「へんしん!ポンポコ玉」は、ボクの心に深く刻まれていたテレビドラマなのですが、放送当時から番組を観ていたクラスメイトもいないほどマイナーで、中学生を主人公にしながらも内容的には完全に児童向けだったこともあって、その後大人になってから思い出したり、誰かと語る機会さえなかったのでした。
このドラマが放映されたのは1973年・・・「仮面ライダー」「キカイダー」などの変身ヒーローものが男子にはブームで、女子だけでなく男子も夢中になったのが「サインはV」という時代でした。
「へんしん!ポンポコ玉」は、裏番組が「マジンガーZ」と「ドラえもん」という不運もあり、視聴率が期待通りに伸びなかったようで、たったの「15話」で番組は終了してしまいました。
毎回、当時の有名ゲスト(毒蝮三太夫、小松政夫、児島美ゆき、など)が出演したり、小学生向け雑誌では特集なども組まれたりはしていたのですが・・・。
おそらく70年代中頃には午後4時台とかに再放送されたことはあるかと思いますが、その後にリバイバルブームという形で再放送されることはなく、ビデオ化さえもされず、ずっと幻の番組という存在だったのです。
数年前にDVD化された時は喜びと同時に「このドラマを好きだった人が、ボク以外にもいたんだ!」と驚いたものでした。
当時流行っていた”変身モノ”でありながら、ヒーローとして敵と戦うようなことは勿論なく、赤と青のポコポコ玉を持って「ポンポコピ~!」と呪文を唱える(葉月パルの”ヘッポコヘッポコピー”の元ネタ?)と、男の子(陽一くん/中学三年生)と女の子(百合ちゃん/中学二年生)が10分だけ入れ替わることができる・・・というファンタジードタバタコメディであります。
入れ替わるのは、陽一くんと百合ちゃんには限らず、エピソードによっては他のキャラクターと入れ替わったりするのでありますが、常に「性別」が逆になるというのが”お約束”のようです。
宇宙人のペケペケという「たぬきのぬいぐるみ」が、赤い玉と青い玉の本来の持ち主として重要なキャラクターとして登場するのですが、当時の子供の感覚でもパペットとしての”作り”が「ちゃっちい」と感じた印象があります。
ペケペケは「諸君!」などと、視聴者の子供たちにカメラ目線で説教じみた台詞をいうなど・・・テレビの中と現実を混同するような演出もされたのですが、親近感が湧くような人気のキャラクターにはなりませんでした。
このドラマは全編ベタなギャグ、ご都合主義の物語の進行、マンガのような出演者たちのリアクションと、今の感覚では観るに耐えないようなデキではありますが・・・考えてみると、大林宣彦監督の「転校生」の原点のような作品だったのかもしれません。
このドラマが撮影されていたのが、田園都市線沿線の自宅の近所だったということもあって(よく登場するモダンな商店街は今でも存在している)、放映当時は知っている場所が写るたびに、たいへん興奮していました。
1970年代の東急が開発していた郊外の住宅地というのは、まずは道路だけ敷いて舗装をしておき、住宅地としての区分けは済んでいるものの、家がまだ建っていない空き地には雑草(主にすすき)が生い茂っているという風景でした。
都内で生まれて、郊外で育ったボクには「田舎」というものはありませんが、新興住宅地の空き地が広がる風景というのは、郷愁を感じさせるボクの「故郷」なのです。
主人公の陽一くんを演じた小林文彦、百合ちゃんを演じた安東結子、共に印象が薄い役者さんで、人気が出なかった理由のひとつかもしれません。
百合ちゃんに憧れるガキ大将的キャラ(”あんちゃん”と仲間から呼ばれる)は、当時の子供向け番組では常連だった「福崎和宏」という劣等生役を得意としていた(?)役者さんで、子供ながら「気になるお兄さん」でありました・・・勿論、まだ同愛的な感情が芽生える以前の話でありますが。
「へんしん!ポンポコ玉」では、隣の奥さん(塩沢とき)と入れ替わってしまって、女装とオネェ演技も披露!
撮影当時、まだ16歳(1957年生まれ)だったことを考えると、若くして芸達者な(または、自分を捨てた見事な)役者さんだったんだと改めて思います。
おそらく、このドラマが後に放映当時に知る由もなかった世代に知られる存在になった理由は、1980年代後期に人気者になった「塩沢とき」の出演作品としてでしょう。
ケンちゃんシリーズの教育ママ役で「んま~!なんてことでしょ!」を連発するオバサンとして、当時の子供にはすでにある程度の認知度が高かった塩沢ときですが、この「へんしん!ポコポコ玉」では覗き見が趣味の奥さんをのびのびと演じて、主人公たちを完全に食ってしまっていました。
「見たわよ見たわよ~!」と、ポンポコ玉で変身する主人公たちの秘密を問い詰めるのですが、徹底的な証拠を掴むことが出来ない・・・というのが、毎回のお決まりだったのです。
塩沢ときの演じたこの役柄の原型というのは「奥さまは魔女」で、サマンサが魔法を使うところを見ては、旦那に訴えるものの、まったく信じてもらえない”隣の奥さん”(Mrs. Gladys Kravit/ミセス・クラビッツ)だったのではないでしょうか?
日本語吹き替え版でミセス・クラビッツは「あ~た!」と旦那を呼んでいましたが、塩沢ときの演じている隣の奥さんも、まったく同じトーンで旦那のことを「あ~た!」と呼んでいます。
このドラマでの役柄と演技が、後の「塩沢とき」という独特のキャラクターのベースになっているようにも思います・・・メガネや髪型とかは別として。
子供というのはある時期、品の良いキャラというのにハマって、奥さま風のおしゃべりで遊ぶことがあるものですが・・・塩沢ときの確立したキャラというのは、まさに子供同士の「ざ~ます」ごっこの原点となっているのかもしれません。
ゲイの全ての男子が「女装趣味」があるわけでもなく・・・「女の子になりたい!」と思いながら成長するわけでもありません。
しかし、世間一般的な「男子」的なことに、違和感を感じながら小学校、中学校を過ごすということはあります。
「へんしん!ポコポコ玉」がボクの記憶に深く刻まれた理由のひとつは、男の子が女の子に呪文で「変身できる」という奇抜なアイディアにあったのかもしれません。
陽一くんは男子でありながら運動は苦手でナヨナヨして女の子っぽくて、百合ちゃんは女子でありながら暴れん坊で気性が強くて男の子っぽく描かれています。
周りのクラスメートや学校の先生たち、そして両親まで「男の子とは男らしく!「女の子は女らしく!」と、陽一くんと百合ちゃんに既成概念を毎回押し付けるのですが、ふたりはそんな世間の価値観にはおかまいなしに、ポンポコ玉を使って、男と女の変身(入れ替わり)を繰り返します。
ボク自身は、体格が大きかったので女子っぽく見られることもなく、女っぽいからといじめられるような経験も皆無でしたが、女っぽいところもちょっとあるかもしれない・・・と、自分では密かに思っていました。
男と女の性が入れ替われるという設定だったからこそ、その後もずっとボクの記憶にとどまったのでしょう。
同性愛のコンセプトも知らない子供時代に「へんしん!ポンポコ玉」と出会えたことは、そののち、ボクが自分自身のセクシャリティーと自然に向かい合える心構えを潜在的にしてくれていたような気がします。
男でも、女でも、どっちでも良いんだよ・・・と。
「へんしん!ポンポコ玉」
1973年4月15日~7月29日
日曜日午後19時より、TBS系列
スタッフ
脚本/長野洋、ジェームス三木、大野武雄、田波靖男
キャスト
安東結子(立花百合)、小林文彦(河合陽一)、堺左千夫(立花一平)、姫ゆり子(立花かおる)、砂塚秀夫(河合陽太郎)、小林千登勢(河合明子)、塩沢とき(鵜之目タカ子)、鮎川浩(鵜之目トビ夫)、阪脩(ペケペケの声)、福崎和宏(大久保大介)、太田淑子(次回予告ナレーションの声)
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