2011/12/13

1960年代アメリカ南部版「家政婦のミタ」ではありません・・・差別にただ耐え続けた黒人女性の忍耐、世間体に縛られていた白人女性の皮肉~「ヘルプ~心がつなぐストーリー~/The Help」~



ニューヨーク市内の公園で、乳母車にのせた白人の子供をあやしているのは、明らかに子供の母親ではない・・・黒人、アジア人、スパニッシュ系の女性。そんな風景にボクは、少なからず違和感を感じたものでした。

日本人の殆どの人にとってはメイド(家政婦/乳母)=Helpという存在は、テレビドラマや映画でしか馴染みがない存在かもしれません。ただ単に、家政婦目線でのドラマとか見過ぎなのかもしれませんが・・・他人が家の中にいるという緊張感や煩わしさに、ボクはどうしても馴染むことができないと思うのです。家政婦や庭師が実家にいつもいたという友人の話によると・・・使用人たち前で、だらしない行動は出来ないとのこと。また、専属(住み込み)で働いてくれる人を見つけるのが年々難しくなっているので、それほど仕事が出来なくても我慢しているというのが、雇い主側の”本音”だそうです。

ボクはリベラルな東海岸東部で生活していたので、アメリカの南部での黒人の存在がどういう扱われ方をしているのか自分の目では見たことはないのですが・・・同年代以上のアメリカ人で南部出身の白人の友人たちからは「差別」ほど意識的ではないにしろ「区別」をしていることを感じさせられることは”しばしば”ありました。

「ヘルプ~心がつなぐストーリー~/The Help」は1963年のミシシッピー州のジャクソンという街を舞台にしています。黒人の公民権運動が盛んで、暴動やKKK(クー・クラックス・クラン)による黒人のリンチなども起こっていた物騒な時代でした。奴隷解放が行なわれた南北戦争終結から100年あまり・・・しかし「ジム・クロウ法」によって、交通機関、水飲み場、公衆トイレ、レストランなどは白人と黒人(有色人種)を分離する政策は、翌年(1964年)の公民権法制定まで普通に行なわれており、ミシシッピー州は中でも特に黒人差別が根深かったところでもあったのです。

主人公のスキーター(エマ・トンプソン)は、ある白人一家の裕福な娘で、大学卒業後にジャクソンの実家に戻ってくるのですが、彼女を育ててくれた大好きだった黒人メイドのコンスタンティン(シシリー・タイソン)の姿が見当たりません。母はシカゴの家族と暮らすために自分から辞めたと説明するのですが、明らかに何かを隠しているようなのです。スキーターは当時の南部出身者としてはリベラルな考えの持ち主で、人種差別を肯定する風潮に疑問を感じています。そこで黒人メイドたちの視点に立って、白人家庭で働いてきた経験や思いをインタビューしてまとめて出版しようと考えるのです。

当時のミシシッピー州では、一般的な白人家庭でも黒人メイドを雇うのは珍しいことではなかったようで、主婦は殆ど家事もせず、育児さえも片手間というのが当たり前・・・主婦だけで集まってポーカーをしたり、教会のチャリティー(アフリカの子供達の飢餓を救うためというのが皮肉!)に精を出したり、社交に興じているような毎日を過ごしていたのです。そのため、黒人メイドは子供たちの”母親がわり”のような存在で、メイドも子供たちを我が子以上に大切に愛して世話をしいました。そして、メイドが育てた子供は、やがて成長し、雇い主となるのです。

スキーターが、まず取材対象に選んだのは友人宅で働くアイビリーン(ビオラ・デイビス)・・・当初は正直に白人相手に話をすることに躊躇していますが、次第にスキーターの熱意と教会で聞いた神の言葉に心動かされて、取材を受けることを承諾します。アイビリーンの立場からすると、白人女性を家に招くというのは命がけとも思える勇気ある行動ではあるのは勿論、当時の空気を考えると、スキーターの考え方というのもかなり進歩的で弾圧されても不思議でないのですが・・・本作では疎外感は、それほど感じません。それに、スキーター自身も人種差別を明らかにしている主婦グループと結構親しげというのは、ちょっと不自然な気もしてしまいます。


主婦グループのリーダー的な存在であるヒリー(ブライス・ダラス・ハワード)は「黒人は病気を持っているから家の中の同じトイレは使わせない」と主張するような人種差別主義者・・・暴風雨の時、家の中のトイレを使った黒人メイドのミリー(オクタビア・スペンサー)を雨の振る中クビを言い渡して追い出してしまいます。その後、ミリーの悪口を言いふらして、他の白人家庭でも雇われないように根回しするという根性の悪さ・・・ミリーの、まさに(!)”糞喰らえ”的な物凄い復讐が、物語のポイントとなっていきます。ミリーを演じるオクタビア・スペンサーの独特なルックスとアクの強いキャラクターと、人種差別主義者を憎々しく演じるブライス・ダラス・ハワードが、なかなか見物でありました。

政治的な背景というのはテレビのニュースで流れている程度に抑えていたり、実は頻繁に行なわれていたはずである雇い主の白人男性から(そして夫である黒人男性からも)黒人女性に対するセクハラや暴力は画面には見せないなど、社会的に黒人問題を扱っている映画ではありません。そう意味では、少々甘いと感じるところもありますが・・・あくまでもスキーターの周辺だけに絞ることで、白人女性同士の力関係や世間体に振り回されていたという皮肉が浮き彫りにされていきます。そして、実は、白人女性たちも男性社会に弾圧されていたことも感じさせるのです。スキーターの取材は、アイビリーンだけでなくミリーや、他多数の黒人メイドたちの協力を得て、出版まで漕ぎ着くことができます。スキーターは結果的にニューヨークでジャーナリストとしての職を得ることにはなるのですが・・・自ら声を上げたアイビリーンやミリーは仲間から賞賛されますが・・・酷い仕打ちが待ち受けているといるという苦々しい結末となっています。(希望が感じられないわけではありませんが)

「ヘルプ~心がつなぐストーリー」の原作は、黒人メイドによって育てられたというキャスリン・ストケットという女性によって描かれた物語で、彼女自身の現実とスキーターの取材をしていく様子が重なるところがあります。アメリカでは2年以上ベストセラーとなっている作品ですが、出版される前に原作者の幼馴染みで俳優のテイト・テイラーが映画化の権利を獲得していました。そしてプロデューサーのひとりのブランソン・グリーンも彼らの幼馴染み、さらに出演者のオクタビア・スペンサーやアリソン・ジャネイも監督の親しい友人という、プライベートと繋がった人々によって大切に作られた映画であることが伝わってきます。監督自身も黒人メイドによって育てられていて、本作を彼女に捧げています。無骨な肉体派という風貌の上に、リベラルな人間の良さがにじみ出ているテイト・テイラー・・・素敵です。

作品とは関係ないことですが・・・日本での公開が今年9月頃に決定していたのを、アカデミー賞の候補になることを見越して、あえて来年3月に先伸ばしたということです。助演女優賞では、一人か二人はノミネートされるのは、ほぼ間違いないと思われます。作品賞、脚本賞、監督賞なども候補にあがるかもしれません。いち早く日本で公開することがベストだとは思いませんが・・・集客目当てに”おあずけ”というのは、何とも釈然としない配給会社の考え方です。

「ヘルプ~心がつなぐストーリー」
原題/The Help
2011年/アメリカ
監督 : テイト・テイラー
脚本 : テイト・テイラー
原作 : キャスリン・ストケット
出演 : エマ・ストーン、ビオラ・デイビス、ブライス・ダラス・ハワード、アリソン・ジャネイ、オクタビア・スペンサー、ジェシカ・チャステイン、シシー・スペイセック、メアリー・スティーンバーゲン、シシリー・タイソン
2012年3月31日日本劇場公開



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