実用書、エッセイ、ノンフィクションなどと違って、フィクション(文芸系)の本というのは、好きな作家以外、読みたいと思わせる何かきっかけがないと、本を買ってまで読もうと思いません。
雑誌などのブックレビューだったり、アマゾンのおすすめ商品だったり、友人から奨められたりして選ぶことになるわけですが、事前に内容をよく読むわけではありません。
また、本屋で見かけて、帯などに書かれた宣伝文句に魅かれてということもありますが、パラパラと何ページかは試し読み出来たとしても、やはり内容を熟知してから購入するわけではありません。
知らない作家の本を選ぶという行為は、ちょっとしたギャンブル要素があるわけです。
半年ほど前に友人から「自分は読まないから」という理由で、古川日出男の最新作「聖家族」という分厚い本(2段組で700ページ以上)をもらいました。
とりあえず読んではみたのですが、なかなか内容が頭に入ってきません。
それでも頑張って100ページぐらいまで読み進めてはみたのですが、結局、挫折をしてしまいました。
その後「聖家族」や、古川日出男という作家のことをネットなどで調べてみると、一部の読者からは絶賛されているマニアックなファンを持つ作家さんで、画期的な作品を次々と発表しているということを知りました。
確かに今まで読んだこのないタイプの文学ということだけは「聖家族」からも感じてはいたので「リベンジ」として、もう少し読みやすそうな「ベルカ、吠えないのか?」に手を伸ばしてみたのでした。
「ベルカ、吠えないのか?」は、軍用犬の血統によって綴られるアメリカロシアの冷戦時代、朝鮮戦争からベトナム戦争、共産主義の崩壊までの現代史を語るという一種の歴史小説なのですが、物語の主人公というのは存在せず「犬よ・・・」と呼びかける”天の声”が語りべとなって時代を進んでいくのです。
犬たちは血筋を繋げて代々名前を与えられていくのですが、その犬たちに関わる人の名前は語られることはありません。
そこには歴史的な出来事や当時の世界情勢を語る上での、人という存在がいるだけです。
読み手を突き放すような短い文章が続くので、うどんのようにツルツルと入るのではなくて、ショートパスタのようなパラパラした感じとでも言うのでしょうか・・・感情移入を拒むようなハードボイルドっぽい語り口で、具体的な情景を浮かべるチャンスさえ与えられることなく、唐突とも思える話の展開が続くのです。
歴史的な事実を背景にした人間の物語と、その人間に関わる犬の血統の物語が、まるで「散文詩の」ように流れていくので、その流れに身を任せるしかなかったのでした。
言葉の表現やテンポを愉しむまでは出来ませんでしたが、読み終ってみると壮大な歴史を駆け抜けた達成感を感じさせる不思議な小説ではありました。