2009/09/04

アンチカツマー万歳!これが私の生きる道~「しがみつかない生き方」/香山リカ著~



香山リカ氏は、ワイドショーなどのテレビ番組で活躍している精神科医のコメンテーターで、弱者やマイノリティーに対してサポートするような立場をとるスタンスには、自分は以前から好感を持っています。
元祖「メガネ女子」的なポジションを本人的に築いているところは妙な自意識を感じますが、世相に沿った観察力や解説には説得力を感じさせるのです。

「オタク文化」「ハラスメント」「依存症」「スピリチュアル」「団塊ジュニア」「鬱」などのキーワードをタイムリーに使って、社会の問題点をマスコミや読者の興味をそそる手腕はさすがです。
扱うテーマは違っても一貫した視点を香山リカ氏から感じます・・・「前向き」よりは「後ろ向き」「積極性」よりは「消極性」「外交的」よりは「内向的」「プラス」よりは「マイナス」の「引き算」な生き方を肯定して、説いているような印象があります。

「ふつうの幸せ」を手に入れる10のルール・・・という副題の香山リカ著の「しがみつかない生き方」は、訴えていることがシンプルな内容だけに、目次を読んだら著者の言いたいことの8割は伝わってしまうほどです。
「ないない」づくしのルールは「恋愛にすべてをささげない」「自慢・自己PRをしない」「すぐに白黒をつけない」「老・病・死で落ち込まない」「すぐに水に流さない」「仕事に夢を求めない」「子どもにしがみつかない」「お金にしがみつかない」「生まれた意味を問わない」・・・と、一般的な人生の指南書には反するような印象を与える意見ですが、香山リカ氏の著書を読んだり、テレビ番組でのコメントを聞いたことがある人ならば「らしい」発言と感じるのではないかと思います。

その時代、時代に提案される「足し算」的なもっともっとを求める上昇志向の強い生き方は、高度成長時代であれば高い能力、強い精神力、そして幸運などを持ち合わせていれば可能な生き方かもしれませんが、殆どの人は挫折感や喪失感を抱える原因でしかありません。
なれもこれも「しない」というネガティブな生き方を薦めているのではなく、誰でも「できる」という不可能な理想や目標は持たない方が良いのではないか・・・というです。考えてみれば、それは昔から言われてきた「身の丈ほど」の生き方ということであり、現代人のこころの事例を挙げながら、改めて提案しています。

「成功」を目指す生き方ではなく「ふつうの幸せ」を目指すための最後のルールは「勝間和代を目指さない」というのは、なんともタイムリーな引用ではあります。
勝間和代氏は「カツマー」と呼ばれる彼女の生き方を崇拝するフォロワーがいるほどの成功者であり、経済的、社会的な高い自己実現を方法を説くカリスマのような存在です。
そんな勝間和代、カツマーらの生き方に真っ向から疑問を投げかけるようなこの本は、いま大変売れているようで、近所の本屋さんの新書の売り上げベスト1になっています。

社会的、経済的な成功に執着して、不況下でも自分だけは勝ち組(死語になりつつある?)を目指して頑張りすぎることに疲れ始めた日本人に対して「しがみつかない」「ふつうの幸せ」という分かり易いキーワードで、香山リカ氏の鋭い洞察力と彼女らしいゆるい生き方提案をしている一冊でした。



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