り、マーサは精神的に壊れていきます。それはある意味、マーサがギリギリのところで理性を保っていたということでもあるのですが・・・それこそカルト集団からすれば裏切りでしかなく、許されない行為でもあります。集団から離れてもマーサの頭の中は、カルト集団のトラウマからは逃れられません。姉夫婦の家を離れて、専門機関に入ることになったマーサ・・・施設に向かう車の背後には、カルト集団の影が迫ってくきていたのです。静かだけど、観る者を恐怖に落とし込むエンディングでありました。
ボク自身は、キリスト教の影響を影響を受けた家庭環境で育ったものの・・・宗教観には乏しくて、どちらかというと”無神論者”かもしれません。仏教に関しても無知で、お墓や仏壇にも強い思いはありません。そんなボクですが・・・一度だけカルト教団に関わったことがあります。
テレビドラマや舞台劇になるほど有名な三姉妹のファッションデザイナーの次女のところで働くことになったのですが・・・彼女の会社はキリスト教をベースにしたカルト的な教会の信者になることを自社で働く人に強要する会社だったのです。まぁ・・・明らかに法律違反の行為なのですが、わざわざ裁判沙汰までにするような人もいなかったようです。ボクだけが納得すれば良いんだから・・・と、真冬の池に頭まで突っ込まれながら洗礼を受けました。ただ、ボクがどうしても受け入れられなかったのは、自分のプロジェクトに関わる外部の会社の人たちまでも、ボクの責任で洗礼を受けさせなければいかないということ・・・それは、どうしてもボクには出来ない事でした。日曜日に真面目に礼拝にも通わないボクは、数ヶ月でクビになりました。
朝礼で”かけ声”をかけたりする会社というのは、ボクにとってはちょっと不気味・・・このような「一体感」の強要って、仕事の効率を上げたり、協調性を高めるとは思うのだけど、ゆるい解釈での”カルト集団”的な恐さを感じてしまうのです。
「レッド・ステイト」
原題/Red State
2011年/アメリカ
監督、脚本、編集 : ケヴィン・スミス
出演 : マイケル・アンガラノ、カイル・ガルナー、マイケル・パークス、メリッサ・リオ、ジョン・グッドマン
「マーサ、あるいはマーシー・メイ」
原題/Martha Mary May Marlene
2011年/アメリカ
監督 : ショーン・ダーキン
出演 : エリザベス・オルセン、サラ・ポールソン、ヒュー・ダンシー、ジョン・ホークス
2013年2月日本劇場公開
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