1970年代後半から1980年代、イラストレーターとして人気を博したメル・オドン(Mel Odom)を覚えている方っているのでしょうか?1980年代前半には、日本でも広告や雑誌に掲載され、画集も出版されたほどなので、彼の名前を知らなくてもイラストには見覚えがある方もいるかもしれません。
アンドロジナスな妖艶なまなざしが特徴的なイラストで、1970年代末期のブルーボーイ誌(きれいめのゲイ雑誌)やプレイボーイ誌に作品が掲載されて一躍人気を博しました。ホモセクシャルな官能性、アールヌボー的な装飾、アールデコな構図、テクノチックな未来っぽさ、ギリシャの肉体美、ベネチア的な絢爛さ・・・様々な要素を融合したスタイルは、まさに1980年前後のニューヨークの空気を絶妙に表現していたのです。ちょうど、この時期(1981年9月)にニューヨークに移住したばかりだったボクにとって、メル・オドンのイラストは、とても”ニューヨーク”を感じさせました。
パッと見は同時期に活躍していたペーター佐藤と同様にエアブラシによって描かれているイラストのように見えるのですが、背景やベタ部分にはグオッシュを使いシェーディング(影)や細部は色鉛筆によって丁寧にクロススティッチが駆使されています。まだ、コンピューターグラフィックスなんてもんが存在しなかった時代だからこそのテクニックとアナログな根気強さ(一枚の絵を完成するには最低でも2週間はかかるらしい)で描かれているのです。
何度かクラブでメル・オドンご本人を見かけたことがあるのですが・・・その頃、ニューヨークで活躍していたメンズファッションデザイナー/ブライアン・スコット・カー(Brian Scotto Carr)の服を着こなす”シャイなオネエさん”という印象で、自身のイラストにそっくりの”爬虫類顔”(目がギョロっとして離れていている)をしていたことには、個人的には妙に納得したものでした。画集に収録されているインタビューで好きな俳優として、テレンス・スタンプとウド・キアを挙げているのですが、確かに二人とも典型的な”爬虫類顔”です。イラストの世界観と自分自身のルックスと一致しているところは、ある意味、ゲイのクリエーターに”ありがち”なナルシシズムを感じさせます。
1980年代半ば以降、メル・オドンのイラストは急激に流行遅れのようになってしまったところはありますが、1990年代になると、Gene Doll/ジーン・ドール(1940~50年代のグラマーな女優をイメージした着せ替え人形)のデザイナーとしても活躍してカルト的な人気を博すのです。メル・オドンの表現する妖艶さとグラマラスな人形の世界観が一致した見事なコラボレーションと言えるでしょう。
現在(2019年)、大きくスタイルを変えることなく現役のイラストレーターとして活動をしています。ゲイ的なスタイルは控めに様々な媒体(メジャーな出版物からプライベートなポートレイトまで)での仕事を活発に行なっており、インスタグラムでも頻繁に発信・・・ホームページではオリジナルドローイングやプリントも販売されています。
ロンドンをベースにしたメンズファッションのブランド「QASIMI」の2019~20年秋冬コレクションでは、メル・オドンの往年のイラストをプリントしたシャツがコレクションが発表・・・1980年代調のリバイバルと共に、メル・オドンのイラストも再注目されているのかもしれません。
ボク自身のニューヨーク時代を振り返るとき・・・ゲイの友人やクリエーターの多くがAIDSで亡くなったことを思い、ついつい考え深くなってしまうことが多いのですが、今も変わらずに”活躍”されているメル・オドンの姿を拝見するのは、ボクにとって大変嬉しいことなのであります。
0 件のコメント:
コメントを投稿