2018/08/27

コレはコレで”有終の美”なのかもしれない・・・ジョーン・クロフォード最後の映画主演作品となってしまった低予算のモンスター映画~「地底の原始人 キングゴリラ/Trog」~


往年の”ハリウッドスター”は、それぞれのイメージによって”スター性”が確立されているのが一般的で、そのイメージに合ったもの以外の役柄を演じることは、あまりありませんでした。ジョーン・クロフォードのように、何度も何度もイメージを変えながら”スター(主演)”の座を守り続けたハリウッド女優のは数少ないかもしれません。

1920年代のサイレントからトーキーへ移行時には若手のフラッパー女優として注目され、1930年代ハリウッド黄金期には美人スター女優として君臨し、人気に陰りがみえてくる1940年代には演技派女優としても認知され、1950年にはB級映画に格下げして主演を貫き、1960年代には老女役までして主演し続けたのですから・・・。

結果的に、最後の主演作品(また劇場用映画としての最後の出演)となった本作「地底の原始人 キングゴリラ/Trog」は、ジョーン・クロフォード”初”(!)の「モンスター映画」で、45年に渡るフィルモグラフィーの中で「ワースト」に挙げられてしまうこともある”一作”であります。

1962年、ロバート・アルドリッチ監督の「何がジェーンが起こったか?」の成功で、ベテラン女優が醜悪な老女を演じる”サイコ・ビティ”(Psycho Biddy)に活路を見出すものの、再びベティ・デイヴィスとロバート・アルドリッチ監督と組むはずだった「ふるえて眠れ」を降板。その後、B級ギミック映画の帝王ウィリアム・キャッスル監督の「血だらけの惨劇/Strait-Jacket」「アイ・ソウ・ワット・ユー・デッド(原題)/I saw What You Did」に出演することになるのですが・・・ある種の格下げ感は否めません。

1950年代からはテレビ作品にも出演することがあったたジョーン・クロフォードではありましたが・・・1968年、ソープオペラ(昼ドラ)「ザ・シークレット・ストーム/The Secret Storm」で、養女クリスティーナの代役出演(4エピソード)という”奇行”にでます。当時64歳になっていたジョーン・クロフォードが、29歳だったクリスティーナが演じていた役柄を演じること自体が、不自然で無茶ということが分かりそうなものですが、その頃のジョーン・クロフォードのキャリアは、そこまで低迷していたということなのかもかもしれません。

1950年代からB級ホラー映画を制作するプロデューサーとしてイギリスで活動していたハーマン・コーエンと「姿なき殺人/Berserk!」で組んだ2年後、主演したのが本作なのです。監督をつとめたフレディ・フランシスは、1960年代~70年代に低予算のホラー映画(後にカルト映画となる)を数多く手掛けているのですが・・・ジャック・クレイトン監督の「回転」、デヴィット・リンチ監督の「エレファント・マン」「デューン/砂の惑星」「ストレート・ストーリー」マーティン・スコセッシ監督の「ケープ・フィアー」などで撮影監督として知られている人で、アカデミー撮影賞も1960年の「息子と恋人」と1989年の「グローリー」で二度受賞しているのです。本作の撮影監督はフレディ・フランシスではありませんが、ジャーロ映画を思い起こさせるような色彩(不思議に明るい洞窟内部など)だったりします。


肝心のお話は結構お粗末です。イギリスの片田舎の洞窟で、凶暴な原人(タイトルの”Trog”は原人という意味)が素人探検団(なんだ、っそりゃ?)によって発見されます。人類進化の”ミッシングリンク”の解明になると、ブロックトン博士(ジョーン・クロフォード)は自ら麻酔銃を手にして、原人を捕獲・・・自身の研究所においてさまざまな検証実験や知能訓練(?)を行なうのです。

ブロンドの髪のお人形を与えてみたら優しい心をのぞかせたり、クラシック音楽を聴かせると穏やかなのにロック音楽を聴かせると暴れ出したり、青や緑色には静かな反応なのに赤色にだけは興奮したり・・・と、まぁ予想どおりの結果を出すのですが、食事の与え方はとかげやさかなをバケツに入れて床に投げるという野生動物のような扱いであります。

凶暴な原人がいる街には人が寄り付かないという地元の不動産デベロッパーのマードック(マイケル・ガフ)に、ブロックトン博士は「原人は動物ではなく人間だ!」と訴えるのです。それだったら・・・原人に名前をつけてあげれば良いのにと思うのですが、博士は「Trog(トロッグ)」としか呼ばないのですから、人間扱いしていないのは博士自身のような気がします。

博士によると・・・トロッグは人類誕生前から冷凍保存されていたけれど解凍されて生き返ったのだと言い切ります。それを証明するかのように、トロッグに恐竜の骨格のスライド写真を見せると、恐竜たちの絶滅する姿がフラッシュバックするのですが・・・その映像がレイ・ハリーハウゼンが特殊技術を担当した「動物の世界」という映画の使い回し(それも引用というのは長め)というのも”トホホ”であります。

研究対象として公聴会で認められたトロッグの存在が邪魔なマードックは、ある夜、研究所に忍び込んで、トロッグを檻から逃がしてしまいます。凶暴化したトロッグは街中を破壊して、八百屋や肉屋を襲うのです。ここで、ボクが注目したのが・・・肉屋のオヤジを肉フックに串刺しにするというシーンであります。ホラー映画の名作「悪魔のいけにえ」の中でも惨たらしいのが”肉フックへの串刺しシーン”だと思うのですが...遡ること5年前に本作で描かれていたことに驚きです。


街中を徘徊したトロッグは、子供達の遊んでいる公園にたどり着き、ブロンドの少女をさらって洞窟へ帰ってしまいます。軍隊まで出動している騒ぎの中、ブロックトン博士はひとりで洞窟に侵入して、トロッグを強く叱責して見事に少女を救い出すのですが、この叱責ぶりにトロッグの凶暴性よりも何よりも恐怖を感じてしまうのは・・・「愛と憎しみの伝説」の養女虐待のトラウマからでしょうか・・・。


人類進化のミッシングリンク解明というテーマは、現代文明(ロック音楽とか不動産開発など)への安易な批判へとすり替わって、凡庸な展開になってしまうところが残念な一作ではあるのですが・・・一番の致命傷なのは、1950年代のB級モンスター映画並みのクオリティとしか思えないモンスターの特殊メイクの陳腐さです。本作の2年前に公開された「猿の惑星」で使われたマスクを流用したとも噂されていますが・・・顔の表情が殆ど変わることがないので、エキストラのゴリラ兵士役が使っていた安っぽい方のマスクにしか見えません。また、体は普通に裸の人間のまんまで、単なる”小太りのおっさん”なので、邦題となった”キングゴリラ”(巨大なゴリラ的なモンスター)を期待すると拍子抜けです。


ジョーン・クロフォードは「主演」に最後まで執着したスター女優であります。映画そのもののクオリティよりも、撮影現場で”主演女優”として特別に扱われることを必要としたのかもしれません。晩年の出演作品は低予算となり、ジョーン・クロフォード以外のキャストのギャラを削るしかなく、必然的に、脇を固める共演者はしょぼくなってしまい、ますますジョーン・クロフォードの”スター性”に依存するという悪循環に落ち入っていくのです。

本作では科学者を演じるということで、ジョーン・クロフォードらしい華やかな衣装はありません。しかし、フラットカラーの様々なバリエーションの衣装を、とっかえひっかえ披露しています。


キャラクターのブロンドの髪に合わせたのでしょうか・・・ビビットなスカイブルーをメインとしたトータルコーデで、全体的にはくすんだ色合いの画面の中で、で異様なほど浮き上がって見えます。七分袖のドレスやパンツスーツなど・・・1970年らしい”モダン”なスタイルではあるのですが、おそらくポリエステル混のコットン生地は明らかに安っぽい感じで、正直、ジョーン・クロフォードに似合っているかはビミョーです。それでも、ジョーン・クロフォードの役のためにデザインされた衣装であることは明白で、最後の最後まで主演女優としての”メンツ”は保たれたとは言えます。そういう観点では、コレでコレでジョーン・クロフォーッドらしい”有終の美”を飾ったのかもしれません。


本作は、トロッグが軍隊により殺害されてしまった後、地方局のアナウンサーの無神経なインタビューを遮って、現場を去る博士の後ろ姿で終わります。結果的に、これが劇場用映画でのジョーン・クロフォードの最後の姿となったわけですが・・・トロッグを殺されたことで悲痛を感じているブロックトン博士という役の演技以上の淋しさを、ボクは感じてしまうのです。


「地底の原始人 キングゴリラ」
原題/Trog
1970年/イギリス
監督 : フレディ・フランシス
出演 : ジョーン・クロフォード、マイケル・ガフ、バーナード・ケイ、キム・ブレーデン、デヴィット・グリフィン、ジョン・ハミル、ソーレイ・ウォーターズ、ジャック・メイ、ジョー・コミュリアス
日本劇場未公開、テレビ放映あり



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